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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第二章「端末の中の暗殺者」
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第10話「生き延びることが必要だ。勝つために」  

まずは、自分自身の力で身にかかる火の粉は払わねばならない。それもインパクトのある方法で。

「ベリー!奴をどうしても倒したい。何か方法はある?」

 端末からベリーが答えた。

「方法は明かせないが君が希望するなら明日実行しよう」

 実体化していないが、ベリーが不敵な笑みを浮かべたような気がした。

 翌日朝、出勤すると消防車と救急車が職員玄関へと続く階段の下に停まっていた。

 何事かと思い、校舎を見やると一階にエルグランドと一トントラックが突き刺さっていた。校長室のあたりだ。周囲はガラスやら瓦礫やらが飛び散っていた。

 ベリーは車爆弾で校長室を爆破したのだ。

 校舎のその他の場所は無事だが校長室は全焼だ。戦隊長は既に救出され、救急車で運ばれたらしい。ベリーは本当にやってくれた。言っては悪いがイカれた奴だ。

これなら流石に出勤はできまい。そう思っていた。

 しかし、その午後、戦隊長は体中包帯を巻いて現れ、職員を驚かせた。見た目こそ痛々しいが、その立ち振る舞いはまるで無傷の人のそれであった。僕はもう驚かなかった。現時点では奴を倒せない。それは分かった。奴を倒すには不死身の謎を解く必要がある。


 もう十月も近い。年度としてはここで折り返し地点を迎える。モンスターペアレントとモンスターティーチャーの『仁義なき戦争』は相変わらず続いていた。そんな中、僕は妙な噂が耳に入った。何と戦隊長が転属になるというではないか。それだけで僕は目の前が明るくなったような気がした。

 そして、僕に急に出頭命令が下った。西方司令本部からだ。九月も終わろうとしている頃、僕は河越市にある西方司令本部へ向かった。


「田中教諭兵 山林司令部への転属を命ずる」

 司令部の指導主事が告げた。

唐突な転属命令であるが、これは僕が助かったことを意味していた。

 僕が転属を命じられた山林司令部は、田舎で、県の西北部に位置する司令部である。その名の通り、農村部であり、僻地と呼ばれる地域も多い。要するに左遷である。

 司令部は教諭兵制度の開始以前には教育庁と呼ばれていた。県には山林司令部の他に西方司令部、東方司令部、北方司令部、南方司令部、中央司令部、そして、その上に各司令部を統括する教育総本部がある。教育総本部の前身は事務局である。つまり、教育委員会事務局で、今ならば、教育委員会教育総本部ということになるのであるが、長過ぎるのであまりこうは呼ばれない。山林司令部は他の司令部と比較して激戦区ではないほうだ。

「配属先は赤鳥小とする。以上だが、何か質問はあるか?」

「いいえ、何も」

とだけ答える。質問したところで何も意味などないのだ。また、異論もない。

 戦隊長は武蔵県教育総本部へ転属となった。出世なのだろうが、本人には現場でやりたいことがまだあり、不本意な転属であったようだ。

 結果、奴を倒すことはできなかったが、生き残るという目的は達せられた。倒せなかったとはいえ、奴もノーダメージではない。不本意な転属をさせられる羽目になたのだから。とりあえず、今回は痛み分けだ。

 だが、これから力をつけて、次は徹底的に潰す。

 田舎に行けばある意味で最前線からは離れられる。上層部にとっては問題ばかり起こされるよりも都合が良いだろう。

 戦死する確率は低くなるに越したことはない。とはいえ、やはり不名誉なことではある。何せこれは左遷である。それでもいい。生き延びることが必要だ。勝つために。

 ベリーはターゲットの暗殺に失敗した。プロであることもあり、プライドを傷つけられたことだろう。感情を表に出さないところは暗殺者らしいが、如何せん殆ど実体化していないため姿はレトロなスマートフォンである。

 僕としても木材谷マサオミを葬れなかったことについては悔しいことこの上なかった。しかし、ベリーが真剣に暗殺に取り組んでいることだけは感じた。彼の破天荒さは凄まじいが悪い人間ではないことだけは何となく分かった。だから、僕は彼を役立たずだとは思わなかった。役立たずとは自分のことだと思っていたからである。

一方僕は急な転属命令のため引っ越し準備で大忙しである。教材などはデータ化してあるため移動は簡単だが、身の回りの文房具、書籍、その他の資料が大量にあり整理に手間取った。


左遷されることで九死に一生を得たエイタ。左遷先でこれから何が起こるのか?

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