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第十七話 うざいカバ王子様

「で……こことここにサインしたらいいのね」


 愛梨はミュウミュウさんが作ってくれた書類にサインする。

 あれは幻。存在しない。

 愛梨はブツブツと呪文のように繰り返す。


「久しぶりに飲まないか? 積もる話もあるからな」


「ああ。いいね。ミュウミュウ後は頼んだ」


 ロジャーさんとギルドマスターは契約が済むとそそくさと出ていった。

 時は金なり。商人の鑑だな。

 面倒ごとから離脱しただけだが。

 後に愛梨とアボスとミュウミュウさんを残して。


「おい!! 無視すんな!!」


 目の前の椅子にカバがどっかりと座る。

 このカバは何と服を着ている。

 しかも王子様のカボチャパンツまで履いているのだ。


「あれは幻。疲れているのね。私カバが見える。アボス、カレーのスパイスを取りに行くのは明日にしましょう。今日は帰って寝るわ」


「誰がカバだ!!」


 カバが顔を赤くして怒る。


『現実から逃げるのは良くないっす』


「嫌よ。これを王子と認めるぐらいなら私は首を括るわ」


 私はカバを指さした。


「アイさん現実は醜く残酷な物です」


 ミュウミュウさんは痛まし気に、私の肩に手を置いた。

 どこぞの赤いマフラーを巻いた巨人と戦っていた女戦士はこの世界は美しく残酷だと言っていたが。

 醜く残酷な世界なら滅ぼしちゃってもいいよね♥


「醜く残酷なだけの世界なんて要らない!! ぶっ壊して作り変えたらいいのよ~~~~!!」


『どんだけ王子様に夢見てるんっすか?』


「お前達不敬罪って知っているか? いい加減にしないと首を刎ねるぞ!!」


 いつの間にかカバの後ろに騎士が6人ほど立っている。

 床が輝きゴーレム騎士ナイトが現れカバと騎士に矛先を向ける。

 愛梨とカバは睨み合った。


「はいはい。ギルドの中でじゃれ合うのはそこまでにしてください」


 老騎士がパンパンと手を叩く。


「せやかて爺や。こいつらムカつく。王族に対して不敬であろう」


 どうやら渋い初老の騎士は王子の子守らしい。


「ここはこの大陸最大のダンジョンです。ダンジョンはスタンピードを防ぐために自治区となって王族や貴族の権力をはねのける事ができます」


(えっ? そうなのアボス?)


(ケチってスタンピードを回避出来ず国を滅ぼしたアホの貴族がいたっす)


(ケチってって……軍隊をダンジョンに入れると確かにお金かかりそうだけど。魔物が落とす魔石やら素材でトントンな出費にならない?)


(生憎とスタンピードを起こしたダンジョンはアンデッド系の人気のないダンジョンで実入りが良くなかったみたいっす。聖水が高くて赤字っす)


(へ~実入りの悪いそのダンジョンは今どうなっているの?)


(勇者が攻略して潰したっす)


(攻略?)


(最下層のボスを倒すと攻略出来てダンジョンの核になる魔石の置いてある部屋に入ることができるっす。魔石を外して持ち出すと3日以内にダンジョンは消滅するっす)


(ふ~ん。そうなんだ。ここのダンジョンも攻略して消すの?)


(利用価値のあるダンジョンは魔石を別の魔石に変えると規模は小さくなるけれどそのまま使えるっす。スタンピードの心配も無くなるっす)


(へ~そうなんだ)


 愛梨とアボスがぼそぼそと念話していると老騎士が愛梨の側に来て頭を下げた。


「初めまして【ゴーレム使い】のアイ殿。私の名前はデオス・ミリガンと申します。以後お見知りおき下さい」


「初めまして。【ゴーレム使い】のアイです。ご用件はゴーレムのレンタルでしょうか?」


「おお話が早くて良いですな。我等にもゴーレム騎士ナイトをお貸頂きたい」


「魔物の討伐ですか?」


「いえ……王子のレベルアップです」


「王子のレベルアップ? 王子は騎士が守るから強い必要はないのでは?」


「いえ。王太子となる者はある程度のレベルが必要になります。強さは王太子になる条件の一つですからね」


「王太子? このカバが……失礼を承知で言いますが。お宅の国大丈夫ですか?」


「大丈夫です。もう一つの条件で賢い婚約者がおります。メレデア様は【奇跡の世代】と呼ばれる5人の一人ですから」


「まあ【奇跡の世代】と呼ばれるあのメレデア様ですの!! このカバの婚約者が!!」


 ミュウミュウが驚きの声を上げた。


「ミュウミュウさん知っているの?」


「勿論です。この大陸で一番大きなニデス皇国のサントリア皇立学園に4人の王太子と王太子の婚約者が入学して後に【奇跡の世代】と呼ばれることになったんですよ。彼らは友情を育み【不可侵条約】を結んだのです」


