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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
ワーストコンタクト
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状況整理4

 北日本の産業構造は、自国で生産した高度生産品や情報を海外に輸出し、食料や資源を満州やロシアから輸入するというものであった。

更に、自国で使用するもののうち単純な生産品や日用消費財を朝鮮、ロシアから輸入するという形で維持されていた。

(他にも交易相手国はあるが、北日本の主な交易相手はロシア、朝鮮、満州で上位三か国を占めている。)転移後、その流れが途絶してしまったことにより、北日本産業は一部の産業を除いて徐々に麻痺状態になりつつあった。

北日本は原材料と食料を殆ど輸入から頼っていたし、自国の国内総生産の7割近い4000億ドルを海外からの輸出に依存していたのだから、当然と言えば当然だろう。


 そして、近年では東側各地に進出した北日本企業からの送金も重要な収入源となっていた。特に、北日本で著しい発展を見せていた情報通信産業をはじめとする産業は旧東側諸国や第三世界の多くの国々に進出して、アメリカや南日本企業と激しいシェア争いを展開していた程だった。

 アフリカやアジア各地では北日本製の最新兵器ともども、ITを使った治安維持システムやインフラ技術が輸出されていた程だった。スーダンの長距離鉄道、朝鮮におけるIoT都市、南アフリカの治安維持システムは北日本企業が製造・建設していたのだ。


1月15日 北日本 旭川市

 旭川市に本社を置く北日本の電子器機製造大手の「旭川製作所」は北日本において電子回路やCPUの製造を担う大手の企業である。

地球世界ではその製品の値段の安さに比べ、品質が良いことから東側や第三世界諸国はおろか、西側と呼ばれる欧州圏にもその製品は販売されていた。近年は遂にその品質は西側に並んだと言われる程にもなっているほどだった。(驚くべきことに、この企業の最先端の電子回路はアメリカや南日本の電子回路よりも性能が良く、アメリカにすら輸出される品質を誇っていた)

そして、この企業は転移で最も影響を受けている企業の一つであった。

この会社は、原材料や一次加工品の殆どを朝鮮に頼っており、転移という災難によって市場と一次加工品工場の大半を失い、軍事用製品以外の生産が不可能になりつつあった。


 そのため、緊急の重役会議が開かれ、社長は重役の一人からの報告を聞いていた。

「政府には、民需用電子機器の新規生産取り止めを要請されました。また、全債務の支払繰延を180日に渡り認める様です。また、政府発表がなされてから民間及び公官庁からの当社への問い合わせが急増しております。」

そう説明する重役の顔に疲労の跡が色濃く残る。


 連日連夜の会議にも関わらず、具体的な解決策、つまるところ転移をしたならしたで原材料をどこから調達してくるのか?ものをどこから調達するのか?消滅した工場の代わりはどうするのか?

そういった根本的で重要な事は何一つ解決していないのだ。


 資源を捜索、発見の後に採掘、それを精錬する為の工場建設だけでも下手したら1年近く拘束される。

工場や、そこに設置する工作機械はこの国の技術力だと幾らでも生産できる。しかし、資源を捜索し採掘場所から工場までの護衛をするのは「あの」共和国軍である。仕事柄共和国軍とも関わりのある彼は、共和国軍の一面を知り抜いていた。


 兵器は最新鋭ながら兵士の練度に疑問がつき、予備部品すら事欠き、南日本軍と戦闘することしか考えていない軍隊がその大任を果たせるだろうか?

故に、共和国軍にそれらの「守り」の戦いが出来るとは正直思えなかった。

仮に、首尾よくそれらの事柄が解決したとしても、その資材を使って生産された製品を売れる市場が国外にあるのか?また、今までのものと同一の製品が作れるのか?


