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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
大陸の革命政権
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エピローグ 栄光の革命

 2017年1月8日 

 真冬の夕方に彼は真新しい人民服に身を包み、彼の住居たる「人民ビル117」の近くに有る喫煙所で、煙草を吸っていた。

その煙草が、北日本企業の「人民煙草製造株式会社※1」の銘柄であることと、彼が党の制服たる人民服の上に羽織っている真新しい上着がボヘミアにおける彼の裕福さを示していた。

 彼は、ボヘミア政府の内務人民委員会の下部組織である教育局で働いているボヘミア人の一人である。

彼の仕事は、「同朋」たるボヘミア人に教育を施す為に必要な教科書の策定だった。

現在のボヘミア政府における公用語は、ロマリア連合王国やその影響地域で使用されていたコルゴグ語ではなく、日本語であり、ボヘミアの学校や「図書室」※2における教授言語も日本語であった。

しかし、元からコルゴグ語が使用されている、海を超えたロマリアまではそうはいかなかった。

つまりは、ロマリア人が使用している言語に、北日本が使用している言語を翻訳する必要が存在したのだ。

そのために教育局では、日夜職員が北日本が必要とするあらゆる概念を‐‐機械のマニュアルから子供向けのプロパガンダまで‐‐を現地語に翻訳する作業に追われていた。

彼は、ボヘミアという小国において両国の言語に精通している数少ない人材の一人であったから、彼はやりがいと高い給与があるにしても激務を強いられていた。

 そんな激務の中、彼は仕事後の息抜きに凄まじい変貌を遂げている街を見るのが習慣となっていた。

そして、この日は彼の住むボヘミア人民共和国の首都たるベーメンにおいて地下鉄道の開通式典が行われるのだ。

彼は、それに出席すべく真新しい高層ビルが立ち並ぶ市の中心にある中央公園へと向かっていた。

 

 この日、ボヘミア人民共和国の首都であるベーメンにおいて、北日本資本との合弁で敷設が行われた地下鉄道の開通式典が行われた。

地下鉄道は、再開発著しいベーメンにおいて新たに市民の足として使用されるに相応しい「近代的」なものであった。

ボヘミアは、北日本産業の下請けにすべく策定された「4カ年計画」に基づいて行われている開発の結果として、発電所を始めとする近代的なインフラ、近代的な工業地帯や造船施設が各地に出現しつつあった。

首都であるベーメンや港町であるパゲーは、将来的に100万人の住民が暮らす事が可能な都市計画が行われており、その市内には高層ビルも立ち並び、ベーメンは「社会主義のショーウィンドウ」としての役割を果たしつつあった。※3

その象徴の1つが市内を走る地下鉄の開通であった。

ボヘミアの人口は、北日本政府に忠誠を誓った魔導師を始めとする人材の流入もあり、急速に増加している。

ベーメン市の人口は、2017年の1月に北日本の居住者を含めて30万人を突破し、以後も大陸からの移住者の流入もあり急速に増加している。

そのため、都市の交通機能を今のうちから100万人規模の人口を受け入れるだけの能力を有するようにするための工事が、ベーメンのありとあらゆる場所で行われていた。

その繁栄の反面、ボヘミアの行政、軍事、司法はより北日本政府の影響が強くなっていた。

裁判官の半数以上は日本人が占め、行政における中央官僚の9割が北日本政府から出向した日本人だった。

軍に関しては、佐官以上のほぼ全員、尉官の半数以上が北日本軍の軍事顧問団が占めていた。

そのような実質的には属国に近い現状ながらも、ボヘミア国民は王国時代よりも遥かに暮らしが楽になった現状に満足し、現政権を支持していた。

無論、人目につかないインフラ開発・炭鉱における採掘には現地の犯罪者や思想犯、教会関係者、貴族、流民が送り込まれていた事は言うまでもない。


 そして、その開発の波は当初の予定を超えて大陸に及ぼうとしていた。

北部カルパティア地域一帯を制圧し、国内の反体制派をある程度弾圧したロマリア評議会連邦は、次の一手として北日本の助言の下に計画経済に基づく国家建設を始めることになる。

