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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
ワーストコンタクト
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状況整理2

 北日本は地球世界における冷戦時代には、西側から「共産圏の民需工場」と評される程に民需産業、特に東側では常に不足していた家電製品や電子機器といった消費財を一手に生産していた。


 その品質は政府の梃入れと東ドイツよりも資本主義的な体制により比較的高く、値段も西側の同程度の品質のものより安いことから、東側のみならず第三世界諸国や一部の西側諸国も輸出されていた程だ。

様々な民需製品の中でも特に、当時まだ発展途上にあったコンピュータ関連技術においては、ソ連よりも北日本の方が発展していた。


 そして東側陣営が傾く中、北日本は東側諸国としては特異な事に外国への輸出を中心に順調に発展し続け、東側陣営が完全に消滅する1996年には東側全域のインフラ維持に北日本の国営企業が欠かせなくなり、東側各国の工作機械の半分以上が北日本製のものになるという状態を生んでいた。


 ソ連末期には、それまでソ連が北日本に研究を許さなかった核開発や軍需産業においても北日本の参加を許す事により、後に軍事技術や核技術を含む大量の技術や人材が北日本に移動する事になった程だ。

 しかし、北日本の技術力が一部で発展していく裏では、取捨選択された分野が多々存在していた。

そして、その多くが北日本の盟友とも言えるロシアを筆頭に、満州と朝鮮に殆ど依存していたということが、転移後の北日本に致命的な重しとなって圧し掛かっていた。


1月5日 豊原 首相官邸内

「――以上で報告を終えます。何かご質問がありますか?」

各省庁から派遣されてきた官僚全員が、この国の備蓄資源や食料、文明を維持するのに最低限必要な資源についての説明を終え部屋を見渡すと、北日本国内における実務官僚のトップである内務省次官を筆頭に席に座っている各省庁の実務官僚のトップ達と、軍政のトップである統合参謀本部議長を中心とする共和国軍最高軍事会議の会員達※1が顔色を青くさせてているのが目に付いた。

その中で、漸く一人の軍人が手を挙げる。


「つまり、わが国に残された時間は最短で6ヶ月、長くても1年だという認識でいいかな?」


――ああ、彼は国防軍の軍人か――そう思いながら次官は答える。

「はい。そうです。毎年改定されている戦時備蓄目標でも述べられていますが、戦略上重要な資源は1年分、食料等の戦時備蓄は2年分の備蓄が行わています。しかし、それらの備蓄は軍需産業かそれに隣接する産業と人員に限られたものであり、国民生活に必要な分を考えると、最短で6ヶ月、文明維持に必要最小限に限る用に配給統制を引いたとしても1年程度で枯渇します。」


 それを受けた科学技術委員会の次官が発言する。

「幸い、まだ一月で気候も変化は殆ど無い。国内で生産するというのはどうだろう?資源については、最悪国民の保有する財産を拠出してもらえば更に時間を稼げるのでは?」


 気が動転しているからか、彼は少し考えれば分かる発言する。

確かに、天文台や各地に設置している観測所から気候や天候の変異は認められないという報告は受けていた(季節の変化についてはまだ何時ごろ春になるかは現時点では正確には分からない。追って報告するとの事だったが、恐らく地球と季節の長さ自体はそこまで変わらないという注釈がついていた。)し、国民に資源を拠出してもらうのはいいアイディアだが、この国には生産したくてもする農地が無かった。

食料自給が出来ないからこそ、思い切った工業化が出来たのだ。


……農林水産委員会の次官が挙手をしてその発言に反論する。

「食料生産を行いたくとも農地自体がありません。現在、水産資源を取る方向で調整中ですが、軍部に燃料を抑えられ出来る漁も限られています。」

今まで予算を軍部に取られ続けた恨みもあり、軍部の方を睨みつつ行われた発言に軍部から異議がでる。

「現時点で、我が国は敵対勢力による攻撃を受けています。これに対する防備は当然です‼」

「次官は国防をなんだとお思いか‼」


軍部からの異議に、農林水産委員会の次官が激怒する。

「そこに文句を言っているのではありません‼何故、一歩も動かず防衛線を整えているだけなのですか?

