おしゃべりなアイテムボックス 閑話 ①
「これは……どういう事だ?」
男は呆然と辺りの景色を眺める。
昨日まで確かにそこに家が6軒あった。
昨日の朝そこで寝泊まりしていたのだから。
彼は城の暗部の者だ。
廃れた民家は彼等の隠れ家でもあった。
そのことを知るのは王族のみ。
何者がこんな事を……
ふとよぎるのは召喚された少年少女の顔。
しかし彼らには監視の目が付いている。
悪戯か? なにか目的があったのか?
なら自分に連絡があるはずだ。
いや……待て。
小柄な少女の顔が浮ぶ。
黒髪黒目の少女は役立たずで、称号は【一般人】でスキルも【おしゃべりなアイテムボックス】と言う。
意味不明なスキルだ。アイテムボックスは喋らない。
それにアイテムボックスは大した集能力はない。
【アイテム倉庫】や【無限収納】ならかなりなものが入るが。
少女のはボックスなのだ。
一緒に転移した少年少女は【アイテムボックス 小】だ。
戦闘に極振りしなければならないためアイテムボックスは【小】のままだろう。
昨日今日で6軒の民家を収納出来ない。
あの少女は城に残りメイドになったはずだ。
メイド長に会う必要が出て来た。
王に連絡もしなければならないだろう。
男は王の元へと走った。
「今日出発ですか? 早いですね。魔の森の砦に行く前に愛梨に会いたいのですが」
「すみません。彼女もメイドの仕事で出かけているんですよ。メイド長に連れられて近くの町までお使いに出ているんです」
兵士は困った顔をして四条にそう告げた。
「そうですか。では……」
四条綾人はサラサラと手紙を書いて兵士に渡した。
「この手紙を愛梨に渡してください」
「畏まりました。必ず柿崎愛梨殿に渡します」
兵士と入れ替わりに騎士団長のマクガレンが部屋に入って来た。
「急な出発なんですね」
「済まないね。我々には余り時間が無いのだよ。こうしている間にも犠牲者は増えている」
「他の皆はもう既に出発しているんですね」
「我々が最後だ」
「愛梨にはてがみを書きました。また後で彼女に手紙を書きます」
「あ~ちょっと聞いていいか」
「何でしょう?」
「君と柿崎愛梨殿とは恋人なのかい?」
「いえ。恋人ではありません。これから恋人になる予定です」
四条はきりりとした顔で答えた。
それを聞いてマクガレンは少しほっとした表情を浮かべる。
「なにか?」
「いや……何でもない。そろそろ出発しようか」
「はい」
四条とマクガレンは城を後にした。
馬車の中で四条は城を振り返り。
必ず愛梨と共に元の世界に帰る事を誓うのだった。
愛梨が行方不明になったと知らされるのは半年後である。
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2018/9/9 『小説家になろう』 どんC
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