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第二十四話 家なきおっさん

遅くなって申し訳ありません。

「取り敢えず貴方の仕事を見たいです」


 愛梨はアヌビアスと言う魔導師の仕事を見て魔石を売ることを決めたいと思った。

 それとゴーレムのパーツも見せるかどうか考えよう。

 詐欺師かも知れないから。

 或いは何処かのスパイで愛梨を探る為に近付いたのかも知れない。

 愛梨達を召喚した国の者では無いかも知れないが、用心をし過ぎることはない。

 この世界では慢心と油断は死に直結するのだから。

 その事を愛梨は思い知っている。


「ああ……当然だな。俺の家はここから近いんだ。大切な魔石を無駄にしたく無いという気持ちはわかるし、ゴーレムのパーツは君のおじいさんの言わば形見みたいなものだろう。それをろくすぽ知らない奴に見せるのは気が進まないだろう。お爺さんの研究をだまし取られる危険性もあるからな」


 おっさん魔導師は嬉しそうに愛梨とアボスを案内する。

 スライムは下水道に残ってお仕事だ。

 ゴーレム騎士ナイトを数体用心の為に残しておく。

 なんかの拍子で下水道に降りてきた冒険者にスライムのポンポンが討伐されないためだ。

 それと出てきた遺体をネズミから守るためだ。

 出てきた遺体は袋に詰め、ギルドに運ぶようゴーレム騎士ナイトに言いつけている。


「家は持ち家なの?」


 愛梨はおっさん魔導師に尋ねた。

 割と裕福層が住んでいる場所だ。

 魔導師もピンからキリまでいる。

 国に保護されている、国家魔導師は一番稼ぎが良い。

 年に一度、研究レポートを提出しないといけないが衣食住保障されて研究費もたっぷり貰えるのだ。

 街に住む魔導師もそれなりの稼ぎがある。

 冒険者にポーションや魔道具を売っていればそれなりに暮らしていける。


「いや。借家だ」


 おっさんは胸を張り答えた。

 胸を張る事か?


