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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
大陸の革命政権
35/42

ロマリア外縁調査団2

 深い闇が森を覆う中、急造された監視塔の上で、暗視装置を装着した兵士達が周囲の警戒にあたっていた。

兵士達は手慣れた様子で辺りを確認しつつ、きびきびとした動作で手順通りの警戒を行っていた。

突然の雨によって、視界と音が遮られる中、彼らは警戒を怠らない。

施設周辺には、昼間のうちに熱感知器を初めとする警戒機器が配備され、敵の発見を可能な限り早める措置が取られていたものの、実際の効果は敵が発見できていない以上未知数だった。

警戒に当たる兵士たちは、中華地域では実戦を積んだ「歴戦の勇士」ではあったものの、この世界においては、実質的には新兵に近かった。

そんな兵士達の一人が、森の暗闇に視線を感じてそちらを見やる。

(ん、視線か?)

彼はすぐさま銃を構え、姿勢を低くして目を凝らして森を見る。

……直感が危険を察知するも、彼が声をあげる前に彼は頭に衝撃を受けて昏倒する。

彼が意識を失う前に見た光景は、味方が同様に昏倒する様子であった。


基地の警備状況を統括している指揮所では、幾つかの警備班との連絡が途絶している事を受けて、少し混乱に陥っていた。

先程から急に起こり始めた落雷や激しい雷雨の影響もあって、 味方との連絡が取れなくなってしまっているのだ。

「定時連絡予定時刻から15分遅れだ、警報を出すぞ。」

「洋上の艦艇に警報を発令しろ。」

事務作業を終え、指揮所に書類を提出し終えた茂木中尉は、慌ただしく動く警備担当者を見つつ、何やら大事が起こっているのを見て、指揮所に待機することを決める。

何もないのであればよし、何か――例えばデルモンターレスの侵入――があったとしても、可能な限り密集していれば、それだけ生き残る可能性が高いと考えたからだ。

彼は西側のゾンビ映画が好きであり、それには一人になると殺される鉄則というのが存在していたのだ。

緊張しているのか、彼は息苦しさを感じ、軍服の胸元を緩める。

しかし、それでも息苦しさが収まる事はなく、彼は倒れた。

彼が最後に見た光景は、彼と共に倒れ伏す指揮所の味方と、指揮所に侵入する青い肌の何かであった。


 「艦長、陸上の指揮所からの連絡が途絶しました!」

艦艇の通信士官が艦長に報告する。

「艦長、陸上で複数の発火炎を確認。僚艦が指示を求めています!」

「通信途絶により、これより指揮権を引き継ぐ。艦内に警報を発令しろ!艦内に居る全員に白兵戦用意を下命。少尉、艦内に居る上陸戦闘可能な人員の数は?」

艦橋で人々が慌ただしく動く中、艦長に話しかけられた彼は偶然その場に居合わせていた唯一の海軍歩兵士官だった。

「ハッ、1個小隊30名が艦内で待機中です。又、1個戦車小隊の戦車兵9名も戦闘可能です。」

「上陸戦闘準備!命令があり次第揚陸できる準備を整えておけ!」

そう、艦長が命令すると、士官は慌てて持ち場に戻る。

「艦長、指揮所から通信です。艦長に代われと。」

通信士官が震えながら艦長に通信を促し、部下からマイクを受け取った艦長が声を荒げながら発言する。

「何が起きている?速やかに状況を報告しろ。」

「我々は、「森の住人」である。貴殿の部下は既に無力化している。貴殿の部下を解放してほしくば、我々の要求を受け入れてもらいたい。」

無線の向こうから、要求を言う若い女性の冷たい声が聞こえてくる。

返答を求める声に対して、艦長はすぐさま返答する。

「本官の一任では判断できない。本国に伝えるので暫し時間が欲しい。」

アフリカで海賊の人質を解放する交渉に当たった経験から、人質を取ることの意味を理解していた艦長は相手にそのように伝える。

無論、部下に本国に緊急電を打たせることを忘れずに。

「時間が必要なのは理解した。しかし、貴殿らがロマリアで行ったように同朋ごと我らを吹き飛ばすこともあるかもしれぬ。上空を飛ぶ航空機を帰還させ、そちらの鉄船がこちらに向けている砲を下げるのであれば、その言葉を信頼できる。」

