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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第三章「炎上の脱獄行」
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第16話「あの車を二メートル以内の距離まで引き付けてくれ。私が仕掛ける」

先輩と新美さんは後部座席に乗り込んだ。

 エンジンをかける。

 深夜の山中にエギソーストノートを響かせ、僕のスカイラインは走り出した。

 何も考えず、左折してしまった。それが不正解と思ったわけではないが、車は南松山市街地方面に向かって走っている。鳥居村と南松山市の境を越える。峠はここからダウンヒルに入る。 

「何あれ?」

 新美さんが後ろを見て言った。僕はバックミラーに目をやった。そこには黒塗りのクラウンと思しき車が大写しになっていた。距離は五メートルあるかないかのところまで迫っている。これは追手とみて間違いないだろう。

「そこの銀のスカイライン。教委反逆罪である。止まれ!」

 クラウンのスピーカーから大音量のアナウンス。誰が止まるものか。

「エイタ、全速で振り切れ」

「分かった」

 馬力ではこちらが僅かに劣っているかも知れないが、こちらだって二リッターのターボ車だ。二百十五馬力ある車である。このコース条件ならこちらに分があるはずだ。僕はアクセルを一気に踏み込んだ。タコメーターの針が一気に上がり、一瞬だけ七を指した。レブリミットの六四〇〇回転を維持し、ストレートを駆け抜ける。彼我の性能差を考えると、ここでは詰め寄られるだろう。しかし、この先は低速コーナーだ。つまり、ヘアピンカーブである。

「何かにつかまってて!」

 僕は完全に走り屋になったつもりでレイトブレーキングした。

「ぎゃああああ!」

「きゃーーーーーー!」

 先輩と新美さんの悲鳴。ブレーキングにより車体の重心が一気に前輪に移ったのだ。

すぐにハンドルを左に切ると後輪が滑り出し、スキール音を奏でた。僕はGに耐えながらカウンターを当てつつ、バックミラーを確認した。角度的に見えないだけかもしれないが黒クラウンは消えていた。

次の瞬間、僕の車がコーナーから立ち上がろうとした時、後方から轟音が聞こえた。

「ガードレールに突っ込んでるぞ!」

どうやら黒クラウンがガードレールに突っ込んだらしい。

 僕がアクセルを少し緩めた。しかし、バックミラーが再び瞬いた。

「何だあれ!すげー速いぞ」

 先輩が声を上げた。

 車体はかなり小さい。そして黒い。車種はカプチーノか。この車の再教育センターからの追手だろう。

 僕は再びアクセルを開けた。

「スピード上げますよ!」

 ストレートで少しだけ引き離すことができたが、コーナーで詰め寄られる。向こうは本物の走り屋だろう。なんちゃって走り屋の僕が敵うような相手ではない。それでも逃げ切らなければならない。

「ベリー、何とかならないのか?」

「あの車を二メートル以内の距離まで引き付けてくれ。私が仕掛ける」

「了解!」

とは言ったものの二メートルはかなりギリギリだ。こんな速い車相手にそれは危険過ぎる。だが、やるしかない。

 二台は長めの直線に入った。僕は僅かにアクセル開度を下げる。その途端に黒カプチーノとの距離は一気に縮まった。僕はまたほんの少しアクセル開度を上げた。距離が少しずつ縮まってくる。

それだけで黒カプチーノの放つ威圧感は倍になったように感じた。

しかし、不思議と怖さを感じなかった。

今、僕はこのスカイラインを手足の一部のように扱える。

そう思っていた。

そして、バックミラーに大写しになった黒カプチーノを見ながら僕は確信を持って言った。

「ベリー、頼む」

「承知した」

 車がコーナーに差し掛かるその瞬間、僕は脱力感に襲われた。

 同時に後方で鈍い破裂音が響いた。そして、バックミラーから黒カプチーノが消えた。

「やった!」

 歓声を上げたのは新美さんだ。

「前輪をバーストさせた。これで追っては来れないだろう」

 ベリーが簡潔に報告する。PERデバイスを使って何かやったのだろう。

脱力感は僕の精神エネルギーを使用したためだろう。これで追手を振り切り、南松山市へ抜けられるか。

「おい田中!このまま行くのはまずくないか?」

「えっ!どういうことです?」

 運転に夢中の僕は先輩の言葉に困惑した。

「俺が再教育センターの所長なら、別の部署に応援を頼んで峠の出口に人員を配置して逃げられないようにするぞ」

それはそうかも知れない。車でここから南松山に抜けるルートは一つしかない。この物見峠のみである。

「田中、どこか、目立たない場所に車を停めるんだ。徒歩で行くぞ」

「それがいいだろう」

 ベリーも同意する。やるなら追手を退けた今だろう。

脱獄を果たしたエイタ達。追っ手をどう撒くのか?

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