第十九話 カバ王子と【タンポポ亭】①
「ヒャッハー!!」
ドボン。
カバ王子は湯船に飛び込んだ。
そしてすいすいと湯船の中を泳ぐ。
カバは泳ぐの得意だな~とデオスは遠い目をした。
「王子湯舟の中で泳ぐのはエチケット違反ですよ」
デオスは王子を窘めた。
王子は馬鹿にしたようにデオスを見る。
「誰も居ないからいいじゃないか」
さっき中年の冒険者が出て行ったから暫くは誰も来ないだろう。
風呂の中にいるのは王子と部下だけだ。
部下達は風呂に入らずごしごしと体を洗い嬉しそうに石鹼の泡塗れになっている。
「殿下風呂と言うのは良いものですね」
赤毛の騎士がうっとりと泡に塗れて言う。
さっきトウスに案内されて石鹼やシャンプーの使い方を習った騎士達。
「風呂と言う物は何だか癒されますね~」
騎士団長が湯船につかりほうっとため息をつく。
全身の疲れが湯に溶け込む様だ。
「何か貴族御用達の時より贅沢になっている。何かむかつく~」
カバ王子はゆったりと湯船に浮かびながら旅の疲れを癒した。
「メレデア!! そっちはどうだ~!!」
カバ王子は隣の女湯に声を掛ける。
「はい。このシャンプーと言う物は良い香りがして髪が艶々になります」
直ぐにメレデアの返事がした。
どうやら髪を洗っているらしい。
女騎士とメイド達の声がする。
「本当にこの石鹼薔薇の匂いがして癒されます。メレデア様の肌も艶々して羨ましいです」
「本当にこの宿が冒険者向け何ですか?」
若いメイドが尋ねる。
「殿下昔からこのお風呂はあったんですか?」
「いや無かった」
王子が家出した時にはこんなものは無かった。
ここはただの庭で花壇があるぐらいだった。
「俺様が泊まった時より豪勢なんだが~~~!!」
カバ王子は理不尽な怒りを向ける。
「王子背中流しますから風呂から出てください」
トウスが泡だらけのスポンジを持ってカバ王子に呼びかける。
トウスは騎士達の背中を洗って最後に王子の背中を洗うだけだ。
「ふむ。美味い」
デオスは他の子供が持ってきたお酒に舌鼓をうつ。
本当に【タンポポ亭】の子供達は良く働く。
ゴーレムボーイが客の背中を流そうとしたが自分達がすると甲斐甲斐しく働いた。
「メレデア様~~このアイスクリームと言う物はとっても甘くて美味しいです~~~」
隣の露天風呂では皆でアイスクリームを頂いているようだ。
「なに!! メレデア!! アイスクリームと言う物が美味しいのか?」
カバ王子は酒よりアイスクリーム派だった。
「おい少年!! 俺にもアイスクリームを持ってまいれ」
「かしこまりました。アイスクリーム一丁~~」
直ぐにゴーレムボーイがアイスを持ってきた。
直ぐに王子はアイスクリームにスプーンをぶっ刺した。
「美味い!! 美味い!!」
見る間にアイスクリームはカバ王子の腹の中に消えた。
「このアイスクリームと言う物は美味いな」
カバ王子はトウスに尋ねる。
「ここの女将が考案した物か?」
「う~ん。アイ姉ちゃんが言ってたのをゴーレムコックが作った物だよ」
「何と!! アイが考案した物か?」
ごしごしとカバ王子の背中を洗いながらトウスは頷く。
「アイ姉ちゃんはゴーレムをつかってこの宿を改装してくれたし、一杯色々してくれたんだ」
「何と!! ゴーレム騎士や車夫ゴーレム以外にもゴーレムはいたのか!!」
「うん。大工のゴーレムもいたけど今はゴーレムコックとメイドとボーイと人力車を引く車夫ゴーレムだけだよ」
「そうか……色々いるのだな。一体何体居るんだ?」
「知らない。アイ姉ちゃんも知らないって言ってた(笑)可笑しいよね。自分のゴーレムなのに」
「そうだな。きっと数を数えるのが面倒なんだろう」
「そうだね。割とアイ姉ちゃんは雑な所があるからね。『男は細かい所に拘るな』って言ってたから」
「なかなか大物だな」
「でも優しいよ。俺は大好き。みんなも感謝しているんだ」
トウスは笑う。
「そうか……その感謝の気持ちはキチンとアイに伝えるんだぞ。伝え損ねて後悔しないようにな」
「……うん。殿下は感謝を伝え損ねた人がいるの?」
「まあな……可愛い子だった。私を愛してなついていた。白い毛で良くサンルームで昼寝をしていた」
「それ……猫なんじゃ……?」
「タマと言ってな私の愚痴を聞いてくれた。老衰で……」
「……殿下……友達居なかったの?」
「友達はいなかったが、婚約者はいるぞ」
「ちっ。このリア充め」
小さな声でトウスは呟く。リア充爆発しろ!! よくカップルを見て愛梨も呟いている。
「何か言ったか?」
「ううん。一緒に人力車に乗っていた綺麗な人が婚約者だよね」
「おおそうだ。綺麗で頭が良い。自慢の婚約者だ」
「惚気か!!」
「ふむふむ。存分に妬むがよいぞ」
「殿下は果報者ですね」
「うむ。そうだな。婚約者も部下も良くしてくれる。皆の期待に応えるためにもダンジョンに潜ってレベルを上げないとな」
