第50話「奴がDMデバイスで実体化された存在であるなら、データを入れたディスクなり端末なりがあるはずだ。それを破壊すればいい。或いは・・・」
「DMデバイス」
乾いた声で呟いた僕。
同意するベリー。
「ああ。もっと早く気付けたはずだった。迂闊だったな」
そうかもしれない。しかし、あの時点では敵がPERデバイスを持っていることすら知らなかった。想像するのは難しいことだったとも言える。
「奴がDMデバイスで実体化された存在であるなら、データを入れたディスクなり端末なりがあるはずだ。それを破壊すればいい、或いは・・・」
言いかけた僕にベリーは、
「或いはエネルギーの供給者を殺せば」
「奴を倒せる」
これで奴が不死身でもなんでもないことが分かった。
しかし、敵にベリーの弱点が知られている可能性も否定できなかった。
確か、DMデバイスはペアリングの相手を変更することができないらしい。エネルギー供給者であるペアリング相手を殺せばデータが健在であったとしても実体化はできない。
僕が死ねば、ベリーは実体化不能になるのだ。
奴が実体化するとすれば、近くにエネルギー供給者がいることになる。
「ベリー。どちらを狙う?」
「より容易にできる方だ」
端末ならば簡単に隠すことができ、見つけるのは容易ではない。
しかし、エネルギーの供給者は人間だ。人間は生活する必要があり、それには様々な行動が伴う。痕跡は残る。だから、エネルギーの供給者、つまりはマスターを殺す方がどちらかといえば容易であると言えるかもしれない。だが、それでも困難なことには変わりはない。
そして、木材谷が実体化されていく様を僕たちは目の当たりにした。
「出たな」
幽霊でも出たような表現をベリーが口にした。
「まさか、お前のような負け犬に殺されるとはな」
木材谷が口を開く。
その物言いに彼に味わわされた悪夢が脳裏をよぎったが、それを振り払い、彼を観察した。
様子に変わったところはない。
スーツまでもが新品のように戻っている。
スーツもデータの一部なのだろう。
再度実体化されたということはリセットされたということになるが、記憶は消えないらしい。
恐らく、脳内のデータのみクラウドか何かに常時バックアップされているのだろう。
「何度でも殺す。消えるまで」
僕は言った。
「無理だな。お前の様な何の取り柄もなく、何の役に立たない人間には殺せない。さあ、給料を返せ。お前は一円の付加価値も生み出していない」
木材谷は嘲笑をにじませながら言う。
だが、こんなものは雑音だ。
今の僕に精神攻撃は届かない。
心は折れないし、揺らぎもしない。
「お前の目的は何だ?反逆者」
「僕は弱い者が虐げられるのが嫌いだ。それをなくすために戦う」
僕は木材谷の表情を読もうとした。彼の反応が知りたかったのだ。
彼は僅かに呆れたような顔をしていた。
「迷惑な話だな。いつの時代もそうやって駄々をこねる連中がいるから発展は遅くなる」
傲慢極まりないことを平然と言い放つ。
「だったら、どうしろと?」
僕は質問をしてみた。
「弱者は淘汰されればいい。教えてやろう。今、私が作ろうとしているものを」
宿敵が語りだした「作ろうとしているもの」とは?