艦長は、相手の言葉に何か違和感を感じつつも、違和感を無視してすぐに返答する。

「それであるならば可能だ。ーー空軍機に一時退却を要請しろ、それと全艦の砲門を下げろーー。これでいいかね?」

暫くした後、相手が無線に応答する。

「上空から熱源が消えた。鉄船の砲も下がったことを確認した。よかろう、では本国からの指示があったら知らせて欲しい。貴殿らを「信用」しているぞ。」

そういって無線が切れた後、艦長は最悪の事態に備え艦内放送で戦闘用意を下命する。

本国が交渉を拒否し、攻撃を命令するのであれば、味方ごと敵を殲滅するつもりであった。


豊原の首相官邸では、デルモンターレスによる仮設拠点制圧の対策会議を行っていた。

彼らは、どうやってか北日本が設置した仮設施設を制圧した後、こちら側の人員を人質に取って幾つかの要求※1を突き付けていた。

その要求の1つに自身の種族を国家として認めろという趣旨の内容があった為に、首相官邸では軍と行政の実務家達、ボヘミア人民共和国の外務担当者が集まって会議を行っていた。

要求の内、彼らの安全の保障と代表者との会談までは問題がなかった。

(ボヘミア側は、デルモンターレス自身がこのような要求を行うことに大いに驚いていた。担当者曰く、「彼らは極めて排他的」であったらしい。)

国家の承認もまた(彼らの領土とする範囲が確定さえすれば)問題はなかった。

領土侵犯に対する謝罪に関しては、唯一保留とされた。

北日本の理屈では、その土地は無主物であるのだから問題がないのだ。

謝罪するとしても、その内容の確認とデルモンターレスの領土の確定が無ければ話にならなかった。


「しかし、どうして彼らはデルモンターレスに基地の侵入を許し、あまつさえ全員が捕虜になったんでしょうかね?」

方針が決定し、会議が解散した後に開催された宴会に出席していた外務官僚が、そう軍人を睨みながらこぼす。

「かの地に送ったのは、海軍の中でも精鋭の海軍歩兵です。彼らの中には中華やアフリカで実戦を経験している者たちも混ざっています。そこから考えるに、我々の知らない技術や文物をデルモンターレスは使用したのでしょう。」

顔を少し紅潮させた海軍の佐官がそれに応える。(彼の制服の記章から推察するに、彼は海軍歩兵司令部の勤務だろう。)

「今回の失態の原因については、軍事科学研究院が原因を探り終え次第、対応策を軍部の方で策定するから、こういった事はもう起こさないようにするよ。」

陸軍の佐官が(少し疲れた顔をしながら)海軍の佐官に続けて外務官僚に弁解する。

「それにしても、彼らの要求の言うところの「指定する場所」とはどこなんでしょうね?」

空軍の佐官が話題を変えるために疑問を口に出す。

空軍の佐官の素朴な疑問に、全員が首を傾げる。

「恐らく、彼らの前線基地か、彼らが現在占拠している我らの基地のどちらかどろう。……フビライの使者のような末路にならなければいいが。」

そういって、陸軍官僚が外務官僚を(わざとらしい)憐れむような目で見て続ける。

「まぁ、そしたら元寇として敵を取ってやる。安心しろ。」

そういって、外務官僚を除く全員が笑う。



※1

要求の内容は以下の通り

1 自身の種族の安全の保障。

2 自身の種族を国家と認めての通交条約の締結。

3 領土侵犯に対する謝罪。

4 日本側の代表者と、こちらが指定する場所での会談。

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