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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第三章「炎上の脱獄行」
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第14話「釈明は剛戸で聞く」

十月二十日、朝五時に起床した僕はとんでもない倦怠感に襲われた。単なる睡眠不足ではない。昨夜に特殊な能力を発動させた代償なのかも知れない。しかし、これも慣れれば何とかなるような気がした。

「エイタ、言い忘れていたが、昨夜に君が防御に用いた力はPERデバイスだけで発動するわけでない。エネルギーを防御に最適化するプログラムが君のゴールドベリーに組み込まれている。つまり、防御用のアプリケーションだ。名称は「ディライヴ」だ。これは常駐タイプのものでバッテリーも消費するし、君の精神力も消費する。だが、いつ攻撃されるかは分からない。アプリは終了させず、常駐させておいてくれ」

 働きの悪い脳に新たな知識が飛び込んできた。枕元に置いていたゴールドベリー内のベリーが話しかけてきたのだ。しかし、まあ、ベリーの言っていることは理解できた。

「分かったよ」

 とだけ言うと朝の準備を大急ぎで済ませ、出勤した。

ここ二日、無断欠勤したことを上司に説明しなければならないことを思うと気が重い。しかし、ズル休みをしたわけでないことは本当だったのでやましいことはないと思うことにした。

僕は出勤するなり戦隊長室に呼び出された。

「申し訳ありません。電車で体調を崩して気を失ってしまったようです。大変ご迷惑をおかけしました」

 僕は相手が話すより先に謝罪の言葉を述べた。

「大変だったようだね。もう体調は大丈夫なのかね?」

 老兵の雰囲気を醸し出す鳩川中隊長は穏やかに言った。

「はい。問題ありません」

 彼は頷くと次の話を切り出した。

「それならよかった。ところで、別の話なのだが、今日放課後に教育委員会に来るよう通知が来ていた。この二日間のことについて事情を聴取するそうだ。本日一五〇〇時に村の教育委員会に出頭してほしい」

「了解いたしました」

 何やら嫌な予感がするが出頭命令に逆らうわけにはいかない。僕は出頭を決めた。

 

 放課後、テストの採点等の雑務を手早く済ませると、僕は町の役場までまで車を走らせた。その途中、ベリーが話しかけてきた。

「車を降りる時、私は置いていってくれ。目につかないよう、ダッシュボード内がいいだろう。それから、ソーラーパネルにつないで充電しておいてくれ」

「何で?」

「今は理由は言えん。とにかく頼む」

 ベリーははっきりは答えなかった。だが、僕は指示通りに二十四ワットのソーラーパネルに繋がっているUSBケーブルを引っ張り出してゴールドベリーに挿し、ダッシュボード内に入れた。

三階にある教育委員会まで駆け上がる。無論、気が進まない用事なのだが、僕は階段をゆっくり歩いて上るのが嫌いなのだ。

 三階の会議室前まで来ると、教育委員会の指導主事と思しき男が立っていた。僕の恩師ではない。知らない人物だ。僕は挨拶しながら名札を見た。名前は熊井というらしい。

「田中教諭兵ですね。こちらへ」

 熊井指導主事は僕を大会議室へと通した。

 会議室に入ると奥のテーブルの中央に、とうに六〇代を超えているであろう男性が座っているのが見えた。髪は全て白髪だが眼光は鋭く、数々の修羅場をくぐってきた古強者あろうことを思わせる。僕はその男に見覚えがあった。隣の阪戸市の高倉教育将軍である。右隣の席には気弱そうなスーツ姿の老人。こちらは鳥居村の中橋教育将軍である。その両サイドには二〇代~三〇代であろうスーツ姿の屈強な男たちが立っていてこちらを値踏みするように見ている。何人かは見たことがある。恐らく全員が中学の体育教諭兵だ。

 これでもかという威圧的な雰囲気の中、事情聴取は開始された。

「田中教諭兵。これからいくつかの質問に答えてもらう」

 厳かに告げたのは高倉教育将軍だった。

「十月十八日、君は何をしていた?」

「修身教育研修会の出張のため、電車で現地に向かっていました。その途中で体調が急変し倒れてしまいました」

 高倉教育将軍は眉一つ動かさず聞いていた。

「その発言に偽りはないかね?」

「はい」

 僕は答えた。

「その時間、君がKモール内のカラオケ屋に入っていくところを目撃した者がいる」

 教育将軍はそんなことを言ってきた。「その時間には行ってません」と言おうとして止めた。

「行っていません。私は体調不良で倒れたのです。そして、病院に運ばれました。病院にも記録が残っているはずです」

「関係ない。君のサボタージュの証拠は上がっている」

 僕は愕然とした。何かの間違いだ。陥れようと誰かが画策したのではないか?そう思った。

「単刀直入に言おう。君には指導力不足であることに加え、遊興のために事実を偽り、研修を無断で欠席した。よって、再教育センターに入所を命じる」

 最悪だった。再教育センターに行き、現場に無事復帰できた者はいない。免職か依願退職か二つに一つである。必死に生き残りの策を模索し、辺境に飛ばされたものの、どうにか生き残れたというのにこんなことになってしまうとは…。

「待って下さい!誤解です!」

 僕は無駄と知りつつ食い下がった。しかし、

「連れていけ」

 高倉教育将軍は周囲の体育教諭兵に命じると、屈強な男たちが両サイドから僕の腕を掴み、拘束してきた。僕は僅かに自由の効く手首を動かし、ポケットに手を入れようとした。

 体育教諭兵の一人が僕のポケットからスマートフォンを取り出し、没収した。

「釈明は剛戸で聞く」

 僕はそのまま外まで連れていかれ、黒塗りの公用車に乗せられた。そして、後部座席に乗せられた。両サイドは僕を連行してきた体育教諭兵が固めた。運転も助手席も体育教諭兵が乗っている。何たる暑苦しさと重苦しさか。むさ苦しい男五人を乗せた護送車の如き公用車は苦しそうなエンジン音を響かせ、県道十三号線を南松山方面へとひた走り始めた。


「釈明は剛戸で聞く」破滅の言葉を言い渡されたエイタは終わりなのか?ベリーの真意は?

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