第24話「面子を潰されるか、重力に潰されるか。お選びください」
右手から放射された黒い光の槍が敵の群れをまとめて貫いていく。
確かにそれは発動していた。
だが、これで力尽きるわけにはいかない。
これで敵を全員倒せたかどうかは分からないのだ。
いや、倒せていない。まだ数人追いかけてくる。
その中にはやはり、高倉教育将軍の姿。あきれたしぶとさである。
それでも、そのまま通路を突き進む。
ドアを開け、大ホールに出る。
そしてすぐにドアに鍵をかける。敵が通れないように。
ドアが震えだした。こんなドア、すぐに破られてしまうかもしれない。
僕は必死で押さえた。
限界まで筋力を使い、ドアを押さえる。
「田中教諭兵。遅刻だ。立っていなさい」
聞き覚えのある声は後ろから聞こえた。
「ドアは離しても大丈夫。こちらへ来なさい」
この声はまさか…!
「羽柴先生!」
大ホールのステージ上。演題に立っていたのは僕の小学校一年生の時の担任にして元県教育将軍。羽柴ケンザブロウだった。
「席に着きなさい」
僕は新美さんを席に座らせて、言われるがまま最前列の席に着いた。
そこにはエイタ以外にも座っている人物が数人いた。
それよりも僕の目はステージの上に釘付けになっていた。
演台には羽柴前県教育将軍。少しだけ老けたようにも見えるが、殆ど以前と変わらない姿で、思いもよらない場所とタイミングで現れた恩師。
そして、その傍らには副官のように佇むもう一人の恩師、山中指導主事がいた。
「一体どうなっているんです?」
僕はやっと、質問の言葉を出すことができた。
「君は前回出張をすっぽかした。そのせいで研修会はできなかったのだ。今日はその振り替えだ。君のために日程を変えたんだよ」
「それは申し訳ありませんでした。体調を崩しまして」
僕は言いながら自分の発言のおかしさに気づいた。問題はそこではない。
「それよりも、僕達は追われているんです。助けて下さい」
唐突に目的の人物に会うことに成功したが、危機は去っていない。
「案ずることはない」
羽柴は事も無げに応える。
そして、入り口のドアが破られ、姿を現したのは荒い息をしている高倉。あの年でよくここまで追いかけてきたものである。連れて、その配下の教諭兵たちが数人入ってくる。
「動くな」
山中が侵入してきた高倉達に対して手をかざす。
「動けば貴方方は重力に潰される。それとも羽柴前県教育将軍に剣を向けるおつもりか?」
朗々たる声で敵を威圧する。僕はこんな山中指導主事の姿は見たことがなかった。
「山中!貴様は反逆者に味方するか!?」
山中にとって高倉は元上司にあたる人物であった。
元部下の裏切りに激昂している高倉の表情は凄まじいものだった。
だが、山中は手をかざしたまま動かない。そして、小声で何かを呟いたように見えた。
微かに聞こえてくる電子音。
「面子を潰されるか、重力に潰されるか。お選びください」
静かに宣言する山中先生。
重力に押しつぶされるってまさか…!?
僕の仮説はすぐに裏付けられることとなった。
警告を無視して動き出した高倉が膝をつく。
「ぐあああぁあぁあぁー!」
両手も地面につけられ、何かに耐えている。恐らくこれが先生の言う重力。
そして、これがPERデバイスの力なのだろう。
そこへ羽柴氏が悠然と進み出た。
「高倉教育将軍。君のやっていることはただのいじめだ。即刻止めて頂きたい」
重力が僅かに弱くなり、高倉がどうにか立ち上がった。
「前県教育将軍閣下。貴方といえども、これだけの大罪を犯した反逆者を庇いきれるものではありますまい。それとも、貴方ともあろうお方が反逆者になられるとでも?」
「反逆?それは君の方だ。近々、本県教育界には新体制が敷かれる」
その言葉の意味を僕は明確に感じ取った。高倉の目を剥いて言う。
「クーデターでも起こすおつもりか?」
「然り」
静かに、しかしはっきりと羽柴は答えた。
これはとてつもないことになる。
「いくら貴方でも今の教育界を覆すなど!」
「不可能だと思うかね?田中教諭兵?」
突然、僕に振ってきた羽柴。僕は答える。
「可能だと思います。いえ、やらねばなりません」
「だそうだ。山中君。高倉教育将軍を営倉へ入れておいてくれ」
「はっ。了解しました」
山中が高倉の腕を掴み、連行していく。高倉はもはや、抵抗する気力も残っていないようだった。素直にとは言わないが、はっきりと抵抗することもなく、地下にあるという営倉に連行された。
遂に羽柴氏と合流を果たしたエイタ達。教育界に激震が起きるか?