異常と接触1
俺は無心になって、自身の背負う重い機械から炎を出して目の前にある物体を燃やしている。
早急に燃やすべき物体の量があまりに多い反面、機械が足りていないのだ。
だからか、規模が大幅に縮小されている筈の軍の魔道部隊、二ホンの駐留軍はおろか市井の魔導士まで動員されてこの任務に駆り出されていた。
俺たちが息苦しいマスクを着けてまで燃やしているのは、「風邪」の死者である。
6月の初旬から発生が確認された「風邪」は瞬く間にロマリア連邦全土に広がっている。
それに追い打ちをかけるように干ばつや食物の疫病が発生しており、一部の地域では飢餓と相俟って大変な事になっているらしかった。
そのせいで国内全域に戒厳が敷かれ、全土に動員令が発令されると共に民間人も動員され、事態の対処に当たることになっていた。
そのうえで、流通の混乱と難民の発生を抑止するために現在では軍と指定された機関以外の国内移動は制限されている。
そして、首都では数十人単位で毎日のように死者が出ておりその処理が追い付いていないらしい。その惨状は二ホンが行っている教会や神を崇拝する行為、政府以外での魔道行為を弾圧する行動に対する天罰ではないかと農村部等の被害の大きい地域では噂されていた。
しかし、将校と軍の公式見解ではそれらはただの迷信となっていたし、俺もそう思っている。
部隊内で見れる新聞(流通の滞りにより、1週間前のもののままだが)によれば、連邦だけではなくロマリアやその周辺国でも同様の疫病が流行っているらしかった。
それに疫病が広まってから暫くして、二ホンが作った「特効薬」が部隊の全員に注射されてからは部隊内で「風邪」によって倒れる者は出なくなっており、その点でも「神の呪い」ではないように思えた。
もしも、神が呪いを掛けるなら人間にそれを対処するのは極めて難しいからだと俺は思っている。
ただ、ここの農民たちがどう思っているのかは薄々気が付いていた。
俺たちと、注射を担当する防疫部隊を見つめる目には憎悪や悲しみといった感情が籠っているからだ。
「処理が終了したら、大休止の後に次の担当地に移動する。」
そんな農民の目線を知ってか知らずか、俺たち同様にカーキ色の軍服に身を包みガスマスクを着けた小隊長代理が命令を下す。
俺は、今後を不安に思いつつ意識を自分の職務に意識を集中させる。
2017年7月初旬
北日本の首都であり、北アジアにおいて唯一のメガシティであった豊原は地球世界において北アジアの首都と称される巨大な過密都市である。周辺の都市である豊北や川上を含めた都市圏の人口は1千万人を超え、ビジネス街には社会主義国家・軍事国家とは思えない程の現代的な超高層ビルが林立している。
転移という災害を経ても尚成長を続けるこの都市、豊原の中心に位置する公官庁街はとある出来事により不夜城と化していた。
照明を落とされた会議室では、現地で撮影された動画が流されていた。
動画には、カーキ色の戦闘服を着た人が魔術要員と共に火炎放射器で山積みにされた死体を焼き払う場面や、白い簡易防護服を着た人員が死体を袋に入れている場面、白衣を着て衛生マスクをした人物が子供や成人に何かの注射をしている姿が映し出されていた。
場面が変わり、古めかしいトラックとバリケードによって作られた検問所が映る。ここも先ほどと同様に、ガスマスクにカーキ色の軍服を着た人物が、白い簡易防護服を着た人物と共に道を通る人や物の状態を書類と共に確認している。
「これは、ロマリア国内で撮影されたものになります。次が、軍部の偵察機が撮影した農地及びロマリア南方のジンドル公国の映像です。」
そういって担当者が端末を動かすと、プロジェクターが次の映像を流しだす。
映像は、上空から農村部と北日本の技術と設備を導入したらしい農場を映し出す。前者の農場は作物が(目に見える範囲で推定する限りにおいては)半分以上が枯れており、後者についても30%程の作物が枯れているように見えた。
映像が変わり、高高度から撮影された動画が流される。
動画は、手入れもされていない農場や荒れている農村部を映した後、都市部を映す。
古めかしい石造りの都市部は多くの死体が放置されており、白骨化した遺体やそれらを処理する人々の姿も映されていた。
映像が流れ終わると、担当者が発言する。
「ロマリア連邦で現在流行が確認されている疫病の種類はインフルエンザとのことです。現在はロマリア全土で戒厳が敷かれており、主要幹線道に検問を配置することで感染者の発見と隔離を実施しています。ここまでで何か質問はありますか?」
そう担当者が発言すると、一人が挙手する。
「農業における被害はどうなっている?インフルエンザの我が国への侵入は確認されたか?」
「農地については、干ばつ及び未知の病原菌によって現地農民の育てている食料の大半が収穫できない状態に陥ったと考えられます。病原菌については、現地軍及び国内双方ともに感染者は確認されていません。」
別のものが挙手とともに発言する。
「詳細な被害範囲及び犠牲者の推計は出ているか?他の国家ではどうなっている?」
「それについては現時点で判明していません。ただ、軍情報部の情報によりますとロマリア全土でこのような災害が発生しており、階級を問わない感染が発生している模様です。」
そう説明した後、担当官はまたもプロジェクターを操作して次の説明に移る。
「ロマリア政府の推計では首都においても既に数百人単位で死者が出ている模様。また、現地政府の調査では、このような自然災害は過去に類がないものだそうです。現在、国内の製薬企業がワクチンの増産を続けていますが、生産が追い付いていません。」
そこで、区切り担当者は発言を続ける。
「今回の災害の根本原因は、ロマリアの崩壊だと考えられます。王国の崩壊により、現地が大規模な戦争状態に突入した事が事態の悪化に大きく影響を与えています。」
担当者の言葉に、一同は静まり返る。
そう、今回の件で農村部を中心に多大な死者が出た。
彼らが、その根本原因が北日本にあると知ったときどのような対応を取るだろうか。
また、嘗てのヨーロッパで起こったような悲劇の拡大再生産が起こった場合、ロマリアはどうなるだろうか?
現在北日本がロマリア沿岸部で行っている工業化は、簡易で北日本の技術力からすれば児戯と言えるレベルのものとはいえ、火薬や武器も生産可能な機械を大量に北日本から輸出することによって行われている。
そして、それらを実際に動かすのは主に農村部から移動してきた住人だ。
工業化の初期も初期とは言え、自分の力で武器と弾薬を作ることができ、権利意識に目覚めようとしている者たちを弾圧するのは極めて難しい事は北日本も理解していた。
また、人口の急速な減少は、北日本が行っている工業化と産業革命の需要を減少させることに繋がり、産業革命そのものが頓挫しかねない危険性をはらんでいた。
「そうはいうが、他国に比べればロマリアの死者は桁違いに少ない。少なくとも我々は住民に対して可能な限りの公衆衛生の提供や食料供給を行っている。」
そう担当者の言葉に反論する彼の言っている事は正論だった。
ただし、その正論が知識もなにもない現地民に伝わるかはまた別問題であった。
彼らは、未知の連中よりもずっと身近にいた教会の言葉を信じるだろう。
ゆえに、現在の北日本に出来ることは自身が行ったことを機密にしつつ、感染症防止を目的とする対策の策定とそれらの啓蒙、ワクチンの製造、配布を含む医療支援だけであった。
そして、北日本がロマリアでの感染抑制に躍起になっている時、海から新しい国家が北日本に接触を図ろうとしていた。
投稿が大幅に遅れたこと、お詫び申し上げます。
私生活が忙しく、今後も投稿が1~2か月に一回か二回になりそうです。




