第42話「河越城は包囲された。勧告に従わなければ、我々は実力をもって殲滅する」
生きることが戦いだというのならば戦う。
金属の城壁をよじ登っていく僕を止める味方がもはやいない。
僕を止められる敵もいない。
怒号が鳴り響き、銃口が一斉にこちらを向いたのが分かった。
降り注ぐ銃弾は銃声を伴わなかった。
金属製の銃弾ではあるが、これは実弾ではない。
要するに強力なエアーガンだ。
これだけ大量に配備されているとなるとボビーショップの協力もあるのかもしれないが、そんなことは関係ない。僕には効果のない攻撃だ。
僕はあっさりと城壁を登り切った。周囲には直径三ミリ程の銀色の球が大量に落ちている。ご苦労なことだ。
「中央軍に告ぐ!いや、全ての働く者よ!時は来た!」
僕の声は更に遠くまで通るようになっていた。
「今こそ圧制者を打倒すべき時だ!」
「私は那華田ユキナリに天誅を下した。そして、社員を虐げるブラック企業たる株式会社及び の経営陣を抹殺し、社員を解放した」
「今一度問う!弱者は虐げるべきものか?」
「強者は常に正しいか?」
「人を統べるものとは何だ?」
僕は呼びかけた。
「仕事とは何だ?」
金属球の銃弾が降り注ぐ。
「生きるとは何だ?」
防ぐためにもエネルギーは消費する。
だが、こんな時、無限の力が湧いてくるような気がするのだ。
「河越城は包囲された。勧告に従わなければ、我々は実力をもって殲滅する」
こんな台詞がすらすらと出てくることにもなれてきた。戦う覚悟を決めた時から、こうなるようにプログラムされていたのかもしれない。
体調不良だと思い込めば、本当に具合が悪くなる。それと同様に、強く念じたことは実際に体に作用するのだ。
僕は敵の反応を観察した。
暴動などが起こる気配はない。
攻撃が効かないとなれば、デバイサーが出てくるかもしれない。
それには対処しなければならない。
河越城が完全に包囲されているのは事実である。はったりではない。
僕も敵が簡単に降伏するとは思っていない。
この後、何らかの動きがあるはずだ。
それを見極める。
不意に敵の攻撃が止んだ。
デバイサーが現れるか?
戦いを止める様子は見られない。
アプリロイド社のPERデバイスアプリについて一般論のレクチャーをベリーから受けていたが、最新のアプリや敵がどう使ってくるかなどについては実際に戦ってみないと分からない。
僕は周囲を警戒した。
攻撃用のアプリは既に起動している。迎え撃つ準備はできているのだ。
僕は反射的に飛び退いた。
攻撃の気配を感じたのだ。殺気の様な。
僕は避けきれていなかった。
ガードに用いていた精神力で生み出したオーラのうち肩の部分がごっそりと持っていかれていた。
間違いない。デバイサーが現れた。しかも、こちらのガードをあっさりと突き破る能力を持っている。
その男は姿を隠すでもなく、目の前に現れた。
現れた男とは?