第20話「店長は殉職したのだ」
翌朝、反乱軍の四人はコンビニのパンで朝食を済ませ、作戦会議は再開した。
「暗殺は多数を相手に戦うには有効な戦術だ。しかし、暗殺だけで戦うには限界がある。味方を増やす手立てはないものか?」
ベリーはそう切り出した。
僕は考えてみた。今の僕達の味方になってくれそうな人物。
思い出した。僕の味方になってくれそうな人物を。
その人物は偉大な人物だ。今となっては、僕などにとっては雲のような存在である。
「一つだけ心当たりがある。僕の恩師だ」
恩師と言っても山中指導主事のことではない。
僕の小学校一年生の時の担任である。
その先生は当時三十代後半くらいだったはずでその年が最後の担任だった。その後管理職となり、教育将軍にまでなったが既に定年を迎え引退しているはずである。しかし、人間として尊敬できる人物であり、僕はその先生が好きだった。
その人物は羽柴ケンザブロウという。羽柴邸は尾川町にあったはずである。
「尾川町にこの業界にとんでもない影響力を持った人物がいる。そこへ向かいたい」
僕は言った。
「分かった」
ベリーは答えた。
「ここから尾川町方面へ行くには国道二五四に出て、ひたすらまっすぐに進むという選択肢と、一旦鳥居村に戻り、笛吹峠から蘭山町へ進入し、尾川町へ進むという選択肢がある。分かっていると思うが国道を行くのは危険だ。敵の大部隊が待ち構えているだろう」
先輩が地図を示しながら言う。その通りだ。しかし、山道を行けば安心というものでもない。行く先には何かしらの困難が待っていることだろう。
「分かりました。笛吹峠に向かいましょう」
問題は移動の手段だ。僕のスカイラインは物見峠に置いてきてしまった。鳥居村に戻ると言っても再教育センター付近は危険すぎる。とりあえずは徒歩で移動するしかない。ここから尾川町までは直線距離で一五キロメートル程度だ。しかし、まっすぐに移動できるわけではない。敵を避けて迂回する必要性も出てくるだろう。そうなれば、実際に移動する距離はその何倍にもなるだろう。
「とりあえず、このお店で準備できるものは手に入れておいた方がいいわね」
新美さんが言った言葉に僕が真っ先に思い浮かべたのは糧食だ。食べるものは必ず確保しておかなければならない。
僕達は手持ちのお金でこの旅に必要な物資の購入をした。
水、携帯食料、モバイルバッテリー…。必要な物は無数にあるが徒歩で運べる量は限られている。それぞれを精選して各自バッグに詰めていく。
そして、その夜、
「お世話になりました」
「お気をつけて」
僕達を匿うことに関して何の見返りもなかった店長だが、僕達を優しく見送ってくれた。
そして、店長は倒れた。
「店長!」
みんなが駆け寄る。
ベリーが心肺蘇生を試みる。
僕はレジの後ろにあったAEDを持ってきた。
「私、一一九番かけるわ!」
新美さんが携帯電話を取り出し、通報を始めた。
手際よく除細動パッドを張り付けていくベリー。
「離れてくれ」
除細動が始まるのだ。
緊張した面持ちで行方を見守る一同。
「戻らなかった」
ベリーのその一言が結果を語った。
店長は殉職したのだ。
十月二十二日の二三三九時のことである。
殉職した店長。仇は必ず討つ。