第51話「だから、お前のような無能は要らない。辞めてニートか、ホームレスになればいい。と言いたいところだが、反逆罪で極刑は免れないだろう」
彼はよく通る声で続けた。
「教諭兵組織を最適化することだ。少数精鋭で最強の教員組織だ。良く分かる楽しい授業ができて、学級経営も完璧にこなし、膨大な事務作業も勤務時間内に完全に終わらせる集中力と能力を持つ者だけで構成する。残業代が欲しいなどという輩はただの無能だ。保護者に足元を見られるような教諭兵は要らない」
そんな奴はいない。そう言いかけたが、彼の話の続きが気になった。
「教諭兵は今の五分の一でいい。私の求める能力水準を満たし、組織の一員となった者全員にPERデバイスを与え、精神を鍛え、国防の予備軍としても最強の組織とする。それが私の理想だ」
それが実現できたらどうなるのか。一瞬考えたが、とんでもない。僕にはそんなのは受け入れられない。
「だから、お前のような無能は要らない。辞めてニートか、ホームレスになればいい。と言いたいところだが、反逆罪で極刑は免れないだろう。いずれにせよお前に未来などない」
「自分の命は自分が決める!」
僕は宣言し、戦闘態勢に戻った。
奴が倒すべき存在であることには何も変わりはない。
だが、どうやって倒す?
「ベリー。奴のマスターはどこにいると思う?」
僕は小声で耳打ちした。
「マスターに武の心得があるかにもよるが、安全な場所だろう」
まあ、そうかもしれない。
「奴を何回か殺せばマスターがエネルギー切れになるのでは?」
「奴の戦闘力を考えるとそれは厳しいな。その前にこちらが倒れるだろう」
ベリーの冷静な分析。
やはり、奴のマスターを捜すしかない。でもどうやって?
その時、後方にいた新美さんが姿を現した。
「危ない!来ちゃだめだ!」
僕は叫んだ。
新美さんは構わず近づいてくる。
「確かに危ないわね」
台詞とは裏腹に危機感の欠片もない。
「貴方の相棒がね」
次の瞬間、僕は自分の五感を疑った。
ベリーの胸から刃が生えた。
信じがたい光景だ。
僕はまるで映画のワンシーンを見るようにそこに立ち尽くしていた。
「ベリー!!」
悲鳴を上げたのは僕だ。
その刃を手にしているのは彼女だ。そう、トモエ。山林軍の一員で僕の仲間であるはずの。
僕の最強の暗殺者が新美さんによって殺されてしまったかもしれない。
新美さんは手にしていた日本刀を引き抜いた。
鮮血が迸り、ベリーが地面に倒れる。
「なぜだ!?なぜこんなことをする!?」
「答える必要はないわね。これから死ぬ人に」
彼女は僕を殺すつもりらしい。
僕は冷静さを取り戻した。
ベリーは死んでも再度実体化できる。僕が死ななければいいのだ。
新美トモエは敵だ。その事実を受け入れるしかない。
この戦場において、生き残るための最善策。それを模索すべきだ。
撤退の二文字が頭をよぎるが、ここまで来て引き返すなんて絶対に嫌だ。
彼女を倒し、木材谷を殺す。
それができれば山林軍は勝利だろう。
何が何でも勝利を掴む。
僕は無造作に刃を放った。牽制のためだ。
彼女は剣士のようにそれを日本刀で切り裂いて見せた。
やはり、僕の知っている彼女ではない。
しかし、彼女が剣道部出身であったはずだ。そして弓道の心得もあるはずだった。
彼女の後姿は武人のようなオーラを纏っている。
「刀で遊んでいる場合か?その負け犬を消せ」
「はっ」
木材谷に恭しく一礼し、僕に向き直る。
受け入れがたい光景だ。
こんな最低の男にまるで臣下の礼をとるような態度を見せるとは。
「田中!逃げろ!俺たちは挟撃されてる。東京都教育庁軍に」
劣勢・裏切り・敵の増援。絶望的な状況。エイタとベリーの選択は?