第十二話 招かざる来訪者
ドアが開き。
招かざる来訪者はやって来た。
「すいません。今宿はやって……」
最後まで言う前に女将さんは凍りつく。
愛梨も男達を見る。
30代前後とおぼしき男。
洒落た服を着ているが。
直ぐにかたぎでは無いと分かる。
彼の後ろにいる7人は、完全にヤクザだ。
オーガかと言うほどに皆さんムキムキである。
あ~~。これ大阪のお笑いで見たことある。
世にいう借金取りだ。
愛梨は頭をかいた。
「女将さん。あんたの旦那が家の賭場でした借金。3000万ベベル。今日こそ払ってもらいましょうか」
「すいません。夫は今行方不明で……」
「ああ。何でも若い女と逃げたそうだな。金が払えないのなら仕方ない。この宿をもらい受けましょう」
「そ……そんな……ここを追い出されたら子供達は路頭に迷うことに……」
「ああ。大丈夫。あんたも子供達もうちの店で働けばいい」
「うちの店って……売春宿じゃないですか!! それに非合法で奴隷販売している噂が……」
「お前!! ドルズ様の善意が受け取れねえのか!!」
後ろに控えているゴリラが喚く。
「トウスこれどういう事?」
ヒソヒソと愛梨はトウスに耳打ちする。
「母さんの旦那がヤクザに借金したらしい」
「女と逃げたって?」
「うん。元々旦那は俺ら孤児を引き取る事を反対していたんだ。でも母さんは俺らを引き取ってくれた」
「それで当てつけに浮気? 最低だね」
「元々騎士家の5男で押し付けられた結婚らしい。領主の息子の取り巻きだったんだが。領主御息子が村娘に入れあげて婚約破棄したんで。止めなかった無能は家から追い出され。母さんの父親が魔物に助けられた恩があって。母さんの婿に押しつけられたんだよ。威張り腐った嫌な奴だったよ。正直出て行ってくれてほっとしたんだ」
「借金女将さんに押しつけて若い女と逃げた? 最低~~~それが元で女将さん寝込んだの?」
『それについておかしなことがあるっす』
「おかしなこと?」
『後で話すっす。それより』
「うん。分かってる」
愛梨は女将さんから借用書を取り上げてアボスに渡す。
「アボスこれ正式な借用書?」
『残念ながら正式な借用書っす』
「なんだ!! お前は!!」
「ドルズの旦那。こいつが噂のゴーレム使いの小娘ですぜ」
「なに? この小娘が【乙女の祈り】を負かした奴か?」
「ん~~。なに? あいつらあんたに仲間を売っていたの? 私も負けたら売られていたのかしら?」
図星を刺され。ドルズは苦虫を嚙み潰したように顔を歪める。
【乙女の祈り】は良いお得意様だったが。この間ここを出て行った。
商人の護衛だ。砂漠を行くから半年は帰ってこないだろう。
完全にギルドに目をつけられたから。ほとぼりが冷めるまで別の場所に行った。
こんな小娘に舐められるなんて情けない。
ドルズは愛梨の近くにいるアボスを見る。
たいして強そうに見えない。
が、噂ではゴーレム騎士を20体召喚すると言う。
大魔導師のお爺ちゃんが孫の身を案じて付けたのだと言う。
この小娘に大した力はない。
ダンジョンのスタンピードを止めた戦力。
出来るなら手に入れたい。
だが……それは……貴族や冒険者ギルドや商業ギルドを敵に回すことになる。
この小娘は余りにも有名になった。
うかつに手を出せないほどに。
腹立たしさのあまりドルズは言ってはいけない言葉を使う。
「あ~~。お前には関係のないことだ!! 引っ込んでな!! ぺちゃぱいが!!」
「何ですって~~~!!」
「ひいぃぃぃぃぃ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
愛梨の体から黒い殺意が溢れ出す。
ドルズと手下は余りの殺気に怯えた。
長年やばい橋を渡ってきた勘が告げる。
ドルズは踏んではいけないドラゴンの尻尾を踏んでしまった事を悟った。
彼らの周りが光る。
いくつもの魔法陣の中からゴーレム騎士が現れる。
10体のゴーレム騎士が冷たく腰を抜かしたヤクザ達を見詰める。
ヤクザに対してオーバーキルではある。
愛梨としては今居る全てのゴーレムを出してこいつらを叩き潰したかったが。
部屋が狭かった。
仕方なく10体で我慢した。宿屋を潰すつもりなら出せるが……。
流石にそれはアボスが止める。
殺るんなら闇に紛れて、証拠も証人も残さずがモットーだ。
ここでは目撃者が多すぎる。
アイテムボックスの中に引きずり込んでやるのは後で良い。
兎に角。
「そのお金私が払います」
愛梨はニッコリ微笑んだ。
ドルズ達にはそれが死刑宣告のように聞こえた。
愛梨はアイテムボックスからお金を取り出し腰を抜かしたドルズに投げつける。
「ちゃんとあるか確認して」
「あ……ああ」
ドルズは袋の中にある金貨を確認し始める。
腰を抜かしたまま。その姿は浅ましく嘲笑を誘うものであったが。
邪神に魂を売った様なドルズ達は気にしない。
「い……いけません!!」
いきなり現れたゴーレムに女将さんも子供達も呆然としていたが。
女将は慌てて言う。
「良いのよ。女将さん。私達ビジネスパートナーじゃないですか?」
「ビジネスパートナー?」
「共同経営者です」
愛梨が説明をしようとした時ドルズが声をかけた。
「た……確かに受け取ったぜ」
お金を数え確認したドルズは正式な領収書にサインする。
アボスはサインに不正はないか確認し愛梨に頷く。
「しかしお前のゴーレム凄いな。なあ俺にも貸してくれないか? ギルドの倍は払うぜ」
ゴーレム騎士の剣がいっせいにドルズの首に突き付けられる。
「ひいぃぃぃぃぃ!!」
「お前は私を侮辱した。お前は敵だ!! その汚い面を私の前に晒すならその首狩るわよ!!」
黒い黒い殺意が愛梨の体から溢れる。
私のゴーレムをなんであんた達屑にかさなくっちゃいけないのよ‼
どうせ人殺しや恐喝なんかの犯罪に使うんでしょ‼
ふざけんな!!
