ロマリア外縁調査団3
第二次船団として派遣された船から船着場へと降りると、基地からデルモンターレスが出てくる。
奇襲を気にしてか、士官を人質として剣を突きつけながら彼らは基地から出てきた。
「初めまして、私は外務人民委員会の……」
外交官は、まずはにこやかに挨拶をするところから始めようとしたものの、彼の挨拶を遮り、デルモンターレスが言葉を発する。
「我々は森の民と自らのことを呼んでいる。我らと交渉を持つ前に見てもらいたい物があるため、そこまでご同行を願いたい。」
そういって、デルモンターレスは基地の外にある馬に似た動物に引かせた車に、外交官一行を招く。
外交官は何かの違和感を感じつつ、デルモンターレスに尋ねる。
「調査場所というのは?」
外交官が念の為にデルモンターレスに確認を取る。
「あなた達がこの場所に砦を築いた目的の1つの場所だ。」
そう彼らはそっけなく答える。
外交官は、軍の目的が叶った事に驚きつつ、科学者の同行を求める。
「構わない、むしろ貴方達に分析し見てもらう必要があるため、願ってもない話だ。」
何らかの無理難題を押し付けられるのかと外交官は身構えるが、それは科学者の発した言葉によって解かれる事になる。
「私達は本当に異世界に来たのですね。」
科学者の一人が、不意に興奮気味にデルモンターレスを見つめながら答える。
無理もない。何せ、地球人類以外の知的生命体が目の前に存在するのだ。
同行していた生物学者にとっては夢にまで見た光景が目の前にあるのだろう。
「ヘリ……空を飛ぶ乗り物で測定のための機器を運んでも構わないだろうか?」
科学者の一人の問にデルモンターレスは肯定し、科学者は笑みをこぼす。
その建物は、彼ら曰く「つい最近」発見されたものらしい。
同伴していた科学者達の測定によると、その建物は建築されてから凡そ60年近い年月が経っていた。
60年近く放置されていたにも関わらず、その建物は外見からは崩落しているようにも見えず、未だ建築当時のような綺麗な外観を保っていた。
基地の入り口は、何かで無理やり開け放たれた様な跡が存在した。
彼らは、あまりに状態の酷い遺体については荼毘に付し、丁重に葬ったらしい。
それを表すかのように、建物の前にはこじんまりとした墓が置かれている。
そして、彼らに促されるまま建物に入った北日本の使節団は、驚きを隠すことが出来なかった。
入り口は、気密が可能な様な頑丈な作りや扉で出来ている。
入り口からは長い廊下と、その両端に扉が見えた。
それらの扉は損傷しているが未だその機能を保っているように見え、デルモンターレスが開けることが出来た箇所はその中でもほんの僅かな箇所でしか無かったことが外交団にも見て取れた。
そして、デルモンターレスがこじ開けることが出来た扉の先には巨大なホールが存在し、そこにはどう考えてもこの世界の物ではない兵器や各種の装置が置かれていたのだ。
そして、それらの兵器や装置の合間には、宇宙服らしきものを纏ったミイラが横たわっていた。
車や工作機械、ハンペンにスポーツカーの尾翼を付けた様な形をした大型航空機らしき物体に見たこともない銃器。
そして、それらに付けられた国籍を示すマークが彼を困惑させる。
そのマークは、白地に星。
……紛れもなく北日本のものなのだ。
「これは、格納庫か?」
外交官の一人が目前の光景に困惑しつつ、デルモンターレスに質問する。
「貴方がたがこれを召喚したのか?」
「我らには詳しい事はわからない。わかるのは、この建物がいきなり現れたこと。そして、これらの物体がこの世界の技術体系とは異なるもので作られたものであること。恐らく、今の貴方がたが使用しているような技術で作成された事。」
「これらを調べても構わないですか?」
デルモンターレスがそこまで言った後に、科学者達がデルモンターレスに許可を求める。
「構わない。こちらとしてもそのために貴方がたと交渉を持ったのだから。」
外交官はその言葉に疑問を覚えつつ、ヘリから投下された各種の機器で科学者が分析をするのを見守る。
「航空機に見えるが、エンジンは見たこともない形だ……。装甲と巨体から見て宇宙用か?」
「戦車の様にも思えるが、見たことのない形をしている。見た所、気圧性能は極めて高いようだが。」
「……宇宙服に、タブレットと手帳、ボールペン。タブレットの電源は入らない。手帳は古ぼけているがまだ見れる……」
そういいながら、手帳の1つを科学者は慎重に捲る。
始めはパラパラと眺めていたが、後に行くほど彼の顔は青ざめる。
彼が読んでいた手帳、薄々気づいていたがそれは日本語で書かれたものであった。
「これこそ、貴方達に見せたかったものの、貴方達の基地を襲った理由だ。我々は、貴方達人類とは大きな差異が存在する事は理解している。……それでもこれらの異物は異質すぎた。我々が知っている人類の使用する利器とはかけ離れている。」
そして、とデルモンターレスは一息おいて続ける。
「これが、貴方がたのものである意味安心した。……我々は、この遺跡が出現してから他の同族と異なる形質を見せる様になった。」
外交官は、今まで感じた違和感の正体に感づきながら、デルモンターレスに恐る恐るといったふうに尋ねる。
「その変化とは一体?」
デルモンターレスが答える。
「貴方がたもお気づきだろうが、我々は自らの事を「森の民」と自称している。他の同族は、突然変異体を除いて会話をすることが出来ないが、我々は出来る。その違いが恐らく言語の違いになって現れたのだろう。……そして、我々はこれらの遺跡をあなた達に譲る事を考えている。その代わり、私達をあなた達の言葉で言うところの「主権国家」と認めて貰いたい。また、それに関する文書を公文書で頂きたい。」
その言葉に、外交官は内心で驚く。
主権国家概念が彼らのような辺境の地の住人に伝わっているとは思っていなかったからである。
「……申し訳ありませんが、現段階で言えるのは、デルモンターレス……貴方がたの安全の確約だけです。そのための文書は直ぐに手渡すことが出来る。ただ、国家の承認については本国に確認を取る必要があります。後日の交渉でも構わないでしょうか?」
そう外交官がいうと、デルモンターレスの代表者は頷く。
「手帳は持って行ってもらって構わない。我らと貴方達の友好の証になればいいと思っている。」
その言葉に、外交官は薄々事態が繋がっていくのが見えた。
その言葉を受け取った外交官は、を基地に持ち帰り、詳細な分析を行う事を科学者に指示すると共に、本国に対して事態の報告と対応を求めることになった。




