第36話「多分、籠城するんだ。エイ君は知ってるだろ?麻馬野城塞がどんなモノか」
麻馬野城塞を目前にして、僕達は再び敵部隊に出くわした。今度は身のこなしからして体育教諭兵のようだった。指導主事らしきスーツ姿の男が指揮官だ。
再び建物の陰に身を隠し、遊撃戦の構えをとる。
『ナイブス』は起動済みだ。いつでも攻撃可能である。狙うならやはり指揮官だ。
僕は早速、指揮官に狙いを定めた。
そして、刃を放つ。
「ぐあッ!」
首に傷を受け、あっさりと倒れる指揮官の指導主事。
「敵だ!敵がいるぞ!」
突然、指揮官が血を流して倒れたことで声を上げる隊員達。
「どうした!」
他の部隊が駆けつけてくる。
同じような小隊だ。
僕は再び刃を放った。
もう一人の指揮官も地に倒れ伏す。
「何だ!どういうことだ!?敵はどこにいる!」
何人かはパニック状態に陥っている。
「こちら、風間隊です。敵襲です。指導主事は戦死されました。増援をお願いします!」
一人は冷静に本部に連絡を取っている。
このように僕たちはPERデバイスの特性を生かしたゲリラ戦を展開した。
増援部隊が続々と駆けつけ、続々と倒れていく。
これでかなりの戦力を分散させ、削ることもできたはずである。
しかし、五人で戦うにも限界はある。
その上、そろそろ、敵が異変に気付く頃合いだ。どの程度の数であるかは分からないが、敵のデバイサーが現れる可能性が高い。
そうなれば、この戦いの勝算は薄くなる。
何としてもそうなる前に敵をかく乱した上で戦力をこの場に引きつけ、戦力を出来るだけ削り、主力部隊を勝利させなければならない。
そして、僕たちがPERデバイスの度重なる使用に精神的疲労を感じ始めた頃、敵の様子に変化が表れた。
「敵が撤退していくわ」
敵が退いていく様子を見て新美さんが声を上げた。
「これって、勝ったってこと?」
誰に対してというわけでなく質問を投げかける新美さん。
「いや。違う。そんな甘い相手じゃないぜ。中央軍は」
答えたのはテラ君だった。僕もそう思う。
「多分、籠城するんだ。エイ君は知ってるだろ?麻馬野城塞がどんなモノか」
無論、知っている。今まで行ったことはないが、あれは全国的にも有名な学校だ。ある事件をきっかけに有名になったのだ。城塞とも呼べる学校として。
「麻馬野小事件か」
僕は、恐るべきその単語を口にした。
籠城の目的は? 恐るべき事件とは?