具体的には北日本へ大量の貴金属や資源を輸出する代わりに、北日本から大量の工作機械や農業機械を購入する形で工業化を行い市民の生活を改善し、政権への支持を高める事を行おうとしていた。

 何せ、ロマリア評議会連邦は〈労働者の国〉を名乗りながらも肝心の労働者自体が殆ど居ないのだ。

建国当初のロマリア評議会連邦において、農業従事者は人口の8割を占めており、それ以外は軍人や魔法が使える学者や貴族、テクノクラートが占めていた。労働者と呼べるのは精々が都市の貧困層であり、それらは人口の5%もいなかったのだ。

そして、建党間もない人民党の支持基盤は都市の貧困層と農村の一部貧農程度しかいなかった。


 故に、支持基盤となる労働者を増やすと共に、他国の外圧から身を守るべく、ロマリア評議会連邦は工業化にまい進する事になる。

 工業化は地球世界がそうだったように、また北日本やボヘミアで不足する供給を補うために軽工業や第一次産業から開始された。

 それと同時に、北日本は現地に即席の教育施設を立て現地語の翻訳されたマニュアルと共に機械の使い方、修理方法といったノウハウやインフラも整備されてゆく。

 加えて、輸出された機械が現地の技術水準にあった安価で簡便なものだったこともあってロマリアの工業化は急速に進展した。

 流石に、高度なインフラや人材が必要な近代的な製鉄所や近代的な造船施設等は輸出されていなかったが、それも何れ輸出される事が計画されていた。

反射炉を筆頭とする重工業関係の設備の輸出は人材のある程度の教育やインフラの整った後に行われることになっている。


 ロマリアでも計画経済を達成すべく、ボヘミア同様に大量の宗教の信徒、王党派、貴族、ギルド関係者がインフラの建設事業や鉱山作業に動員された。そして、彼らを恐れた北日本と、彼らに対して憎悪を感じているロマリア人民党は、文字通り彼らをすり潰してまでインフラ整備を行わせた。

その苛酷さは彼らの殆どが文字通り5年でロマリア各地の土に還ったと噂されたほどだった。

ロマリアでの急速な工業化の進展は、文字通り彼らの血で行われたのだ。

他方、彼らの血により運河建設や発電所に必要なダム建設といった事業は大幅に進み、後に世界各国に社会主義の成功例として、プロパガンダで伝えられることになる。


 また、ロマリア開発特需とでもいうべき需要の拡大によって北日本経済は息を完全に吹き返していった。日用品から鉄道インフラまでのあらゆる産業の需要が生まれ、景気のどん底まで落ちていた北日本経済は漸くの好景気に沸きつつあったのだ。

 その好景気は、北日本のハイテク産業、各種軍需産業にとっても例外ではなかった。

 ボヘミア、北日本における社会資本建造・再建計画にはIoTを駆使した最新鋭の都市づくりが行われることになっていたし、軍需産業は共和国軍の軍拡とボヘミア軍に限定しての現代兵器の輸出が許可されたのだ。

 北日本は漸く将来の展望とこの世界の事を知るだけの余裕が産まれつつあった。


※1 人民煙草製造株式会社は、北日本における煙草製造を一手に担う企業である。

世界第5位のタバコ会社であり、略称は「P.T」(People Tobacco)。

北日本における煙草は、国土の狭さという点から北日本国内で生産されるタバコの数は限られており、その大半は中華地域や満州、ロシアでP.Tが所有する畑から取れた葉を国内で加工して紙巻タバコとして販売する手法が取られていた。転移後もその手法は使われ、既にボヘミア国内でタバコ畑が作られており、国内向けだけではなく海外向けのタバコの製造すら行われていた。


※2 図書室は成人への再教育機関として設置された施設である。成人にも、学習が義務付けられており

図書室へ行った者は食糧や生活必需品の供給が優先的に行われていたことから、次第に多くの住民が参加するようになっていた。


※3 北日本は防諜の観点から、大使館をボヘミアに置くよう各国に要請し、自国領には地球世界の人種を除く者達に足を踏み入れないようにさせていた。

これは、北日本本国の位置や主要都市の位置を不明にすることにより、可能な限り戦時の被害低減と情報隠匿を行うためであった。

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