第31話「貴方たちが店長の仇を討ってくれるんですよね?」
名前をずばりと当てられ、返答に困る僕。
「エリアマネージャーから聞いています。ここにある食料品をどうぞ持って行って下さい」
「そ、そうですか。とてもありがたいですが、本当に良いんですか?」
「はい。持って行って下さい。松葉さんのためにも」
店長の名前を聞き、僕は僅かに胸の痛みを覚えた。
「どういうことでしょうか?」
話の流れが分からなかった。店長は僕たちのために死んだようなものなのに。
「貴方たちは私たちのような弱者のために戦ってくれているのですよね?」
それは確かにそうだ。女性店員は続けた。
「そして、貴方たちが店長の仇を討ってくれるんですよね?菅谷さんが言っていました。菅谷さんも松葉さんもエリアマネージャーが我が子のように育ててきた社員なんです。菅谷さんがエリアマネージャーにできるだけ多くの店舗を山林軍に協力してくれるように働きかけたんです。その結果、山林郡内の店舗は山林軍に協力することになったんです」
「そんなことして大丈夫なんですか?ナイン&T本部が黙っていないんじゃ?」
「それを言うなら、貴方たちだって教育総本部が黙っていませんよ?」
「まあ、そうですけど」
彼女の目は覚悟を決めた者の目だ。僕達と同じく立ち向かう者だ。
何だか、僕は心強くなってきた。
「ありがとうございます!協力に感謝します。では、仲間を呼んできますので」
僕は店の外で待機している仲間たちを呼びに行った。
みんな、一瞬は僕の話が信じられない様子だったが、説明を聞いてすぐに店内に入ってきた。
そして、本隊に連絡し、軽トラックを二台コンビニに回してもらった。
荷物を積むのは本隊にやってもらえることになった。僕たちは自分たちの分の食料のみを貰い、隠密行動に戻った。
これで、補給の面でかなり有利になった。山林地区内限定とはいえ、コンビニが味方してくれたのである。
本隊は南松山市内を抜け、阪戸市内に入ろうとしていた。目の前を流れる越坂部川を超えれば、そこは敵軍の領域内である。
これから、越坂部川の戦いが始まる。
越坂部川にかかる橋、高山橋の上は片側二車線の道路の両側に歩道がある。
対岸には、敵である西方司令部の大部隊が待ち受けていた。堤防を埋め尽くすスーツやジャージの大人たち。その手にしている武器はやはり棒切れやさすまたなどである。
だが、互いに攻撃を仕掛けることはできずにいた。その理由は両軍の装備にあった。どちらも、有事の際には武器を持って戦うことを形式上は訓練されており、彼らのための武器も存在するのだが、国防軍としての装備の使用許可が下りていない。そのため、彼らの軍としての装備のレベルは江戸時代以下である。農民の一揆レベルである。
本来なら反乱を鎮圧する側である中央軍には装備の使用許可が下りてもよさそうなものなのだが、民衆を巻き込む可能性があることを理由に許可は下りていない。
よって、現代戦でありながら、戦国時代の兵法が通用するような状況になっている。そんな兵法を実際に使えるまで知っている者はいなかったが。
もちろん、通信機器は現代のものを使用可能なので、当然のことながら、情報の伝達ということにおいては戦国時代を遥かに凌いでいる。また、PERデバイスが存在することから、戦闘の様相は更にシュールなものになることが予想された。
僕たちは睨み合う両軍を尻目に、越坂部橋を目前にして、大きく西に迂回するルートをとった。
東武線のガート下を抜け、田園風景の中を西へ進む。越坂部川を渡ることのできる他の橋を探す。
途中に小さな橋をいくつか見たが、やはり、敵が配置されている。当然と言えば当然か。
しかし、越坂部橋に比べれば手薄なことは間違いない。
歩いているうちにかなり鶴山町側に近いところまで来てしまった。
あと、一キロメートル程度で鶴山町というところで一同は、立ち止まった。
そこは、車一台がやっと通れる程度の小さな橋であった。そこを防衛していると思しき教諭兵はこちらより明らかに多かった。
遂に反乱軍として敵と遭遇したエイタ達。死闘が始まる。