第25話「弱者を虐げる理由なき悪意。これが敵です」
「さて、諸君。気を取り直して」
羽柴先生が演台に戻っていった。
「これより、第一回『研修会』を始める」
厳かな声で前教育将軍である羽柴先生が告げた。
「この研修会は十月十九日の〇九〇〇時から行われる予定だったが、諸般の事情により今日行われることとなった。君たちはある目的のために私が独断で集めさせてもらった。では、出席をとる」
僕が時計を見ると時刻は〇七三〇時となっていた。十月二十三日だが。
客席に座っているのは僅か六名だった。
「寺山教諭兵」
「はい」
寺山と呼ばれた男性が威勢の良い返事をして立ち上がる。僕は何となく親近感を覚えた。彼は多分、自分と同じ年齢なのではないか?
「君は仕事ができる男だが、曲がったことが許せない、真っ直ぐ過ぎる性格ゆえに同僚や上司から疎まれ、力を発揮しづらい立場に追いやられている。だが、君の正義感は決して歪んでいない。ここで思う存分に力を発揮してほしい」
再び「はい!」という大きくはっきりとした声。一点の曇りもない。
「川上弁護士」
「…はい」
先輩の名前も呼ばれた。戸惑いの混じった返事である。なぜ、先輩の名前まで知っているのかは僕には分からなかった。
「君は卓越した知的能力を持ち合わせ、弁護士としても戦っていける能力が十分にあるが、優しすぎる。しかし、その優しさこそ今、必要とされているのだ」
続けて、名前は呼ばれる。
「新美助教諭兵」
「はい」
返事をするがやはり、元気は足りない。まあ、当然である。
「君は臨時採用ながら、なかなかどうして、センスがあり、子どもからも好かれている。しかし、不器用な面があり、管理職に疎まれることもある」
「菅谷店長」
「はい」
店長という言葉に反応した僕。
そして、その返事は僅かながら聞き覚えのある声。
まさか!
僕は返事をした人物をまじまじと見た。
やはり、あの僕達を助けてくれた店長がいた店の従業員だ。だが、店長と呼ばれているということは後継者か。
「田中教諭兵」
「はい」
僕は返事をした。多分一番覇気がなさそうに聞こえるだろう。
「君ははっきりと言えば仕事ができない。気が利かない。人間関係もうまく構築できない」
酷い言われようである。
「さらに言うと基本的生活習慣が確立されておらず、片付けができない。私は君の通知表で整理整頓には△をつけた」
細かい先生である。
「しかし、君は並外れた精神力を持っている。君はこれまでに様々な攻撃にさらされてきたはずだが、死んでいないどころか通常の精神状態を保っている。これは驚愕に値する」
僕の褒めらた点はそれだけだった。
そして、羽柴先生は衝撃の一言で締めくくった。
「その精神力をPERデバイスに生かし、敵を一人でも多く葬って欲しい」
まるで暗殺者のような言われようである。
「出欠」はまだ続いた。
「そして、正体不明の暗殺者ベリー」
「私のことか?」
「そうだ」
「君は田中教諭兵からエネルギーを供給されて実体化している。だが、それ以外は人間と同じ生活が可能だ。そして、君は掛け値なしに優秀な殺し屋だ。多くの敵を葬ってもらいたい」
どんな情報網が存在するのか分からないが、ここまで知られていることは驚きであった。
「残念だが、期待には応えられない.。私のクライアントは現在は田中エイタだ」
「それはもっともだ。だが、田中教諭兵の敵は我々の敵でもある。君が彼の依頼通りに働けば結果的に我々の利益となる。今まで通りと思ってくれていい」
そして、羽柴先生は僕の方に向き直った。
「今、改めて問おう。君は何が目的で尾川町を目指した?」
「羽柴先生に助けを求めるためです。僕達は反乱軍を結成しましたが仲間は四人だけでした。ベリーの力がいかに卓越したものであってもこの人数で教育委員会を相手には戦えません。どうしても助けがいるんです」
「君の悪評は聞いている。そして、更に問う。君の敵は誰なのかね?」
僕は考えた。
僕は、体全体が沸騰しそうな程の憎しみを抱えている。それを向ける相手は誰なのか?
「弱者を虐げる理由なき悪意。これが敵です」
と、僕は答えた。
彼は無意識に羽柴先生の表情を窺っていた。
表情に変化は見られない。
いや、羽柴先生はにっこりと柔和な笑みを見せた。僕の全身に入り込んでくる安心感。
これがこの先生の魅力なのだと僕は思った。
「よろしい」
羽柴先生は頷いた。そして、激励した。
「我々は弱者を虐げる今の教育委員会を打倒する。敵は武蔵県所属の教諭兵二万五千人。だが、我々も五千人の兵力を有している。そして、最新鋭の兵器もある。戦って勝ち、新たな時代を創るのだ!」
たった4人だった兵力が一気に5000人に。エイタの反撃が始まっていく。