アボスもゴーレム騎士も魔王か!!
と言うぐらいの殺意を垂れ流しにする。
ドルズと男達は命辛々逃げ出した。
あの少女とゴーレムは死神だ。
少女がドルズの首を所望すればゴーレム達は喜々としてドルズの首を捧げるだろう。
薔薇の花を手折るように何の造作もなく。
その日町からドルズとその手下は姿を消した。
ドルズは悪党としてはそんなに頭は良くないが、勘だけは良かった。
ドルズと手下の行方を知る者はいない。
「お金は必ずお返しいたします‼」
女将は頭を下げた。
「それより女将さん。旦那さんと離婚出来ないの? また旦那の借金背負い込むことになるわよ」
「それは……」
「旦那と子供達。どっちが大切か。決断すべき時じゃないの?」
『女将さんの病気。おかしな所があったす』
アボスがガリガリと黒板に文字を書く。
「さっき言いかけてたね。ただの病気じゃ無かったの?」
『呪いっす』
「呪い?」
『こんな物が裏庭に埋めてあったっす』
アボスは泥だらけの人形を取り出した。
女将さんに似た人形で裸の躰にぐるぐるとリボンが巻かれ5本の釘が撃ち込まれている。
「まさか……そんな……失くした私のリボン。確かに夫が一緒に駆け落ちした人は呪術師見習いでしたが……」
『呪いのせいで薬が効きにくく。女将さんは弱っていたっす』
「それ、下手すれば殺人未遂じゃない?」
子供達はざわざわしている。
「2ヶ月前にトウスが庭にお化けが居るって騒いでいた事あったわね」
アメリアが思い出す。
「うん。夜中にトイレに行って女の人を見た。五月蠅いって旦那のハモンドに殴られた」
「ちなみに女将さんが亡くなったらこの宿は誰の物になるの?」
『この国の法律なら夫の物になるっす』
「これは衛兵か教会に訴えて離婚した方がいい。若い女と駆け落ちしたなら簡単に離婚できるはずだ」
八百屋の兄ちゃんが言う。
あ……そう言えばあんたいたね。借金取りが来ていた時。あんた完全に空気だったね。
愛梨もアボスも子供達もなま暖かくクリスを見る。
女将さんに惚れてるみたいだけど。年下なので相手にされてないんだろうな。
「人は良いんだけどね~~。金なし。地位なし。腕力なし。実に残念だ。母さんを守れない」
トウスはぼそりと呟く。
「お母さん鈍いしね。可哀想に片思いだよ」
子供達がぼそぼそ話す。
「手も握れないし」
「キスも出来ないし」
「デートにも誘えないし」
「告白も出来ないヘタレだしね」
アメリアが止めを刺す。
八百屋の兄ちゃんは子供たちの言葉が刺さりハリネズミのようだ。
やめたげて彼のライフは0よ‼
と愛梨は八百屋の兄ちゃんを見て思った。
アボスは何故か生徒会長の四条君を思い出していた。
八百屋の兄ちゃんも四条君も恋した人は鈍感人間だった。
余りの不憫さに涙がちょちよ切れるアボスであった。
ゴーレムだから涙は出ないんだけどね。
「私……教会に行って離婚の手続きをしてきます」
「うん。それが良いよ。アボス。ゴーレム騎士を護衛に1体つけて」
『了解っす』
アボスはゴーレム騎士を護衛任務に就かせた。
八百屋の兄ちゃんと女将さんは呪いの人形を袋に入れて、教会に向かった。
2人の後ろをゴーレム騎士はついていく。
「大丈夫かしら? きちんと離婚できるかしら?」
『多分離婚出来るっす。結婚の誓いで相手に誠意を尽くすって誓いの言葉があるっす。女作って借金押しつけて呪いの人形まであるのなら女神のお伺いを立てるまでも無く。即離婚が認められるっす』
2人を送り出した後。愛梨は子供達とおしゃべりする。
「女将さんが帰ってくるまでにこの宿を案内してくれる?」
「うん。アイ姉ちゃんありがとう」
「「「「アイ姉ちゃん。ありがとう」」」」
トウスと子供達が頭を下げる。
女将の教育がいいのか。子供達は礼儀正しい。
「アイ姉ちゃんあんな大金出してくれてありがたいんだけど。大丈夫? こんばん宿屋に泊まるお金ある?」
うん。問題はそこよね~~~。
家を買うお金無くなっちゃったよ~~~。
「お金無いのならこの宿に泊まればいいよ」
愛梨はニッコリ笑う。
勿論そのつもりだ。
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2018/11/18 『小説家になろう』 どんC
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