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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第七章「デバイサー訓練」
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第28話「戦闘技術を身に着ける時間もなければ、実戦経験を積む時間もない。それでも戦いには勝たなければならない」  

テラ君は見る見るうちに上達していった。次から次へと攻撃と防御のPERデバイスアプリを使いこなしていった。センスとはこういうものなのか。僕は自分の仕事での不甲斐なさを思い出しかけ、無理矢理思考を停止した。自分の自信を失うような思考は馬鹿げている。

 アプリロイドやオレンジフォン、ドアーズフォンと違い、ゴールドベリーはPERデバイス用アプリが限られている。この点においては、それぞれのOSの通常のアプリと同様である。

 従って、ゴールドベリーのデバイサーである僕は限られたアプリの使い方を極めることに時間を使っていた。

 現在、僕がゴールドベリーで使えるPERデバイスアプリは「ディライヴ」「ナイブス」「ブラストスルー」の三つである。

その中でも「ディライヴ」を使用することはPERデバイスの基礎訓練になるらしいのでひたすらやった。

 そのような訓練内容を消化し、九日間が過ぎた。

 テラ君のPERデバイスによる攻撃を防ぐ訓練もすることになった。この訓練はもちろん、彼の訓練でもある。

 場所は二階の第三会議室である。テーブルや椅子の類は、全て端に寄せて訓練場所を作った。

 彼が攻撃に使用するのはアプリロイドやオレンジフォン、ドアーズフォンで共通のアプリ「インパクト」である。これは、その名の通り、対象物に衝撃を伝える効果があるが、威力は対象物との距離に反比例する。だが、この訓練は至近距離で行われる。つまり、最大威力が発揮される。

「エイタ、気を抜けば死ぬぞ」

「ああ」

 教官モードのベリーを目の前にして、気など抜けるわけはない。

 増してや、訓練とはいえ、PERデバイスを相手にするのである。

「エイくん、行くよ!」

 僕達は打ち解けて、エイ君、テラ君と呼び合う仲になっていた。

 彼の総合的な能力はかなりのものだ。もちろん、PERデバイスの扱いも。

「インパクト」

音声認識機能「ゴルターナ」を使って起動する。ドアーズフォンの音声認識は最近開発されたばかりで、後進の部類に入る。よって、認識の精度は高くなく、起動も早くない。よって、ある程度ゆっくりと発音しなければならない上に起動の時間も考慮に入れなければならないために、戦闘では不利であると言える。

 だからといって、画面を見て、アイコンをタップして起動なんて余裕は戦闘中にはない。

 テラ君が音声コマンドを発音して五秒で、アプリの効果が発動した。

僕は、僕を攻撃してくる全ての存在をイメージし、どんな攻撃を受けてもダメージなど受けないと言い聞かせた。狂ったように体の奥底からエネルギーを引き出し、光の鎧を構築する。


衝撃が見えた。

 どうやら、ある一定以上の防御壁を構築すると、敵のPERデバイスによる作用が見えるらしい。

 僕はその衝撃を光の防御壁を纏った右腕でガードした。

 衝撃が弾け、右腕の鈍痛と共に後ずさりする。余波が周囲に飛び、窓を揺るがした。

 ガードは成功だった。

「…嘘だろ?」

 テラ君は珍しく、驚きを露わにしていた。彼は、この数日間、「インパクト」を発動させる訓練をし、精度も威力も飛躍的に上昇させていた。今の一撃は、その中でも至近距離からの最大威力で、岩を砕くことも可能であったはずである。

「エイタ、それだけの防御力があれば実戦でも問題ない」

 直立不動で訓練の様子を観察していたベリーが言った。

 そして、テラ君に向き直り、

「テラヤマ、君の『インパクト』の威力は十分だ」

しかし、ベリーは、難色を示す。

「君たちはPERデバイスを扱う資質がある。それでも、決定的に足りないものがある。それは、戦闘技術と実戦経験だ。戦闘技術を身に着ける時間もなければ、実戦経験を積む時間もない。それでも戦いには勝たなければならない」

 確かにどちらも足りない。夏休みと冬休みと春休みの軍事教練である程度は戦闘についての訓練もしているが実際の戦闘では通用しないかもしれない。

「だったら、どうすれば?」

 僕は、疑問を投げかけた。

「軍事教練ではそれなりにやってるけど、どこまで通用するか分からないぜ。どう戦ったらいいんだ?」

 テラ君も同じ疑問を持っているようだ。

「その点においては敵も同じはずだ。それから、戦略の基本は自分の弱みを最小限に、強みを最大限に生かすことだ。我々の強みは何だ?」

 ベリーは教師のように発問した。

「…PERデバイスが扱えること」

 僕の答えに、二人も頷いていた。

 敵もPERデバイスを持ってはいるが、それほど多くはない。

「では、その強みが最大限に発揮されるのは?」

更に切り返しの発問。

その答えは即座に脳裏を閃光のように走った。

「暗殺とゲリラ戦術」

ベリーは黙って頷いた。

「何だって!」

テラ君は素っ頓狂な声を上げた。

彼にも戦う覚悟はあるはずだろう。しかし、暗殺という単語には、「殺」という文字が入っている。それに、抵抗を感じたのだろう。

だが、ベリーの「最善は何か?」の言葉にすぐに納得した。

暗殺の技術。それが戦略。

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