第二十二話 下水道とスライムと死体袋
「アボス……これ何? 」
愛梨はそれを指さした。
『テイムしたスライムっす』
「噓をつくんじゃない!! 昨日ダンジョンでテイムしたスライムが何でスライムキングになってんのよ!!」
プルンプルンと揺れるスライムは【タンポポ亭】にあるスイートルームに入りきれないでかさになっていた。
『アイテムボックスの秘密っす』
「【乙女の秘密】を【アイテムボックスの秘密】に言い換えても全然誤魔化しになってないわよ!!」
『昨日テイムしたスライムをアイテムボックスの中に入れて、色々ゴミを食べさせていたらこうなったっす』
「アイテムボックスの中にあるゴミを食べさせたの?」
『いやぁ~面白かったっす』
与えるもの与えるもの全部食べたっすとアボスは笑う。
「唐揚げ・マヨネーズ・おばあちゃん。子供をデブにする三大要因にアボスも入れるべきね」
子供じゃなくスライムだけど。
『いやぁ~それほどでも~~♪っす』
「誰も褒めて無いわよ」
愛梨はため息をつくとデブと化したスライムをアイテムボックスの中に【収納】した。
今日はテイムしたスライムを使ってギルドの依頼を受けるつもりで、スライムをアイテムボックスから出したのだ。なのに見る影もなくデブへと進化していた。
マントをはおり階段を降りる。
「アイ姉ちゃん出かけるの?」
トウスが尋ねる。
子供達は【タンポポ亭】の前に落ちているゴミや雑草をスライムに食べさせていた。
シャランとブレスレットが揺れる。
子供達はテイマーの素質があるようで、上手にスライムを操っている。
「ギルドの塩漬け依頼を受けようと思うの」
「「あたしも行く」」
ミズラとヨシカが同時に声を上げるが、愛梨は首を振る。
「塩漬け依頼は危険な物もあるの。今日受けるのは下水道の掃除だけど下水道には魔物が居るかも知れないし、それに……」
多分死体が出てくるだろう。
愛梨はその言葉を飲み込む。
「ミズラとヨシカの歳では冒険者ギルドに入れないんだ。残念だけど冒険者ギルドに入れる歳になったらアイ姉ちゃんのお手伝いをしようね」
トウスがミズラとヨシカを優しく諭す。
流石お兄ちゃんである。
「「うん」」
「じゃ。行ってくるね」
「「「「「行ってらっしゃい。気をつけてね~~」」」」」
愛梨は皆に手を振り人力車に乗り込む。
「冒険者ギルドまで」
車夫ゴーレムは頷くと冒険者ギルドまで走る。
アボスは人力車の後ろを走りながら索敵をおこなう。
通りにも屋根の上にも敵はいない。
悪意をぶつける者もいない。
熱いまなざしでアボスと車夫ゴーレムを見詰める者はいる。
最初にダンジョンに潜った日に魔石を買いたいと申し込んできた魔導師だ。
アボスは気づかぬふりをして冒険者ギルドまで走った。
冒険者ギルドは朝の慌ただしさも納まり少し閑散としていた。
「あっ。アイさんいらっしゃい」
冒険者ギルドに入った途端にミュウミュウに出迎えられた。
スタンバってたのと思わず聞きたくなる。
「塩漬け依頼の下水道の掃除受けます」
愛梨は古くなって埃をかぶった様な木の板を取った。
心なしか書かれた文字も霞んでいる。
依頼は薄い木の板に書かれている。
板の上に穴が開いていてL字に曲がった釘にかけられている。
依頼はランクごとに分けられているが、塩漬け依頼は隅の方にポツンと掛けられていた。
「はい。よろしいのですか? 時間と手間がかかる割には安いんですよね。ギルドとしては助かりますが期間は一ヶ月ぐらいです。下水道の入り口は斜め前にある神殿に入り口があります。神官様に言えば入口を開けてくださいます」
「はい。分かりました。それで出てきた魔物は退治するとして……」
愛梨はミュウミュウの耳に囁いた。
「出てきた遺体はどうしましょう?」
「取り敢えず遺体袋を20枚渡しておきますね」
ミュウミュウも小声で答える。
足りるかしら? と呟いた。
下水道はダンジョンとは違うため遺体が消えることは無い。
遺体も冒険者とは限らない為、取り敢えず遺体を回収し神殿で弔ってもらう。
不思議なことに遺体がゾンビになることは今まで無かったし疫病が流行る事も無かった。
おそらく遺跡にかけられている何らかの魔法陣のせいとみられているが調査は行われていない。
愛梨は遺体袋を貰うとアイテムボックスにしまい。
行ってきますと笑顔でギルドから出ると、アボスを連れて神殿に向かった。
神殿は冒険者ギルドから東に400m行ったところにあった。
「こんにちは。神官様」
「ああ……ギルドから連絡は来ている。よろしく頼む」
「はい。お任せください。」
神官は礼拝堂の地下にあるドアから下水道に入った。
下水道の入り口は全部で5ヵ所ある。
もっとあったらしいが塞がれたらしい。
下水道は最終的にダンジョン都市の外に流れ出ている。
魔物が入り込まないように鉄格子と結界で塞がれているんだとか。
神官の説明を聞きながら愛梨は階段を降りた。
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「暗いわね」
愛梨は呟いた。
暗い。まじ暗い。それにこの悪臭。
『ライトっす』
アボスは明かりの魔法を使った。
辺りはオレンジ色の光で満たされる。
思ったより広い。
そして思っていたよりもゴミの山だった。
壊れた家具や馬車まである。
馬車は半分壊れ、かなりの血の量がぶちまけられている。
事故? 殺人? 凄くやばげだわ~~!!
