第45話「エイタ、君に助けられた」
ベリーはナイフで谷岡と切り結んでいた。小刻みな金属音が響いてくる。
僕は素人だが、彼らの技量が僕を圧倒するものであるということだけは分かった。
割って入るなど到底無理だ。いや、割って入る必要などはないと僕は思っている。
しかし、ベリーとこれだけ長く戦うことのできた敵は初めてである。
互いに物理攻撃で牽制し合っていてPERデバイスを使うタイミングを窺っているのだろう。
敵は僕に対応する余裕はないはずだ。
ベリーを助ける。
そんなことは絵空事かと思っていた。なぜならば、ベリーはあまりにも強い、本物のプロだと思っていたからだ。
それにしてもこのリーチ差でよく戦えるものだ。ベリーの武器はナイフであるのに対して谷岡は金属製の薙刀。ベリーは薙刀の斬撃をナイフで器用に受け止め、或いは受け流し、閃光のような攻撃を繰り出していた。剣道三倍段などとよく言われるが、この条件で互角以上に戦えるのはベリーが谷岡の技量の三倍以上であることを示しているとも言える。
僕は狙いを定めようと意識を集中した。速いが、目で追えないスピードではない。ただ、僕の攻撃がベリーに当たってしまう事態だけは避けたかった。
谷岡の鬼神の如き一撃がベリーの脇腹へ入ろうとし、ベリーはそれを済んでのところで受け流す。
その瞬間を狙い、怒りの刃を研ぎ澄ませ、放つ。
谷岡はこちらに一瞬注意を向けたように見えた。
見えている。しかし、その刃だけに対応しようとすれば、その瞬間にベリーに葬られる。
彼はベリーの攻撃を受け止めた反動を利用して、後方に跳び、胸を反らすことでかわす。その筈だったが、彼の反応が間に合わなかったのか、その刃は胸を浅く薙いでいた。
それは彼に撤退を決意させるのに十分なダメージだった。いくら彼が強くても、万全の状態でこそベリーと互角に戦えるのである。
手負いの身では到底敵う相手ではなかった。
谷岡はベリーとの距離をとった。
そして、そのまま撤退していく。
「エイタ。君に助けられた」
ベリーは振り向いて言った。
「まさか。僕が何もしなくても勝ったでしょ?」
「正直、危なかった。それほどにあの男は強い。できればこの場で仕留めたかったが」
ベリーがそこまで言うほどの相手か。僕の知る限り初めてである。
「さて、どうする?エイタ?」
ベリーが質問してくる。その表情には僅かながら疲労が見えた。本当に僅かなものではあったが。
「決まっている」
僕は答えた。
「圧制者を打倒する」