第57話「情報も聞き出さず抹殺しようとするとは噂以上のイカれっぷりだな」
僕は即座に次の一撃を放った。
再び破裂する空気。
しかし、その攻撃は阻まれた。
「情報も聞き出さず抹殺しようとするとは噂以上のイカれっぷりだな」
小野澤の前に立ち、「ディライヴ」で攻撃を防いだのは帰ってきた池海さんだった。
右手には食料品の入ったレジ袋を持っている。
「逃げられそうだったんで焦っちゃいました。すみません」
僕は言った。嘘ではない。
「外の敵は片づけておいた。これからこの男の尋問を始めよう。田中君、いつでも撃てるようにしていてくれ」
「分かりました」
池海は小野澤の拘束を始めた。
デバイサー二人を相手に抵抗は無駄と悟ったか、彼は大人しかった。
「おい、井下、加藤、起きろ!仕事だぞ」
池海さんは床でのびている二人に気合いを入れた。
「…うーん」
二人は昼寝の途中で起こされたようにだらだらと起き上がろうとしていた。
尋問室というものが学校にある。
なかなかにシュールなものである。
僕たちは拘束した東京都教育庁の幹部である小野澤を尋問質に連行した。
部屋はスチール製の事務机、そして向かい合う事務机用の椅子があるだけの簡素なものである。
手錠をかけられた小野澤が椅子に座り、取り調べの刑事の如く向かい合うのは池海さんである。
僕と加藤さんと井下さんはその後ろに立っている。
「まずはあんたとあんたの背後関係について訊こうか。東京都教育庁粛清課長の小野澤キヨシで間違いないな?」
池海さんが僅かに威圧するような調子で尋問を始めた。
「…そうだ」
躊躇いがちに肯定する小野澤。
池海は尋問を続ける
「武蔵県教育総司令部に協力している軍の司令官はあんたか?」
「…そうだ」
やはり躊躇いがちに答える。
「他に武蔵県教育総司令部に協力する勢力はあるか?」
「…ないはずだ。私の知る限りではな」
「なぜ武蔵県教育総司令部に協力した?それを決定したのはあんたか?」
「抹殺するべき男が反乱軍の中にいたからだ。協力することを進言したのは私だ。決定したのは上だがな」
まあ、そんなところだろう。
「山林軍はどうなった?」
「反乱の首謀者である羽柴は処刑されて壊滅状態だ。他の主要な幹部も残党狩りで殆どは消されているだろうな」
予想はしていたことであるがショックだった。
だが、感傷に浸る時間などない。
問題は動機である。
「抹殺すべき男とは僕のことか?」
僕は訊いてみた。
「…そうだ」
「なぜだ?」
「娘に頼まれた。娘にとっての汚点だからだ」
その台詞に愕然とした。
元彼女とその父までもが僕の敵となり、攻め立てるのか。
いや、愕然としている暇などない。
降りかかる火の粉は払う。
そして、捕えた小野澤を有効活用するまでだ。
有力な人質。逆転の糸口は見えたか?