第44話「今の僕を相手に油断すれば、相応の代償を払うことになる」
ベリーの手に握られているのは暗殺ナイフ。
今までとは違う。いつもならベリーは暗殺者で僕はクライアント。僕に背中を任せるなんてしなかったはずだ。僕はベリーに背中を任された。僕はベリーにとってクライアントだったのにその台詞によって仲間になったように思えた。
同時に高揚感が僕を包んだ。ベリーのような超一流の暗殺者と肩を並べたこともそうだが、ベリーの仲間として認められたような気がして嬉しかったのだ。
嬉しい?そんな感情がまだある。その事実を噛みしめ僕はチャラい元同僚を見据えた。僕の敵の目線は相変わらず見下したような目線だ。つまり、油断している。
今の僕を相手に油断すれば、相応の代償を払うことになる。思い知らせてやる!
上杉は鉄パイプを振り下ろしてきた。単調で直線的な動きだ。ナメられている。
僕は右腕でそれを受ける。精神力を集中させて。
右腕がまばゆい光を放つほど精神力は集中している。
鉄パイプが折れ飛んだ。
上杉の表情に僅かな動揺が見える。
僕はその瞬間を見過ごさなかった。
そこで彼の腹に拳を叩きこむ。
精神力を集中させた拳だ。僕に強力なパンチを繰り出す筋力はない。だが、その精神力を込めた拳は彼の腹に深く突き刺さった。
「グホっ!」
呻き声と共に彼はよろめく。
僕のパンチそのものに大した威力はない。
彼はまだ油断している。
実際、大したダメージにはなっていないようだ。
上杉はすぐに体態勢を立て直し、僕に肉弾戦を挑んでくる。僕はPERデバイスによる攻撃を警戒していたが、この局面でも使ってこない。
どうやら、肉体が武器であるこの男は、PERデバイスを肉体強化にのみ利用しているようである。
筋肉と精神の力で防御力はかなり高くなっている。
ナイブスでも削っていけるだろうが、決定打にはならない。
時間もない。
それならば、そのガードを上回る威力で貫くのみである。
僕はショートカットキーでPERデバイスアプリを起動する。
普通の人間ならば起動することも敵わないあのアプリだ。
このアプリならば、今ならば彼を葬ることは造作もない。
だが、確実に当てる必要がある。
僕は、腕を中心に全身をオーラで覆った。
これで少しは彼の体術を防げる。
拳の弾幕が襲ってくる。
腕の痛みは骨折を連想させる程だ。
だが、まだ防げている。
あと一秒防げれば、あれを発動できる。
長い一秒だ。
でも耐えた。
思い知れ!
「ブラストスルー」
もうアプリは起動しているのでアプリ名を口にする必要などはない。
しかし、口にしたかったのだ。
彼を葬る瞬間の台詞を。
巨大な光の槍に貫かれた彼の姿を見ながら僕は平然と思った。
ベリーをサポートしなければ。
クライアントではなく仲間としてベリーとの約束を果たし、彼の援護に向かう。