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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第十章「河越城決戦」
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第41話「両親に与えられた命を全うすること。それが唯一の正しさ」

 次なる目標は河越城である。江戸時代は江戸の北の守りとして重要視されたこの城は、河越市役所となっており、河越市教育委員会が置かれている。現在、中央軍の西の守りとして最重要視されている城である。行政職員ら非戦闘員は既に避難を済ませている。

 ここに集っている兵力は二万であろうと推定された。

 その数字を出したのは意識を取り戻した河上先輩だった。

 麻馬野城塞の兵力が一万二千で、千人程は戦死し、残りの一万千は城外に出たが、山林軍に入ったのが二千。脱走兵となったのが千。そして、七千が反逆罪に問われることを恐れて河越城に入った。その七千と元々河越城にいた兵力を足すと丁度二万という計算になるのだという。

 二万人とはかなりの兵力である。しかも、河越市では独自の教諭兵強化システムによって教諭兵の戦闘力を強化している。

 そこに、実戦を経験した七千の兵力が加われば、精鋭の大部隊の完成である。

山林軍の兵力が増大し、兵の練度が上がったとはいえ、これは麻馬野城塞での戦いよりも状況は厳しいといえた。

それでも必ず勝たなければならない。ここまでやった以上、負けは死を意味する。勝った者が正義だなんて欠片も思わないが、負ければ反逆者として処刑になるだろう。中途半端な反逆で終わってはいけない。必ず勝利し、この世界に風穴を空けるのだ。


 十一月二日は軍の再編成に費やされ、一一月三日の夜明けとともに、山林軍は進軍を開始した。県道三十九号線をひたすら東へと進む。ここから、河越城までは、車で僅か三十分程度の道のりである。

山林軍は周辺の中小ブラック企業を解放して回った。やったことは実力行使による経営陣の追放である。その会社数は三十社に上る。これにより、それらの社員が味方となり、山林軍に加わった。

山林軍は再編成されていた。

 山中軍が主力部隊として、二千の兵を加え五千を超える大軍となった。東堂軍は元ブラック企業の社員達を迎え、五千近い大軍なった。と特殊部隊についてはこれまでと同様だった。

 河越城を落とせば状況は一変する。河越城は中央軍にとって最重要な防衛拠点と言っても過言ではない。武蔵県教育総司令部と山林軍の間には、もはや河越城しかないのだ。

 河越城が近づくに連れ、軍全体の緊張感が増していくのが分かった。

 彼らも決戦だと承知しているのだ。負けるわけにはいかない。

入魔川を渡っていく山林軍の上を冷気を含んだ乾いた風が駆け抜けていく。冬は近い。

河越市内に入り、伝統的な街並みが姿を現してきた。

僕たちは川を渡って、再び本隊とは別行動となった。遊撃部隊としての任務を果たすためである。

県道を外れ、駄菓子屋が並ぶ横町を抜けていく。普段であれば外国人観光客などで賑わうこの通りであるが、この状況下では閑散としていることは言うまでもない。

 もう敵地である。いつ敵が現れてもおかしくはない。

僕は神経を集中した。どんな敵がいても感知できそうな気がする。そんな能力に目覚めたのではないか?そう錯覚させるほどに僕の意識は鮮明で感覚が研ぎ澄まされている。

疲労もとうに限界を超えているはずである。しかしながら、体は重くなるどころか、更に軽快さを増してきたようにさえ思える。

 僕の体の中で、精神の中で何かが変わりつつある。

 戦う覚悟をすることもごく自然にできる。自然すぎて気づかなかったが以前の僕は、戦うことなどできなかったはずである。

戦士になれたということなのか。

 戦士になった僕達を試すように、眼前に現れたのは鋼のカーテンとでも言うべきものであった。

 巨大な金属製の城壁で、高さは五メートルといったところか。

 城壁の上には敵の大部隊が待ち構えているのを物陰から確認した。

 皆、一様に拳銃らしきものを手にしている。

だが、本物であるかどうかは分からない。

 教諭兵の存在自体が混乱を起こした存在で、世間の批判の的である。その処理は教諭兵の組織に任されることになった。しかし、うまくいっていない。だからといって鎮圧する側である中央軍に武器を供与しても戦いを激化させることになってしまう。それに、今や信用の薄い組織となった教諭兵たちにそんなものは渡せないだろう。

それでも、中央軍の装備に変化があったことは確かだ。

 そうだとしても、やることに変わりはない。

 僕は迷わず進み出た。

全身をオーラで包んで。防御力は極大化してある。それは僕の覚悟の大きさ。

 もはや戦い方に迷いはない。

 前進あるのみ。

前だけを向いて戦うのだ。

 負けられない。

なぜなら僕は生きなければならないからだ。

 両親に与えられた命を全うすること。それが唯一の正しさ。

 負けることは死を意味する。

 そして、降りかかる火の粉を払わないことも死を意味する。

 この戦いは僕が起こしたようなものだが、僕は初めから逃げられない戦場に立っている。

逃げられない戦場にいるというのならば戦場を戦場ではない場所にしてしまえばいい。

 勝利によって。

生きることをためらう必要はない。

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