「王族も大変なんだな~~」
「民の血税で養ってもらっているのだ。義務は果たさねばならぬ」
「殿下は良い王様になるね」
「当然だ。道を間違えたらはったおしてくれる婚約者もいるからな」
「えっ? 見かけによらず凶暴なの?」
「強いぞ。この間も……」
「殿下!!」
向うの風呂からどすの利いた声がする。
「おおっと。風呂から上がるとしようかな~~♪」
カバ王子はそそくさと風呂から出ていった。
夜にまた入ろうとカバ王子思う。
騎士とカバ王子は風呂から出ていった。
トウスはみんなが使った桶と椅子を並べた。次に来るお客様が取りやすい様に細かい心使いだ。
「今晩、ちゃんとアイ姉ちゃんに『ありがとう』って皆で言いに行こう」
メイドゴーレムの一人からアイがダンジョンに潜って【カレーの材料】を取りに行っていると聞いた。
帰りは少し遅くなるので皆は先にご飯を食べていてくれとのことだ。
アボスが付いているから心配は無いが、レベルの低いアイではまた寝込まぬか、そっちの心配がある。
メイドゴーレムとボーイゴーレムは各10体居てそれぞれ胸のプレートに名前が書かれている。
トウスは知らなかったが1体に附き10体程のゴーレムが居て代わりばんこに【タンポポ亭】で仕事しているのだ。地下にある部屋を掃除する時など気づかれぬように5体程出てきて仕事している。
メイドもボーイも口がきけるが、その分戦闘能力が低く設定されている。
B級冒険者ぐらいの強さだ。強くして旅館を壊されては堪らないからだ。
5時間ほど働くとアイテムボックスの中に入り魔力を充電する。
【24時間戦えます】のゴーレムでもアイテムボックスの中以外は割と魔力を消耗する。
アイテムボックスの中に入れぬ時は魔石でエネルギーチャージができる。
愛梨が魔石を売らない訳がそこだ。
万が一の為。この世の中何があるか分からない。
だから魔石は極力貯め込んでいる。
うっかり道を歩いていて異世界召喚に巻き込まれる事だってあった。
メイド長に崖から突き落とされることもあった。
愛梨は自分の運の悪さを自覚していた。
『6階はジャングルになっててクミンがあるっす』
アボスはクミンを指さした。
カレーのスパイスはダンジョンの中にあるにはあるが。
盛大に散らばっている。
海の小島にあったりする。割とめんどくさかった。
しかも魔物のおまけ付きだ。
兎に角ダンジョンの中をアボスとゴーレム騎士5体とゴーレムメイド2体を引き連れてウロウロする。
【クミン】【コリアンダー】【カルダモン】【オールスパイス】【ターメリック】【チリペッパー】最低限のスパイスが集まる。
「不思議ね~~」
二度目のダンジョンだが辺りが暗くなってきた。
勿論ダンジョンの中に太陽は無い。だが昼と夜はある。
雨も降るし、嵐もある。
エベレストの様な山の階層では吹雪もある。
ダンジョンの中は四季の区別がある。
夏の階層もあれば冬の階層もある。
秋の階層はいつだって実り豊かだ。
『ここのダンジョンは特に豊かっす』
「え~~とこの階層でスパイスは終わりかな? でもアボスよく見つけたね」
『どの階層にもゴーレム騎士とネズミ型ゴーレムと猫型ゴーレムを放っているっす』
「ねえ前から聞こうと思っていたけれど今ゴーレムは何体いるの?」
『乙女の秘密っす』
「アボスは乙女じゃ無いでしょう。どっちかと言うと汚留め(おどめ)だわ~~(笑)」
『酷いっす。これでも綺麗好きっす』
「えっ? もしかして私の知らない時に風呂に入っているの?」
愛梨の脳裏にタオルを頭に乗っけて風呂に入るアボスの絵面が浮かぶ。
『これっす』
アボスは小さい紙を丸めた様な物を差し出す。
「これは何?」
『浄化玉っす』
「浄化玉?」
『こう使うっす』
アボスはその玉を親指と人差し指ですり潰す。
ほわりと温かな光がアボスを包みやがて消えた。
光の消えた後にはピッカピカのアボスがいた。
「うわ~~~!! これは……冒険者に売れるわ~~~!!」
『愛梨はここんとこ金の亡者になっているっす。しかも冒険者からむしり取る発想ばかりっす』
「え~~だって金持ちの財布の紐は堅いから、冒険者からむしった方が早いんだもん」
『うう……お母さんはあんたをそんな子に育てた覚えは無いわよっす』
「誰がお母さんなんだよ~~~!! 鉄臭いおかんなんて御免だよ~~!!」
ダンジョンの中でアボスと愛梨の掛け合い漫才は続く。
*************************************
2019/3/22 『小説家になろう』 どんC
*************************************
感想・評価・ブックマーク・誤字報告ありがとうございます。
特に誤字報告は感謝です。これからもよろしくお願いします。




