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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第二章「端末の中の暗殺者」
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第12話「終わりですか?帰っていいんですか?っていうかこの封筒何ですか?」 

 転属した僕を待っていたのは新たな上司と山林司令部の指導主事だった。十月一日の着任早々に新しい学校の校長室に呼び出され、僕は新しい上司、つまりは鳩川中隊長と越辺指導主事である。この指導主事が曲者で問題教諭兵である僕の監視役となる人物だろう。鳩川中隊長は今年で六十四歳になる老兵で、特別なオーラは感じず、普通の人物のように思えた。学生時代のアルバイトや教諭兵になってからの経験から、店長や戦隊長といえば変人しかいないと思っていたが、例外のようである。問題教諭兵である僕にも初対面だからか紳士的に接してくれる。

僕は担任外になり、それなりに平和に過ごした。この学校の職員も僕の悪評は聞いているだろうが、優しく接してくれている。だが、やはり、越辺指導主事に監視される日々であり、この男をどうにかしない限り、平穏な日々は訪れないものと思われた。更に、直属ではなくなったとはいえ、鬼ヶ島第三小学校の元戦隊長で教育総本部の木材谷マサオミもいずれ僕を狙ってくるに違いない。

「ベリー、暗殺依頼だ」

 僕が呼びかけるとベリーは音声認識機能の如く棒読み風で返答する。

「ターゲットは?」

「越辺指導主事だ。もう何度も見ているはずだ」

「承知した」

 ベリーは依頼を受けた。

 翌日、鳥居村役場前の道路からガードレールを突き破り、五メートル下の田んぼに落下して死亡している越辺指導主事が彼の車内から発見された。ベリーは仕事が本当に速く、あっさり殺してくれる。木材谷マサオミ以外は。

 こうして、敵を一人片づけることに成功した。そこまではよかったのだが…。


 その翌日、新たな指導主事が派遣されてきたことを知った。いくら何でも早過ぎる。そして、その更に翌日、その新たに派遣されてきた指導主事と対面することになるのである。

 五時間目の算数を始めようとすると、その男は子どもたちの後ろに立っていた。以前と変わらぬ姿で。

 そう。その男は十年以上前から知っている僕の元担任であった。

 授業が終わった。

「たっくん。大きくなったね」

 子どもたちの前でそう呼び止められ、僕は少し恥ずかしくなった。

「お久しぶりです。まさかこんなところでお会いすることになるとは」

やりにくい。僕を教えた教員で記憶に残っている数少ない人物の一人である山中指導主事だ。有り体に言っていい人である。

 敵なら殺す。敵でないなら殺さない。それだけである。


放課後、僕は教育委員会に呼び出された。せっかく珍しく早く帰れそうな日だったので非常に迷惑である。鳥居村の役場は学校から車で五分程のところにあり、三階建てのちっぽけな建物である。

 三階まで一気に駆け上がると、そこには山中指導主事が立っていた。

「よく来たね。こちらへどうぞ」

 恩師に手招きされ、小さな会議室へと入っていく。

 そして、小さな封筒を渡される。

「今日はこれでお終い。封筒は家に帰ってから開けてね」

「終わりですか?帰っていいんですか?っていうかこの封筒何ですか?」

 意味が分からず、尋ねる。

「終わりだよ。内容については答えられないよ。ではお疲れ様」

山中指導主事はにこやかにそう答えた。心なしか、いたずらっぽい笑みにも見えた。

封筒自体は何の変哲もない。厚さも重さも普通である。

 ものすごく気になるがとにかく帰って読むしかない。

 やはり気になるので僕は退勤途中のコンビニに車を停め、封筒を開封した。

 中から現れたのは出張の文書だった。一見、普通の研修会の出張の文書だが、研修会の名前が「研修会」となっている。つまり、何の研修会であるかは分からない。行われる場所は具体的に記載されており、武蔵県教育総司令部第三会議室となっている。日時は十月十九日の木曜日九時からだ。

怪しい。あからさまに怪しい文書だが気になることは確かである。僕のやっていることが上層部に知られていて、罠を仕掛けられたのかもしれない。

 だが、ベリーがそんなミスを犯すはずがない。そう考えたことに加え、僕の好奇心が勝ち、「研修会」に参加することにした。

恩師に渡された謎の文書。「研修」とは何か?

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