第29話「僕は折れない心とナイフで貫けない体を手に入れた」
訓練の結果、僕は折れない心とナイフで貫けない体を手に入れた。「ディライヴ」は常駐型アプリなので、二十四時間、エネルギーを消費していく。それでも僕の体は、そう易々と疲労を感じたりはしなかった。不死身にでもなったのではないかと錯覚するぐらいだ。
訓練開始から九日が経過していた。とんでもなく濃密な九日間であったと僕は思った。
河上先輩や新美さんの訓練の様子は知らないが彼らなら大丈夫だろうと僕は思っていた。
一〇月三十一日、僕たちは、再び大ホールに集められ、作戦会議が始められた。
「訓練した皆さん、よくここまで耐えました。十分な期間とはいえませんでしたが、デバイスを持つ全員がPERデバイスアプリを最低限使いこなせるようになりました。後は実戦あるのみです」
口火を切ったのは山中先生だ。
よく見ると、ダークスーツを纏ったこの人は、重厚なオーラに包まれているのが分かる。身のこなしに隙がない。ここに辿り着いた時、PERデバイスの使い手として一流であることも分かった。人格者でもあるが、この男は只者ではない。
僕は、山中先生に九日間、教えを受けた河上先輩と新美さんの方を見やった。
疲れらしきものは見えない。しかし、どことなく頼もしさを感じるのは気のせいだろうか?
「早速ですが、軍を分けます。山林地区以外全てを敵と仮定した場合、その有する兵力は二万五千。我々は五千の兵力でこれに勝たねばなりません。これから、五千の兵力を三千五百と千四百九十五と五に分けます」
そして、僕は山中先生が考えている戦略に口を挟めるはずもなく、僕はただ聞いていた。
「実は入間郡黒山町と越坂部町に内通者がいます」
入間郡といえば、山林に接しているが、入間郡の最北端の町である。東には阪戸市がある。
「黒山町と越坂部町が味方となって阪戸市を西から攻めます。その兵力は五百人程度ですが、それを千四百九十五の軍で支援します。そして、主力となる三千五百の兵で挟撃します。五の兵には特殊部隊として隠密行動をしてもらいます。作戦開始は明日〇六四五時です」
質問をする者はいなかった。
ふと何かが動いたような気がした。何かの気配が消えていったような。
僕が山中先生の方を見やると、何かを確認するように出入り口の方を見ているように見えた。しかし、すぐに壇上を下りて、全軍を指揮すべく副官二人を伴い、外に出て行った。
賽は投げられた。