第46話「奴は私のターゲットだ。手を出さないでもらおうか」
互いに犠牲者を出しつつも山林軍の包囲網は狭まっている。
このままいけば勝利はそう遠くない。
僕は河越城の城壁を超えることに成功した。
谷岡の撤退と共に付近の中央軍は後退していった。
「やったな!田中!」
軍師の河上河上先輩が城壁を超えて姿を現した。
新美さんとテラ君もいる。
「ええ。ですが、本番はここからです。中央軍を降伏させるか殲滅するかするまでは勝利ではありません」
今や兵力の差は殆どないと言ってよい。
勝敗を分けるのはPERデバイス。そして、その使い手であるデバイサーが戦略兵器である。
つまりは、僕たちのことである。
僕たちは本丸である河越市庁舎に向かって走り出した。
アスファルトが小気味良く足に反動を伝えてくる。足取りは軽い。
とにかく走った。
味方の軍は更に包囲を狭めているようだった。
河越城の防衛隊が姿を現す。
僕たちはそこに正面から突っ込んだ。
強行突破の構えだ。
左翼から黒い疾風の如くベリーが飛び出す。
叫喚の声をと共に敵が倒れていく。
僕は見えざる刃で敵をなぎ倒す。
デバイサーが現ることはなく、無人の野を行くが如く僕たちは進んだ。
庁舎の入り口が目の前に姿を現した。
ガラス製の何の変哲もない扉だ。
こんなものを突破するのは造作もないことだ。
そして、僕は扉の前に出現したその存在を理解するのにかなりの時間を要した。
本来ならば直感で認識できる相手であるのに。
いや、僕はすぐに理解せずに味わいたかったのかもしれない。
楽しみすぎて。
僕はブランドのスーツに身を包み、仁王立ちしている中年男に向かって言い放った。
「木材谷マサオミ。貴様は殺す」
僕の口から出た生の殺意。
しかし、それを制したのは敵ではなかった。
「奴は私のターゲットだ。手を出さないでもらおうか」
僕の暗殺者であるベリー。
彼にとって僕はクライアントである。
「分かった。必ず奴を殺せ」という言葉を僕は飲み込んだ。
彼は僕の暗殺者であるという点に疑念を持ったからではない。
本当にあの男を殺すべきはベリーなのか?という疑問があったからだ。
「僕もやる」
「駄目だ。君は先に行け」
ベリーはこちらを振り向きもせず却下した。
目の前にいる不遜な男は僕たちのやりとりを黙って見ている。
「さっきは僕に任せてくれたじゃないか?何で駄目なんだ?」
僕はとんでもなく高揚していたのだ。戦場でベリーの背中を任されたことで。
「この男は私のターゲットだ。たとえ、クライアントである君であっても渡せない」
ベリーの暗殺者としてのプロ意識がエイタとぶつかる。