第56話「消されはしない。仲間を消させもしない」
確か、山林軍が敗れた要因の一つは中央軍が東京都教育庁と手を組んだことにあった。
「武蔵県教育総司令部に力を貸したのは我が娘にとって有害なお前を抹消するためだ」
僕に向かって手をかざし、何かを放つ。
それを衝撃波と判断するまで一瞬を要した。小野澤キヨシの発言に僅かながら動揺したからだ。
身を交わそうとしているがもう遅い。僕は衝撃波をまともに受ける。
そう思った瞬間、僕の前に人が現れた。
衝撃波はその人物に直撃した。
「加藤さん!」
加藤は倒れた。
「…あんたもデバイサーだろ?……俺たちの希望…」
それを言うのがやっとのようだった。
希望。その言葉を僕は反芻した。
僕は何のために戦ってきたのか?
弱者が虐げられるのが許せないからではなかったのか。
僕は弱い立場の人々の希望になるのではなかったのか?
今目の前で起こっていることは弱者が虐げられていることになりはしないのか?
無意識に僕は胸ポケットのアプリロイド端末を握りしめていた。
まだペアリングの画面のままのはずだ。
「消されはしない。仲間を消させもしない」
「黙れ!」
僕の敵、小野澤キヨシが衝撃波を放ってくる。
心は折れないはずだ。
なぜならば折れない心を手に入れたからだ。
戦う力は失われてはいない。
僕の中にはまだ底知れないエネルギーが眠っている。
僕はそれを今はっきりと知覚していた。
右手でペアリング済のPERデバイス搭載型アプリロイド端末を握りしめながら。
常駐アプリは共通だ。
「ディライヴ!」
僕を久しぶりに覆う精神エネルギーで作られた光の鎧。
質が違うような気がしたが関係ない。
衝撃波は光の鎧とぶつかり、あっさりと霧散する。
大した使い手ではない。
そして、攻撃に使えそうなアプリを起動してみる。
「バースト」
対象を小野澤キヨシにしてみる。
爆発が起きた。
敵の前で。
これは空気の破裂だろう。
風圧によって飛ばされた小野澤キヨシは全身に火傷を負いながらも、即座に起き上がり、逃走した。
この場所が知れた以上、奴を逃がすわけにはいかない。
再び発動したPERデバイス。