第39話「貴方たちは大切にされていますか?人間として扱われていますか?」
その声は校舎内全てに声が届いているという実感があった。
「貴方たちは大切にされていますか?人間として扱われていますか?」
その間も石の雨は止まない。
「貴方たちは奴隷ではありませんか?」
僕は構わず続けた。
爆薬が再び降ってきたが、今度は防ぎもしなかった。
僕の頭上で爆発が起こった。
PERデバイスによる爆薬であろう。僕は屋上に立っているそのデバイサーを睨みつけた。
五〇代半ばであろうスーツ姿の男は城主である教育総本部教諭兵戦術課の課長である那華田ユキナリ中将だ。
「…奴はイカれている!」
彼は茫然と僕を見下ろしていた。
僕は更に続けた。
「奴隷たちよ。貴方たちには休憩もなく早朝から深夜まで働かされ、残業代は存在しない!」
更に声を張り上げ、
「社会的に発言力の低い立場に置かれ、文句は言えない!」
まだまだ、言い足りない。
「そんな状況にも関わらず、助けるどころか更に追い詰めるようなことばかりをするのは誰だ!」
僕の脳裏をある顔がよぎった。心労から病死した母の顔。
「人生は誰のためにある!?」
過労から意識を失い、事故死した弟の顔。
「我々を支配している者たちは弱者を虐げる圧制者だ。それを知りながらいつまで頭を垂れているのだ!?」
上司に追い詰められ、自殺を選んだ同期の顔。
「我々は圧制者を打倒するために立ち上がった同志だ。共に圧制者を打倒すべきだ!」
目の前で過労死したコンビニの店長の最期の顔。
「圧制者を打倒せよ!」
かつて、借金苦で保険金のために死んだ父の顔。
僕は更に声を絞り出す。
「圧制者を打倒せよ!」
教諭兵たちに動揺が走るのが分かった。
「よせ!耳を貸すな。奴はイカれている。まともじゃない!」
ざわめきは止まらない。
「打倒せよ!」
この声がとどめになった。
城内で怒号が鳴り響く。これは僕に対してのものではない。
圧制者に対してのものだ。
窓からスーツ姿の男たちが降ってくる。指導主事や戦隊長であろう。
圧制者たる彼らは地面に叩きつけられ、人血の泉を作る。
「よくやった!我々に協力する者は城外に出ろ!」
昇降口から教諭兵があふれ出してくる。
彼らはそのまま裏門から出て行った。
我に帰ったデバイサーの那華田ユキナリ中将が再び爆弾を放ってくる。
ゴールドベリーも甘く見られたものである。
PERデバイス内蔵型ゴールドベリーは使用者を選ぶ上にスマートフォンとしては低機能になってしまったがアプリ起動の速さと発動の速さ、精度共に他社製を遥かに凌ぐ。代償も大きいが威力はそれ以上だ。
従ってこんなもの、わざわざ攻撃アプリを発動させる必要もない。
今度は僕は平手討ちで跳ね返した。
その爆弾は丁度、二階の校長室あたりに炸裂して大爆発を起こす。
もはや、判断力を失っているらしい。
一本調子に爆弾を送り続ける城主の那華田ユキナリ。
その度に校舎が破壊されていく。
そして、不意に僕の体が揺らめいた。
地震だ。それもかなり大きな。
体感的には震度五強といったところか。
校舎が目で見て分かるほど揺れている。
正常な状態なら揺れなど目に見えなかったであろう。
しかし、満身創痍の校舎にとっては大きすぎる揺れだ。
「ぐわぁああぁぁぁぁぁぁl!!」
那華田ユキナリの叫喚の声は、倒壊した校舎と共に奈落へと落ちていった。
エイタの怒りが大地を揺るがす。