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 第二話 少女と魔石 ①

「魔王の魔石があれば帰れるって王様言ってたわよね」


「そうっす。魔王の魔石っす」


「でも……別に魔王の魔石位の量の魔石でもいいわけよね。自分で魔石を集めれば良いのよ」


「魔法陣はどうするんっすか?」


「城の忍び込んで勝手に使って帰るか。別に作るか。方法は後で考えればいいのよ」


「愛梨は戦えないっすよ。どうやって魔石を集めるっすか?」


「買えばいいのよ」


「どうやって稼ぐんすか? おいらが戦うっていう選択肢もあるっす」


「あ~それは却下」


 複雑そうな声で答える。


「死なれると困るわ」


「縁起でもないことを言わないで欲しいっす」


「だって……アボスが死んだら私は一人ぼっちになるんじゃない」


 しゅんと愛梨は答えた。


「この岩の体はなんぼ壊れても平気っす。愛梨が死なない限り。おいらは不死身っす」


「えっ‼ 本当なの?」


「本当っす。だから安心して欲しいっす」


「あ……なんだ心配して馬鹿みたい」


「……」


 岩で出きたアボスが何だか嬉しそうに笑ったような気がした。

 照れ隠しのように愛梨は立ち上がると。


「お休みアボス」


 そう言って二階に上がっていった。

 アボスは愛梨が自分の部屋に入るのを見届けると、作業をするために家から出て行った。

 やることが多い。アイテムボックスの中だと魔力消費量が少ないが、岩ゴーレムの躰だと、外に出た時の消費量はそれなりにあるのだ。アボスには食事も睡眠も要らない。

 便利な躰だ。壊れれば新しい体をいくつも作ればいい。老化も無い。

 ただし、愛梨が生きていると言う条件付きだが。

 愛梨が死ねばアボスも消滅する。

 一蓮托生という奴だ。

 死ぬことにアボスは何の感情も無い。

恐怖も悲しみも苦痛も無い。

自分は愛梨の世界でいうコンピューターに近いのだろう。

 ただ愛梨がずっと笑っていてくれたらいいなと思った。


 二階にある愛梨の部屋はメイドの部屋にあった家具をそのまま使っている。

 暖炉もある。本当、換気ってどうなっているんだろう?

 しかし部屋は15畳ほどでかなりスカスカだ。

 出来たら板とレンガを使って本箱を作りたいと思った。

 この世界に飛ばされてもまだ本の事を考えるなんて、自分はどんだけ本好きなんだろう。

 愛梨はくすりと笑った。

 普通なら親兄弟の事を思って枕を濡らすのに。

 いや……あえて考えないようにしている。

 だって……だって……


「帰りたいよう……お父さん……お母さん……千花……」


 ポロポロと涙が零れる。

 父は平凡なサラリーマンで母は近所のコンビニに通うパートのおばちゃんだ。

 妹の千花は中学生でダンス部に所属している。

 どこにでもいる平凡な家庭。

 あの日私は帰りにスーパーに寄って鶏肉の安売りを買って。

 カレーを作る予定だった。

 コンビニのアルバイトの大学生が風邪をひいて休んでしまったため、代わりにパートに出ている母の代わりに晩御飯を作らないといけなかったのに。

 帰れなかったら……

 高校の門の所に転がっている鞄が6個。

 行方不明になった生徒会役員と図書委員。

 四条君の両親はお金持ちだから大騒ぎになっているだろう。

 分かっている。

 異世界転移なんて人類が月に行くように。

 大変なことだ。

 国家予算を食いつぶし。それでもなさねばならない事。

 魔王を倒すために。

 勇者でもない小娘の帰還のために魔王の魔石を使う訳ない。

 まして愛梨は殺されかけた。魔石を使って帰すより排除する方法を取る。

 その方がお得で簡単だ。

 愛梨の称号は【一般人】勇者と違ってすぐ殺せる。

 非力な女の子だ。

 ここの王家は信用できない。

 四条君達は魔王を倒すまでは安全だろう。

 でも……倒した後は……

 この事を彼らに伝えるべきだろう。

 連絡手段はどうしたらいいんだろう。

 アボスに聞いてみよう。

 冒険者に頼む方法があるんだろうか?