「大家さんが安く貸してくれたんだ。かなりボロではあるが住めば都だ」


 おっさんと愛梨とアボスは角を曲がったその場所に付いた。


「ここが俺の家だ」


 おっさんは得意げにそこを指さした。

 かなり広い土地だが。

 おっさんが指さしたところに家はなかった。


「家? 無いわね。もしかして結界で隠しているの?」


『いや。結界は張ってないっす。どこにも家はないっす。文字道理更地っす』


「あっあれ~~~?」


 おっさんは辺りをキョロキヨロするが、何もない。

 ただ木箱が5・6個置いてあるだけで、白い柵でぐるりと囲われたその場所はやっぱり何処にも家は無かった。

 愛梨とアボスは木箱のふたを開け中を覗く。

 古ぼけた衣服と靴が入っている。

 別の箱にはスパナやトンカチっポイ道具と義手や義足が入っている。


「これもしかしてアヌビアスさんの私物?」


 ボー然とするアヌビアスに声を掛ける者が居た。


「おや? アヌビアスの旦那じゃないですかい。どうしなさった、魔族に鼻をつままれた様な顔をして」


 その男は40代ぐらいの小男でニヤニヤしながらアヌビアスを見ている。

 愛梨はその顔が姫巫女のアリアナと伊藤香織の底意地の悪い笑顔とかぶさって嫌な気分になった。


「家がない……」


 アヌビアスは再び呟く。


「ああ……家ですかい? 大家の婆さんが亡くなって息子が博打の借金のかたにこの家を差し出したんでさあ。この家を立ち退くように手紙が入っていたでしょう」


「大家さんが亡くなった‼ 手紙? そんなものは知らない……」


 男はポストから手紙を取り出すとアヌビアスに差し出した。

 よく見ると何故だかポストだけは残っていた。

 アヌビアスは男から手紙を受け取ると封を切って手紙を読んだ。

 そこには家を出る様にと書かれていた、日付は一月前のものだった。


「そんな……知らない……」


 おっさんは茫然としている。

 愛梨とアボスはひょいひょいと木箱をアイテムボックスの中に仕舞うとおっさんを連れてその敷地を出た。箱が消えるのを驚いた顔で見ていた小男は直ぐに表情を変えた。


「兎に角ここを出ましょう」


 愛梨はおっさんの手を引っ張って家があった場所からさくさく移動する。

 茫然自失のおっさんの背中をアボスが押す。

 小男はニヤニヤしながら三人を見送る。


 ___ どう思うアボス? ___


 愛梨は念話でアボスに訊ねた。


 ___ 嵌められたんっすね ___


 ___ あっ。やっぱり ___


 ___ さっきの男手紙を懐から出していたっす ___


 ___ じゃ、手紙が一月前に来ていたのは嘘なの? ___


 ___ 大家さんが亡くなったのも怪しいっす。それにヤクザ者が近くに隠れてこちらを伺っているっす。恐らくアヌビアス殿がごねたら袋叩きにするつもりだったっす ___


 ___ 兎に角【タンポポ亭】に連れて帰りましょう。部屋は在ったわよね ___


 ___ 今度長期滞在用の部屋を4階から下に造ったっす。若手の冒険者や商人の宿泊客が増えたから一か月、半年,一年用に客室を増やしそれと地上の食堂や厨房が手狭になったから地下に拡張したっす ___


 ___ うわあぁ~~~なんか既に小町リトルタウン化してない? ___


 ___ いやいやまだ劇場や初心者冒険者向けのショップやバーや衣料店や倉庫を作って雇用を増やさないといけないっす。一人勝ちすると妬まれるっす。なるたけ利益は回さなばならないっす ___


 アボスはゴーレムのくせに色々愛梨の為に考えている。


 取り敢えず2人は呆けるアヌビアスを【タンポポ亭】の地下倉庫に連れて来た。

 そこで前に農家の家に在った椅子とテーブルとアヌビアスの持ち物が詰まった木箱を置いた。

 後でベッドや風呂や台所も作らねばならないだろう。

 作業は大工ゴーレムに任せよう。

 義手や義足や工具を置く棚や作業用机も必要だ。

 愛梨は呆けているアヌビアスを椅子に座らせるとアボスと相談した。


「取り敢えず生活空間と仕事場をゴーレム大工に作らせて。彼の研究助手兼面倒を見るメイドゴーレムを2・3体付けましょう」


『そうっすね。こう言う研究馬鹿は寝食忘れるから、食事と睡眠は強制的に取らさないといけないっす』


 アヌビアスの知らぬ間に話はどんどん進んでいく。


「はっ‼ ここは何処だ? 俺は誰だ?」


「あっ……正気に返ったみたい」


「あれ? 確か俺は君たちを俺の家に案内して……家が無かった……いやいやそんなことはないはずだ……家が出かけて数時間で無くなるなんてある訳はない」


「残酷なお知らせですが、あなたの家は無くなっていました」


「いやあぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~‼ 一年間前払いしていたんだぞ‼ 契約違反だ‼」


 おっさんは雄たけびを上げゴロゴロと床を転げまくった。


『うるさいっす‼』


 アボスがおっさんの頭をどついた。

 珍しいと愛梨は思った。

 アボスが少しイライラしている?

 アボスは人間でもなく亜人でもない。

 どちらかと言うと愛梨がいた世界のコンピューターに近い存在だ。

 アボスは【おしゃべりなアイテムボックス】というスキルから発生した疑似人格で人間のような感情は持っていないはずだ……はずだよね……それともこの世界ではスキルも魂を持つのだろうか?

 愛梨は付喪神のことを思い出した。

 付喪神とは長い間使っていた物が妖怪化するという。

 スキルも妖怪化するのかしら?

 うん。分からない。

 考えても仕方ない。

 愛梨は思考を放棄した。


「アボスあの男を調べてくれないかしら。どうも土地だけの問題ではないような気がするの」


『了解っす。この名探偵アボスにお任せっす』


「誰が名探偵なのよ。どちらかと言うと現場を混乱させる迷探偵でしょう」


『酷いっす。アボス泣いちゃう~~~っす』


 愛梨はアボスを無視して頭を押さえて唸っているおっさんを食堂まで引きずって行った。

 アボスは大工ゴーレムを10体召喚すると、大工ゴーレム達に居住区と研究室を作る様に命令する。

 そしてネズミゴーレムと犬ゴーレムと鳥ゴーレムにあの男を調べるよう命じた。

 そしてアボスは愛梨の後を追う。

 あの地下の少年達の死体も気掛かりだった。

 痩せこけた子供の死体ならスラムに住んでいた子供だと思うだろう。

 だが……あの死体は健康状態もいい、上等な服を着ていた。富裕層の子供の物だ。

 貴族の子供もいた。それに胸に刻みつけられた魔法陣。

 あれは邪神の生贄か?

 それとも……

 あのおっさんにしろ子供達の死体にしろこのダンジョン都市は闇が深い。

 アボスはため息をついた。

 ため息をついた後、自分がため息をついた事に気が付いた。

 まるで人間みたいだと笑う。

 兎に角誰が相手だろうと何が相手だろうと。

 愛梨を守る。

 自分の存在理由はそれだけだ。

 アボスは愛梨の後を追って食堂に向かった。



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 2019/9/26 『小説家になろう』 どんC

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