〈世界最精鋭〉の軍隊を使いさっさと敵国を制圧して、食料なりなんなりを「確保」すればいいではありませんか?」

 農林水産委員会次官の発言に、軍部は黙ってしまう。

 この国の軍隊は〈文民統制〉が徹底されていたこともあって、政治家の命令に拠らない他国への侵攻という行為に酷く消極的になっているのだ。その上、この国の軍隊は正面兵力は兎も角、兵站を始めとする継戦能力がその規模に比して低かったのだ。故に、軍部は情報がわからないのに攻勢に出る事は自殺行為だと考えていた。

 

 ……次官の過激と言えば過激な発言に対して、外務委員会から異議が出る。

「交渉での確保はダメなのか?無論、最終手段として軍事力を行使すべきだとは思うが、いきなりそれをやるのは短絡的過ぎるのでは?」


それに対しては、捕虜の情報を管轄している内務次官が呆れながら答える。

「国境騒乱時の捕虜の発言や、現地の被害から、彼らが交渉を望んでいるとは思えません。それに、悠長に交渉をするほど、我々の時間は減少していきます。」

内務次官の発言は事実だった。

現地の惨状から、捕虜を虐殺しようとする軍を押さえて捕らえた捕虜から聞き出した「召喚計画」の概要と、現地の人的、物的問わない被害は共和国全土を震撼させている。

異なる世界から土地を住民ごと召喚するというオーバーテクノロジーを持つ連中に、我が国が滅亡させられるのでは?

という恐怖からか軍も官僚組織も取る道を決めかねており、軍に現在地の死守を命令した以外はなんらの対策を取れないでいた。

 この会議で決まったことは、あらゆる手段を通じての情報確保と、衛星を始めとする通信システムの復旧と言った行為を行う事であった。

 


同時刻 旭川 内務省国内軍収容所 特別矯正区

 北日本において、敵国の間諜や高位捕虜の尋問を担当するのは軍ではなく内務省であった。

一般市民の治安維持から防諜活動までを司る内務省には、「その手」のノウハウが大量に存在するのだ。

 そして、本来は軍の捕虜であった魔術師の尋問を内務省が担当する事になったのは、ありとあらゆる情報を引き出すために必要な事だからであった。

 

「番号 M30  名前はマルコル·フォン·アキレウス。国境付近のトーチカに居た所を国境軍の隊員に発見され、戦闘の後に投降。脱出を図ろうとした所を撃たれて確保される。罪状は、殺人罪、建造物侵入罪、窃盗罪と。間違っているところがあれば指摘して欲しいんだけど」

その尋問の恐ろしさには泣く子も黙ると言われる特別矯正区の尋問担当官は、マルコルからは黒髪に黒い色彩をした目の色を持つ「地味な」女に見えた。


故にマルコルの態度も強気になる。

「主に逆らう召喚物が、気安く…‼」

マルコルが言い終わる前に、尋問官がマルコルの腹に「商売道具」の一つである鉄棒で彼を殴りつける。


「僕も君と話したくないんだけど、共和国刑法で容疑者に対する人定質問及び容疑の確認は義務付けられてるんだ。あ、裁判でもやるから安心してね。因みに君の仲間も尋問を受けてるよ。」

這いつくばりながらも「部下は大丈夫なのか?」と聞いてきたマルコルに彼女は怒りを感じ、彼の腹を蹴り飛ばして続ける。

「マルコルさん、あなたは必要な事だけ答えればいい。あなたにそれ以外は求められていないから。聞きたいことは三つ。君の所属する国の事と、魔法とかいう技術、そして、我が国を召喚し、あまつさえ奴隷化しようとした連中についてだ。ああ、答えるまでは存分に相手にするけど、さっさと答えてくれたら早く帰れるから嬉しい…なっ‼」

腹を蹴り飛ばされ、倒れ伏せていたマルコルの背中に担当官が特殊警棒をふるい、「尋問」を開始する。

 ……彼が洗いざらい話したのは、それから4時間後の事であった。


※1 共和国軍最高軍事会議は国防委員会委員長、党の担当書記、統合参謀本部議長、軍事科学局長及び5軍の最高司令官で構成され、共和国軍の戦略や軍装備の策定を行う。

戦時には首相と各省庁の委員長を加え戦争指導会議へとなる。

ただし、現在は戦時において主導的な役割を果たすべき党組織や政府組織が消滅していることから、戦前の規定にしたがって生き残った最上位者が戦争指導会議を構成している。

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