 冒険者……

 男の子だったら『俺tueeeeeeee~~~~~~~』と燥ぎ回るだろう。

 でも、愛梨は大人しい文学少女だ。

 生き物の命を奪うのに躊躇いがある。

 この命の価値がただ同然の世界で生き延びるのさえ難しい。

 アボスにいつまでも頼るのはどうだろう。

 この世には色々なスキルがある。

 相手のスキルを奪うスキルやスキルを封印できるスキルがあっても可笑しくない。

 そうなった時。愛梨は何の抵抗も出来ず殺されるだろう。

 私……殺されかけたんだ……はじめて向けられた殺意。

 いや……邪魔な石をどかすように罪悪感などみじんも感じず崖から突き落とされた。

 ぶわりと汗が滴り落ちる。平凡に生きてきた少女にとってこの世界は地獄に近かった。


「……取り敢えず明日は早く起きてマラソンしょう。先ずは体力作りだわ」


 愛梨は布団の中に潜り込むと直ぐに眠りについた。




「おはよう~アボス」


 愛梨はアボスに挨拶をするとまたグルグルと家の周りを回る。

 うん。男の人のズボンが欲しい。

 愛梨は学校の制服を着たままで走っている。

 メイド服やワンピースを除外したら制服しか選択肢は無かった。

 スカートの丈が短いだけましか。


『どうしたんっすか? 朝から走って』


「うん。取り敢えず体力付けて。逃げ足だけでも早くなろうと思って……ハアハア……きついわ~~」


『靴ずれが出来てるっす』


 アボスは愛梨の靴を脱がせるとヨモギに似た草をもんで傷に付けた。


「いたたたた……でも。足手まといにはなりたくないよ。弱いからって甘えてられない」


『……』


 アボスは暫く考えていたが。


『強くなりたいっすか?』


「弱いままで生き延びれるの?」


『剣や槍は無理でも棒術は出来るかもっす』


「えっ? 教えてくれるの」


『無理をせず少しずつやるっす。体を壊しては元も子もないっす』


「うん。ありがとうアボス」


『取り敢えず。朝ご飯を食べるっす』


 愛梨は台所にある果物を食べた。

 昨日と同じワンピースとマントを纏い。鞄をかける。


『外は魔物も人もいないっす』


 愛梨はアイテムボックスから外に出た。

 そして木に立てかけていた杖を取ると人形を鞄に吊るす。


『取り敢えず。このまま村に行くっす。村の雑貨屋でリリンゴとキノコを売るっす』


「うん分かった」


『歩きながらこの世界について教えるっす』


「先ずはお金の事からだよね」


『日本だと円だったっす。この世界ではベベルっす』


「やっぱり金貨なの?」


『そうっす。紙のお金はないっす』


「重そうね」


『その為にアイテムポーチがあるっす』


「アイテムポーチなんてあるんだ」


『商人や冒険者が借金をして買うっす。ギルドでも貸出してるっす』


「う~ん。やっぱり冒険者登録しといた方がいいかな?」


『国境沿を超えた所にある【クリリスの町】に冒険者ギルドがあるっす。ダンジョンもあるっす。人の出入りが多いから潜伏するには丁度いいっす』


「暫くそこに居て。この世界に慣れる必要があるわね」


『愛梨のいた世界とこの世界はかなり違うから慣れるのに時間がかかるかも知れないっす』


 私達がおしゃべりをしているうちに村が見えてきた。

 50軒ほど見える。小さい村だ。畑で村人が働いている。

 雑貨屋は村の中央にあり。看板が出ていたが、愛梨には読めない。

 後でアボスに聞いたら【アンズズの雑貨店】と書いていたらしい。


「うん。読めない。アボスに読み書き教えてもらって早く本が読みたい」


『本は高価っすよ』


「え~~。図書館は無いの?」


『あるっすけど。使用料取られるっす。5000ベベル日本円にすると5000円ぐらいっす』


「はっ‼ 使用料? 高い!! ああ~日本に帰りたい。この調子だと水もただじゃ無いんだろうな~~」


『水と安全がただなんてほざくのは日本だけっす』


 愛梨は店に入った。

 ちりりんと小さい鐘が鳴る。

 なんか昭和の田舎にある雑貨屋のフインキだ。


「いらっしゃいませ」


 小柄なおばさんが挨拶をしてくれた。


「こんにちわ。リリンゴの実とキノコを売りに来たんですが」


「ああ。いいよ。みせとくれ」


 愛梨はリリンゴの実を30個、鞄から取り出した。


「おや。アイテムポーチかい? 便利なものを持っているね」


「ええまあ……」


 おばさんが勝手に勘違いしてくれたのをいいことに愛梨はキノコも出す。


「リリンゴは1個100ベベルで3000ベベル。キノコは珍しいパッテヤキノコで5000ベベルでどうだい?」


「はい。それでいいです」


「じゃ。8000ベベル。買い物していくかい?」


「はい。お塩はありますか?」


「塩かい。小さい壺に入っているこれがそうだよ。2000ベベルだよ」


「2000ベベル……」


 実際高いのか安いのか。初めてのお買い物の愛梨には分からなかったが。

 島や田舎では運送費が高くつくからこんなもんなんだろうと思う。

 愛梨は塩を買った。


「パンは無いんですか?」


「パン屋はここの道を北に行くと教会があつてその前だよ」


「ありがとうございます」


 愛梨は頭を下げ店を出た。

 他の棚にジャムぽい物があったが。我慢だ。

 パン屋は直ぐに見つかった。


「あれ? 教会と同じ絵柄。パン屋は教会が運営しているのかな?」


 教会の門の紋章とパン屋の看板にも同じ紋章が描かれている。


「そうだよ。パンは孤児院の年長組が作っているんだよ」


 愛梨はびくりと後ろを振り返った。

 男の子が箒を持っている。

 店の前を掃除していたみたいだ。


「お手伝い? 偉いね。所で君はパン屋に詳しいの? お勧めパンはあるかな?」


「芋パンがおすすめだが。お姉ちゃんは冒険者か? 固焼きパンもあるぞ」


「固焼きパン?」


『冒険者の携帯食で日持ちはするが、硬いっす。スープに浸して柔らかくしないと食えたもんじゃないっす』


 アボスがこっそり教えてくれた。

 アボスの声は愛梨にしか聞こえない。


「ありがとう」


 愛梨は少年にお礼を言って店の中に入っる。

 パンの焼ける良い匂いがした。


「美味しそう」


 愛梨は嬉しくなって店のパンを見て回る。


「7000ベベルしかないからな~う~~ん。迷うわ~~」


「いらっしゃいませ」


 女の子が出てきて焼き立てのパンを棚に置く。

 さっきの子が言っていた孤児院の年長さんかな?


「どれも美味しそうで迷うわ」


 愛梨は明るい笑顔で女の子を見た。

 女の子もニコニコしている。

 けっきょく愛梨は芋パンとクルミパンを買った。

 出来立てでホカホカしている。

 鞄に仕舞うふりをしてアイテムボックスの中に入れる。




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 2018/9/16 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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