気になるのはどこから馬車を入れたかよりも、これ絶対証拠隠滅でここに棄てたんだわ~~
愛梨は遠い目をした。
ネズミ?の糞もある。
本当にホラー映画で出てきたワニやゴキブリの進化体や人食いの化け物でも出てきそうだ。
ダンジョン化はしないのだろうか?
愛梨は疑問に思う。
そもそもダンジョンってどうやって出来るの?
「随分立派な下水道ね」
愛梨は辺りをキョロキョロしながらアボスに尋ねる。
「誰がここを作ったの?」
『伝説によると賢者が妖精を使役して造ったらしいっす』
「賢者……名前はわかっているの?」
『賢者グレンオルスと妖精の都って呼ばれていたっす』
「賢者か~物語に出てきそう」
『【グレンオルスと妖精姫】と言うお芝居ならあるっす』
「賢者とお姫様の恋物語? 賢者が若い頃のお話?」
『いやぁ~。賢者はかなりの高齢だったっす』
「老いらくの恋?」
『熱を上げていたのは聖女様だったらしいっす』
「あれ? 普通勇者と聖女でカップリングよね~~」
『勇者は幼馴染と結婚したっす。賢者は魔王を倒したら田舎に引っ込んだっす』
「えっ? 」
『賢者が研究の成果として妖精の都を作って引きこもったと言われているっす。実際は強引に迫る聖女から逃れるために作ったっす。その為妖精の都は無茶苦茶トラップ塗れだと言われてるっす』
「どんだけ聖女嫌われていたの!!」
『勇者と王子と魔導師と聖騎士とアサシンには許嫁がいたっす。皆身持ちが硬かったっす。フリーは妻を亡くした賢者だけっす』
「いやいや男は他にもいたでしょう」
『金と地位と城と権力と領地を持ってて子供もいなくて直ぐ死にそうなのは賢者だけだったっす』
「わ~~~下手したら殺されて財産盗られそう~~~」
『賢者はすっかり女性不信になったっす』
「賢者が哀れだわ~~~」
聖女のストーカーなんてマジ怖い!!
愛梨はアイテムボックスからスライムを出した。
「あら? またでかくなってない?」
スライムキングになってはいたが、下水道の方がでかいので【タンポポ亭】程の圧迫感は無い。
『アイテムボックスの中は魔素が溢れていて。魔物には過ごしやすいっす……またゴミを食べていたっすね~~~』
スライムはぷるるんと揺れた。
その通りと言っているようだ。
アイテムボックスのゴミは余程栄養が良いみたいだ。
『分裂して下水道の掃除をするっす』
スライムはブルブルと震えると400体程に分裂して下水道の掃除を始めた。
シュワシュワとゴミが解けていく。
これだけゴミの山なのに地上には悪臭も漏れていないのは不思議でしょうがない。
天井からぼたぼたとゴミが降ってくる。
ダンジョン都市にはゴミ箱が至る所にあり、そのゴミが直通で下水道に落ちてきているのだ。
『あっ……早速遺体が出てきたっす』
1体のスライムが体の中に遺体を入れて愛梨の所までやって来る。
アボスは遺体袋を広げた。
スライムは遺体袋の中に潜り込み遺体だけを袋に残しまた掃除しに持ち場に戻った。
愛梨はその遺体を覗く。
赤い生地に袖の周りに幾何学模様の刺繡が施されている。
首にはジャラジャラと首飾りをしている。
髪は青みがかかった銀髪で背中ぐらいまで伸びている。
ミイラでなければかなりモテたんだろう。
「女の人?」
『いや。男の娘? っす』
「こっちの世界でもいるんだ~~」
愛梨は遠い目をする。
『また遺体っす』
今度も体の中に遺体を入れて運ぶスライム。
「遺体袋足りるかしら? 今度は冒険者?」
『このスピ-ドなら足りないっす。土嚢を入れる袋ならあるっす』
「足りなくなったら土嚢袋に入れときましょう」
しかし……愛梨は考える。
死体を見てもキャーキャー騒がなくなった自分は可笑しいと。
ダンジョンに初めて潜った時は絶叫マシンの客の様に叫びまくりだったのに。
召喚された魔法陣に【精神強化】の魔法でも仕込まれていたんじゃないかと思った時期もありました。
単にアボスに振り回されて、壊れただけかもしれない。
一般人である愛梨ですらこんな目に遭っているのに、一緒に召喚された彼らは魔王退治の過酷な旅でどんな酷い目に遭っている事だろう。
勇者と言われた生徒会のメンバーを思い出しながら彼らの冥福を祈る愛梨であった。
(まだ死んどらんがな!! と言うツッコミを入れてくれる者は居ない)
しかし……愛梨は知らなかった。
生徒会のメンバーがサクサクレベルを上げて魔王を倒して愛梨の元にやって来ることを。
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2019/5/24 『小説家になろう』 どんC
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拙い作品ですがこれからもよろしくお願いします。




