第43話「だが、残念ながら君を守りながらは戦えそうにない。あの巨漢は君一人で殺れ」
見知った顔だ。
「田中だな。観念しろ」
「谷岡先生!」
氷の様な目で見下すようにそう言ってきたのは鬼ヶ島の頃、共に働いたことがある谷岡主幹教諭兵だ。僕の右方向に立っている。
三三歳で教務主任となり、出世街道をエリートだ。今は三五歳のはずである。アプリロイド端末と薙刀を携えている。
だが、見知った顔はそれだけではなかった。
「調子に乗るなよ。戦力もデバイサーの質も中央軍の方が上だぜ!降伏するのはお前たちの方なんじゃないの?」
左方向からのバカにしたような軽い口調には嫌というほど聞き覚えがあった。新美さんのセクハラ相手にして、ゴマすり上手の体育会系。九十キロ近くも重量のある巨漢の上杉教諭兵である。やはり、アプリロイド端末を持っていて、武器は鉄パイプである。
嫌な二人が現れたものである。
これで僕は城壁の上で挟まれた格好になる。
「久しぶりですね」
僕はそれだけを言った。元同僚と上司でも今は倒すべき相手。言葉は必要ない。
「ベリー!」
僕はエネルギー節約のために端末内に収まってもらっていたベリーを実体化した。
デバイサー二人を相手にするのは危険だ。それに、敵にはベリーの存在はもう知られているとみて間違いない。
となれば隠す意味もない。共闘して敵を倒すのみ。
僕たちは背中合わせで敵と対峙した。
「やろうってのか?この状況で?アホじゃないの?」
戦う姿勢を感じ取った上杉教諭兵が無駄に声を張り上げる。腹が立つがこの際、どうでもいい。
「エイタ、油断するな。彼らは私が一対一で戦っても手こずるだろう」
ベリーがそっと僕に耳打ちした。それほどの相手か。
「あんたらのクビを取って木材谷閣下への手土産にしてやるよ!」
よくしゃべる奴だ。「木材谷」という単語に僕の目は鋭さを増したのが分かった。
「ナイブス」は起動済みだ。
見えざる刃を放つ。
鳴り響く金属音。防がれたことを直感した。
敵にはこちらの攻撃が見えているであろうことは想定内だ。
どうやら、敵のPERデバイス攻撃を可視化するアプリは各社に存在するらしい。
構わず僕はよくしゃべる元同僚に刃を放ち続ける。
「薙刀の男はかなりできるな。あれは私がやる。だが、残念ながら君を守りながらは戦えそうにない。あの巨漢は君一人で殺れ」
そう言うか言わないかのうちにベリーは谷岡主幹教諭兵に向かっていった。
ベリーと互角に戦えるほどの強敵が現れた。
そして、エイタは上杉との一騎打ちに臨む。