第十三話 『タンポポ亭改造計画』
「大きな庭ね」
タンポポ亭の裏庭は草ぼうぼうだったけど思いの外広かった。
貴族御用達だけあって馬車や馬小屋も広い。
しかし今は馬も馬車も無く。がらんとしている。
「アボス……温泉……温泉作れる?」
愛梨はキラキラと目を輝かせてアボスに尋ねた。
人間というものは欲の深い生き物である。
愛梨とて例外ではない。
アイテムボックスにある農家のお風呂。
最初のころはとても嬉しかった。
だが……愛梨の日本人の血が叫ぶのだ。
温泉に入りたい!!
露天風呂でアイス食べながら月を愛でたいと。
『お風呂なら作れるっす。温泉は火山が無いので無理っす』
「それでもいいわ。大きなお風呂を作りましょう♡ 竈も作ってパンやピザも焼きましょう。それに宿も改築しなくちゃ。貴族相手ではなく冒険者相手にしましょう。貴族とは関わりたくない」
女将さんを抜きにして勝手に盛り上がる愛梨であった。
あの王家の事もあり。貴族とはお近づきになりたくないのだ。
貴族と関わってあの国に生きてることがばれたらめんどくさい事になる。
武力行使で連れ戻そうとするかもしれない。
巫女姫の事もあり狂信者は厄介だ。
仮に王様は無実だとしても、あの国にはびこっている思想にはやばいものがある。
『そうっす。改築なら任せるっす。大工ゴーレムの出番っす』
「大工ゴーレム?」
『大工仕事が得意のゴーレムっす。コックゴーレムやメイドゴーレムやボーイゴーレムも出すっす』
「えっ? ちょっと待って。何時の間にそんなに増えたの?」
『乙女の秘密っす』
「いやいやいやいや!! アボス乙女じゃないでしょ!! 性別も無いでしょう!!」
『ゴーレム差別っす』
「アイ姉ちゃんアボスと何を話しているんだ?」
トウスが不思議そうな顔をして尋ねる。
他の人にはアボスの声は聞こえない。
愛梨とアボスの会話は他の人にはテルル~ティルウウ~と聞こえるらしい。
みんなは愛梨がゴーレム語を喋っていると思っている。
愛梨は頭を掻き。
「今アボスにどうしたら『タンポポ亭』にお客さんが来てもらえるか話してたの」
「アイ姉ちゃん宿屋を手伝ってくれるの?」
「女将さんとは共同経営者だからね~。口も金も手も出すよ。みんなで女将さんと『タンポポ亭』を盛り上げましょう」
「共同経営者?」
トウスは首を傾げる。
「女将さんは宿と料理を提供する。私はお金と労力を提供する。持ちつ持たれつだよ。皆で宿を再開しよう」
「うん。うん。そうだね。俺も手伝うよ」
トウスは目をキラキラさせて愛梨とアボスを見た。
『女将さんが帰ってくる前に明日の朝食の仕込みをしておくっす』
「あ……もうそんな時間? 今三組の冒険者に食事のサービスが付いているのよね」
『愛梨が寝込んでいるうちにゴーレム騎士の貸出しているっす。商業ギルドからも護衛用に貸出しの打診が来ているっす』
「1日10万ベベルは大金だけど安全が買えるなら安いのかも知れないわね」
トウスに案内されて愛梨とアボスは厨房に来た。
アメリアが買ってきた食材が大きなテーブルに置かれている。
明日の食事の材料だ。
「思ったより大きいのね」
寂れた感じではあるが掃除は行き届いている。
子供達が一生懸命掃除していたのだろう。
しかし……多くの客室までは手が行き届かなかった。
『昔は貴族や大商人の固定客がいたらしいっす。でも女将さんのお父さんが亡くなられてから大手のホテルに従業員を取られたり、旦那が勝手に辞めさせたりで大きい割には3割ほどしか稼働できていなかったらしいっす。取り敢えずコックゴーレムを出すっす』
アボスはコックゴーレムを召喚した。
5体のゴーレムが現れる。
コック帽に白いコック服。体は170㎝ぐらいでわりとほっそりしている。
ぱんとアボスは手をたたく。
『食事の下ごしらえをするっす。メニューはこれっす』
コックゴーレム達はテキパキと仕事に取り掛かる。
「ただいま」
裏口から女将さんが帰ってきた。
八百屋の兄ちゃんも一緒だ。
兄ちゃん店はいいのか?
と愛梨は思ったが口には出さなかった。
「何ごと!!」
女将さんはコックゴーレムを見て思わず叫んだ!!
