第32話「時間がない。強行突破するしかない」
敵の数は数えたところ十二名だ。
それでも、どうにか越坂部川を渡って、任務を果たさなければ勝利はない。
「時間がない強行突破するしかない」
僕の口をついて出た言葉はなかなかに過激なものであった。
太陽が南中している。もう正午頃か。
「そのようだな」
意外にもベリーは同意した。
言うが早いか、ベリーはもう攻撃を始めていた。
黒い疾風が橋上を駆け抜けた。
その様子に気づいた中央軍の教諭兵三人が反応し、木刀とさすまたで応戦の構えを見せた。
しかし、時既に遅し。ベリーの手にしていたナイフが一閃し、敵の喉元を薙いでいた。
三人がその場に倒れた。それを見て怯んだ後ろの教諭兵達が逃げ腰になる。
「ナイブス」
僕の生み出した見えざる刃がその一人を木刀ごと切り裂く。
これで四人。
その間、成す術もなくベリーに間合いを詰められた体育教諭兵と思しき中央軍兵士がベリーを近づけまいとしてさすまたを突き出すが、ベリーは跳躍し、顔面に蹴りを入れる。そして、もんどりうって倒れた体育教諭兵の胸元に音もなくナイフを突き立てる。そしてすぐに引き抜く。
深紅に染まるジャージに目もくれず、次の敵に向かっていく。
無駄がない。ベリーにとって殺すことは呼吸をするのと同じようなものだ。
そして、呼吸の回数を数えようと思う人はいない。
ここで敵わないことを悟ったのか、残りの七人が撤退していく。
この程度の相手にいちいち作戦など必要ない。そう言わんばかりの速攻だった。
先手必勝、一撃必殺、不意を突く。その基本は忠実に守られていた。
ベリーの電光石火の戦いぶりに、隊員たちは唖然としていた。
今回の戦闘において、ベリーはPERデバイスを使っていない。
PERデバイスなしでの近接戦闘でも、これほどまでにベリーは強い。
「強い」
感嘆の声を上げたのはテラ君だった。
遺憾なく力を発揮するベリー。戦いは続いていく。