第18話「となれば、その狙いを逆用するとしよう」
新章突入!
完全に安心はできない。ここで追跡者が倒れたとあっては、再教育センター側も不審に思うだろう。次の刺客を差し向けてくるに違いない。そして、僕はある違和感を感じ始めていた。
それは僕がこのような状況になった理由についてである。
僕は転属してからまだ何も問題を起こしていないはずである。というよりも問題が起きないような配置をされていたのだ。僕のような使えない人間でも闇雲に排除するのは得策ではないと上も考えている。何せこの就職氷河期ですら人が集まらない超不人気職業だから。
ある教諭兵を指導力不足として報告すれば、数値上の記録に傷がつく。それに、相手が訴えるかもしれない。そうなればかなり面倒である。配置の工夫で何とかなるのならそれで穏便に済ますべきなのである。急に再教育センターに送り込まれるような事態はあの事なかれ主義な中隊長も望んでいないはずなのである。
しかし、高倉教育将軍は有無を言わさず僕を排除しようとしていた。その理由は何なのか?早急に僕を排除しなければならない理由があったはずである。
僕は弾かれたように喋りだした。
「先輩、鳥居村の教育将軍が僕を強引にクビにしようとしていました」
「詳しく話してみろ」
僕は鳥居村教育委員会から再教育センターに連行されるまでの経緯を説明した。
「明らかにお前を狙ってるな。お前は恐らく何かの危険人物と思われているんだろう。例えば、お前の能力関係があるのかもしれない。思われている可能性はある。能力の正体がばれていないまでも、危険な能力を持っているとパワーハラスメント禁止条例違反だろうが、そんなものが通じる相手じゃなさそうだな。いずれにせよ、お前のことは生かしてはおけないと考えているはずだ。近いうちにお前を狙って動き出すだろう。それも単独で」
僕は狙われている。その認識を新たにした。
「なぜ、単独なんですか?」
「そいつがお前を狙っている理由は公然と言えないものだと考えられるからだ。協力を要請すれば理由を話さなければならなくなる。かと言って再教育センターから脱獄した者は県の管轄だ。一市町村の教育長が直接、再教育センターの部隊に命令を出すのは越権行為だ。だから奴は単独で動く。少数でな」
まるで、武蔵県全体の動きが見えているように言う先輩である。
「となれば、その狙いを逆用するとしよう」
先輩は僅かに笑みを浮かべてそんなことを言う。僕にはそのやり方が明確にイメージできなかった。
「どうやって?」
「敵がお前を狙っていて血眼で捜しているということは、俺たちが望む場所に誘い込むことも可能だということだ」
そう考えると何だか主導権を握っている気になってきた。先輩は続けた。
「その場所はもちろん、俺たちにとって有利な場所さ。うまくいけば敵を一網打尽にできるような。ベリーさん、何か不思議な力が使えるそうだけど、土砂崩れのきっかけを作ることは?」
「方法は言えないが、可能だ」
ベリーは簡潔に答えた。凄い。先輩の知略とベリーの能力があれば敵を撃退できるかもしれない。僕は何の役にも立てなそうだが。そんな僕を見透かしたようにベリーは、
「エイタ。この後訓練を行う。体調は問題ないか?」
「問題ないよ。っていうかあってもやるんでしょ?」
「無論だ。これは生死に関わる」
じゃあ聞くなよ。と僕は思ったがもはやどうでもよかった。
力が欲しい。自分だけで戦える力が。
「リュウジ、この作戦を立てるに当たって、今晩エイタを鍛える必要がある。明日までに戦略を練ってくれないか?」
「了解だ。もはや俺の武器は法律じゃない。敵に勝つ知恵と戦略だ。全力でやらせてもらうぜ」
頼もしい二人である。
「私も何か役に立ちたいけど休ませてもらうわ。何か疲れがどっと出ちゃって」
新美さんが絞り出したような声で言う。彼女は頬が赤く、目もどこか生気を失っているようである。
それはそうだろう。
そう言えば、ここんところ不幸続きで、攻撃されっぱなしの僕は殆ど疲れだとか驚きだとかを忘れかけていた。
束の間の休息。