八百屋の兄ちゃんもたじろいでいる。
「「お帰りなさい」」
愛梨とトウスは振り返りジジガイモをむく手を止めた。
ポテトサラダとコロッケを作るのだ。
愛梨たちが作っているのは子供たちの晩御飯だ。
冒険者に出す食事はコックゴーレム達が作っている。
『良い所に帰ってくれたっす』
アボスは女将さんに料理の味付けを頼む。
コックゴーレム達は料理の下拵えを終わらせていた。
肉も処理がすみ塩胡椒で味付けがすまされている。
女将さんはコックゴーレム達の下拵えを見てテキパキと味付けをしていく。
今晩の晩御飯と明日の朝食が瞬く間に出来上がる。
タンポポコーヒーの準備とデザートの干した果物(杏子に似た果物)も忘れない。
クリスはポカンと見ていたが、女将さんが生き生きと料理を作っているのを見て笑うと。
「忙しそうだし。俺店があるから帰るよ」
愛梨とトウスに告げる。
「兄ちゃんありがとう。今度ちゃんとお礼を言うよ」
「ああ……またな」
八百屋の青年は片手をあげて帰って行った。
「あ……クリスさんすみません。お茶も出さないで……」
宿屋の前でお茶を買いに行っていたアメリアとバッタリ会った。
タンポポコーヒーを買って来たのだ。
ここのタンポポコーヒーはコーヒーと言うよりもほうじ茶に近い。
色はコーヒーみたいなのだが。
「いや……良いんだ。それより女将さんが元気になって良かった。君たちとあのゴーレム使いのおかげだね」
ホントは俺が元気にさせたかった。
ポツリと零した言葉をアメリアがひろう。
「そんなことありませんよ。今日だってお母さんに教会まで付いていってくれて本当にありがとうございます。お母さん心強かったと思いますよ」
アメリアは心遣いが出来る良い子だった。
クリスはぽんとアメリアの頭に手を乗せると。
「エリザを頼むよ」
そう言って出ていった。
クリスが八百屋の親父にどやされたのは後の話である。
「女将さん私ほとんど文無しです」
愛梨はニコニコして女将に言った。
「で……スイートルームを私に下さい」
愛梨は下種顔で女将に言った。
「3000万ベベルのお金で部屋を借りるか。家を買おうと思っていたんだけど。女将さんの借金につかっちゃった♡」
「も……勿論いいわよ」
タンポポ亭にはスイートルームが三部屋ある。
その一つを愛梨が使っても大した問題ではない。
客は一人も居ないのだから。
「それに……」
愛梨は下種顔を女将さんに近づけた。
「この宿を冒険者向けの宿に改造しましょう」
愛梨はニッコリ笑う。
エルザの脳裏にもしかしてヤクザより質の悪い奴に引っかかったのではないかと言う疑惑が浮かんだが。
エルザはこくこくと頷いた。
「この料理美味しいね」
ミズラとヨシカはもぐもぐとコロッケを食べている。
「アイ姉ちゃんと俺が作ったんだぜ」
トウスは鼻高々で答える。
「これなんて料理なの?」
ミズラが皿に盛られた料理をフォークでぶっさす。
「コロッケって言うんだって。このトンカツソースをかけて食べるともっと美味しくなると」
「コロッケ? アイちゃんの故郷の料理なのかな? あっ!! ホントだ!! このソースかけて食べると凄く美味しい」
「このサラダも美味しいね。なんて言うの?」
「ポテトサラダだ。マヨネーズって言う調味料とあえるんだ」
「マヨネーズ? これお野菜にかけたら野菜嫌いのヨシカちゃんでも野菜食べれるね」
ミズラが無邪気に言う。
「うん。これなら私でも食べれるよ」
『それで女将さん離婚できそうっすか?』
みんなのお皿にパンを配っていたアボスが女将さんに尋ねる。
このパンは買って来たものではなくゴーレムコックが焼いたものだ。
「アボス!!」
愛梨はアボスを咎める。
「いいのよ。アイさん」
女将さんは深呼吸をすると皆の顔を見渡した。
「一か月後私とハモンド・ワイルドとの離婚が成立するわ」
「あの呪いの人形が認められたのね」
愛梨が尋ねた。
女将は頷いた。
貴族と違って平民の離婚は割と簡単に出来る。
まして神の前で誓ったのに相手を呪い殺そうとするなど許されない。
ハモンドは教会に呼び出され牢屋に入れられるか、破門されるか。
この世界で教会から破門されるのは死ぬより辛いことだ。
神から祝福として贈られたスキルが使えなくなるのだ。
ましてハモンドは元騎士。
それなりのスキルがある。
教会から破門されると死紋という紋章が額に現れる。
それは死ぬまで消えない。
それは奴隷よりも扱いが酷く、物の売り買いすらさせてもらえない。
呪いの人形を作った女も同じく教会から破門されるだろう。
下手をすると焼き殺されるかも。黒魔女は火炙りがこの世界でも定番だ。
「それにしてもアボスよく呪いの人形が庭に埋まってるなんて気が付いたわね」
『庭から濁った魔力が流れてきていて女将さんに纏わりついていたっす。気になってゴーレムドッグで庭を掘らせたっす。そうしたら人形が出てきたっす』
「ふ~ん……ゴーレムドッグ???」
『犬のゴーレムっす』
「いやいやいやいや何時の間にそんなの作ったの?」
『乙女の秘密っす』
「いやもうそれはええねん!!!!!!」
愛梨は絶叫する。
ほんとネタの天丼は二回までだ。
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2019/1/29 『小説家になろう』 どんC
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