「ええ~~~!! このカバがそんな立派なことをしたの!!」


「それを成し遂げたのはメレデア様です」


「このカバは?」


 カバ王子はドヤ顔をしている。


「このカバは【影のシックスメン】と呼ばれております」


 おい爺やカバって言ってるぞ。


「影から【不可侵条約】の提携に協力したんですか?」


「私の国に【人の振り見て我が振り直せ】と言う諺がありましてね」


「ああ。そちらの国にもその諺があるんですね」


「このカバのアホさを見て【ああはなりたくない】と5人は頑張られたのです」


 愛梨はカバ王子を見た。

 王子はドヤ顔をしている。

 カバ王子じゃなくてバカ王子だった。


「賢い婚約者が居て良かったですね」


「不幸中の幸いです」


「お前らいい加減にしろよ!! そんなに褒めるな照れるだろう」


 カバ王子は照れていた。


「デオス。ゴーレム騎士ナイトのレンタルは終わったの?」


 一人の少女が入ってきた。

 赤い髪に緑の瞳の美少女だ。


「メレデア様ホテルでお待ちくださいとあれだけ言ったはずですが……」


「ごめんなさい。王子が抜け出してしまって多分こっちに来てると思ったの」


 ちらりとカバ王子を見る。やっぱりここに居たと呟く。

 どうやら王子とメレデア伯爵令嬢は宿屋で待機だったようだ。

 しかしカバ王子は勝手に抜け出してギルドに入り込んだのだ。

 愛梨は彼女が気の毒になった。

 アホな王太子の面倒を見ながら国を支える。

 並大抵のことでは無い。


「私あなたを尊敬します」


 愛梨は瞳を潤ませながらメレデアの手を取った。

 愛梨は本能で彼女の中に同族の匂いを嗅いだ。


「王族を支えるのが貴族の務め……民の為ならどの様な苦難にも耐えて見せます。それに王太子様は良い方です」


「おだてて操るのに都合がいいの?」


「ふふ……王太子がそんなに優秀な必要はありません。進むべき方向性さえ合っていれば神輿として十分です。後は優秀な人材を揃えて置けばいいだけです」


 愛梨は昔映画にもなった、お殿様の話を思い浮かべた。

 要するにこの人僕が付いていないとダメだ!!

 と部下に思わせ、部下の才能を120%引き出す奴。

 どうやらカバ王子はそのタイプらしい。


「アイさん契約書が出来ました」


 素早くミュウミュウは書類を作成しデオスがサインをする。


「ふんふん。さっきと同じでこことここにサインですね」


 愛梨もサインをしながらゴーレム騎士ナイトの待ち合わせ場所を聞く。


「明日からダンジョンに潜るんですね。ではゴーレム騎士ナイトはダンジョンの入り口に待機させておきますね」


 愛梨はごそごそとバッグから【タンポポ亭】のポスターを出した。


「それとミュウミュウさんこのポスターをギルドに貼ってもらえないでしょうか?」


「おい。これは何だ?」


「【タンポポ亭】の宣伝ポスターです」


 カバ王子は食い入るようにポスターを手に取った。

 温泉? バイキング? 人力車? カバ王子はブツブツ言っていたがおもむろに顔を上げて。


「俺様は【タンポポ亭】に泊まるぞ!! ゴーレム騎士ナイトも【タンポポ亭】から一緒にダンジョンに向かう」


 そう宣った。


「殿下他の所に宿を取っておりますが……」


「いや。俺様この人力車に乗りたい!! 乗りたい!! 乗りたい~~!!」


 カバ王子は駄々をこねた。

 カバが駄々をこねても可愛くない。一思いに捻り潰したくなる。

 ダメ落ち着くのよあれは金づる金づる。カバでも馬鹿でも大事な金づる。

 愛梨は再び小声でブツブツ言い出した。


「仕方がないですね。私もその人力車なる物に乗ってみたいです」


 メレデアはニッコリ笑う。

 メレデアは後ろに控えている騎士の中で赤毛の青年に、宿を引き払って【タンポポ亭】に来るように宿に残っている者に伝えるように命じた。

 赤毛の騎士は頷くと急いで部屋から出ていった。


「【タンポポ亭】にお泊りですか? 恐れ入りますが何人様でしょう? スイートルームを使われますか?」


 愛梨はさっきの態度を微塵も見せずに接客をする。

 たとえカバでも馬鹿でも上客だ。金づるは逃さない主義の愛梨であった。


「私達を入れて20人だ。スイートルームと5人部屋を3部屋頼む」


「ありがとうございます。表に人力車をご用意させました。どうぞ【タンポポ亭】までの短い乗車ですがお楽しみ下さい」


 上客ゲットだぜ!!


 愛梨とアボスはガッツポーズを決めた。


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 2019/3/9 『小説家になろう』 どんC

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感想・評価・ブックマーク・誤字報告ありがとうございます。

取り敢えずの目標は10万字書くことです(笑)

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