第60話「この男のようにしたくなければ近づかないことだ。次に破砕するのは心臓かな」
池海さんも気づいたようだ。
僕の横にいる井下さんや加藤さんの様子に変化はない。やはり、デバイサーのみが知覚できる感覚か。
「誰だ?いるのは分かっている。一人で来いと言ったはずだ。立ち去らなければ人質の命はない」
池海さんが誰何の声を上げた。
絶望的とも言える敵戦力の精強さ。
だが、そんなことは関係ない。
「バースト」
「ごフッ!」
空気の破裂は小野澤の顔を破砕した。
鼻の骨などが折れ、流血した顔を晒している。
「正気か!?何をする!?」
池海さんの驚愕の声。
僕は構わず続ける。
「顔をこの男のようにしたくなければ近づかないことだ。次に破砕するのは心臓かな」
「…イカれてやがる」
そばにいる井下さんが声を絞り出すように言った。
「出てこい。木材谷マサオミ!」
僕は駐車場中央に出た。
「危険だ!止めろ!」
池海さんが静止にかかる。
だが、それも関係ない。
絶対に敵に譲歩などしてはならない。
「いいだろう」
現れたブランドスーツの中年。木材谷マサオミが駐車場中央に向かって歩いてくる。
奴は僕を冷めた目で見ている。
「貴様のデバイスを出して地面に置け」
奴は白いデバイスを胸ポケットから取り出して地面に置いた。
四インチ程度のアプリロイド端末のようである。
僕は次の要求を出す。
「本物だろうな?フェイクであれば小野澤キヨシは殺す」
「本物だ。確認すればいい」
確か設定アプリを開けば確認可能なはずだ。
「では五十歩下がれ」
奴はゆっくりと下がっていった。