 治安当局の伝手を辿って情報を集めた限りでは、周辺の文明国でも地球世界の16世紀、下手をしたら14世紀前後の科学水準で、それ以外の地域だと良くて紀元前、悪いと新石器時代らしかった。※1

……16世紀はともかく、新石器時代に現代技術の結晶である電子機器がどれほど役に立つというのだろうか。

 おまけに、原材料を精錬し、一次加工品を生産する体制を作るのに、どれほどの年月か必要か、想像するのは困難だった。北日本の設計する極めて優れた製品を生産するには、朝鮮・ロシアの素材技術・加工技術が必要不可欠だったのだ。

 それを自国で再現するのは、不可能ではなくとも困難であった。


 更にそこまでの苦労をした挙句、向こう側には需要はおろか、そもそも購買力自体が存在しないということになりかねない。

そうなれば最後、この会社は負債を抱えて倒産である。

なにせ、この国の経済体制は「同志」である朝鮮や満州のそれと異なる「社会主義市場経済※2」を採用しており、経済の実質的な部分は西側とあまり変わらないのだ。

変わっているところといえば、失業率の異様な低さと、中間層の層の厚さが挙げられるだろうが。

とにかく、会社が倒産しても食うに困らぬかもしれないが、逆に言えばそれだけになってしまうのだ。

それに、我が国の産業構造から考えて、大量の失業者が出る筈である。

しかし、その反面我が国にその失業者を吸収できるだけの余力はない……そこまで考えが思い至り、彼は冷や汗が出る。

なにせ、それはこの国の経済破綻を意味しているのだから。更に、資源が入らない場合も想像できてしまい、彼は危機感を強く認識し始めた。


「失礼します。社長、外務省から連絡がありました。」

突如、部下の一人が会議室に入り、社長に持っていたタブレットを渡す。

社長は、そこに書かれた文面を見て驚愕する。

その文書を要約すると、「武装勢力との交渉を開始した。ついては貿易について意見を聞きたいので、社員を何人か外務省に派遣してきてもらいたい。」ということになる。

武装勢力との交渉、それは社の命運を大きく変更することに繋がるものになる筈だと考え、社長は重役達にタブレットを見せ、自身の考えを伝える。

事態は大きく動き出そうとしていた。


この国の上層が事態を深刻に見る一方、一般市民もまた現状に危機感を募らせていた。

北日本の移転という情報は北日本のイントラネット※3に流され、自国がいかに不安定な状態に置かれたかをこれ以上ない程に国民に認識させていた。

故に、戦争指導会議が配給制の実施と消極的な統制経済の施行を実施する命令を布告しても、市民に反対運動は起こらなかった。

(戦争指導会議が命令を発した理由は、法案を議決する国会議員そのものが消滅している為。また、現在は戦時であるため。)

その為、北日本の市民の間でも、武装勢力との関係や交易ができるかどうかには大きな関心を持たれていた。

家のパソコンで、職場のテレビで、移動中のスマートフォンで、北日本国民は議論に参加しつつ、またはそれを閲覧しつつ事態の変化を見守っていた。


※1 国防軍や民警の捕えた異世界人から聞き出した情報であり、真偽の程は不明。が、捕虜が保有していた道具類と社会体制から概ね間違いではないとされた。(魔法という未知の存在は除く)


※2 史実世界の中国同様、社会主義体制のまま資本主義を導入したもの。ソ連も北日本の脆弱性と海で隔てられているという地理的状況から黙認されて北日本を順調に発展させる要因の一つにもなった。


※3 北日本は、自身が資本主義国家であるという実情と、社会主義という建前の矛盾から国民の言論の自由を統制する反面、海外へのインターネット接続を限定的に許可していた。

(と、いっても規制を破る者は多々存在し、運悪く摘発されても、よほど悪質でない限り罰金刑で済まされる。)その上で、テロや犯罪への対抗を理由に、企業から国家へと情報提供をさせるなどして個人情報を徹底的に管理する体制を築きあげていた。

また、国民においては経済政策へのコンピュータの導入や先端技術への積極的な投資によって、あれだけの軍拡をしつつも、国民生活を改善させ続ける事に成功している事から現体制への不満はそこまで存在しない。

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