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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
大陸の革命政権
32/42

権力者の交代

「君たちは一体何様のつもりだ!」

老学者が、憤怒の表情で前に居る者たちを見る。

「革命政府は国内の全ての大学に対して、その自治と財産の剥奪を行うように命令を下しました。」

老学者の目の前に居る者達はロマリア有数の大学の、そこで権威ある研究者として大学の自治会理事をしていた彼に対してある要求を突きつけた。

それは、端的に言ってしまえば魔導関係の研究の全面禁止と大学内における政府の介入の自由の許諾である。

「先生、政府の要求を飲むのか、それとも拒否するのかどちらかはっきりしてください。」

「お前たちは、この要求の意味することを分かっているのか?

ニホンという未知の国と、本当に心中するつもりなのか?ここで研究を止めたら、復興に100年は掛かるぞ。それでも良いのか?」

老学者の疑問に、官僚は鼻で笑って答える。

「ニホン政府とは、既に技術交換協定を締結しています。

あなた方の研究成果は、彼らによって存分に活かされるでしょう。」

一息置いて、彼は続ける。

「そして、先生。あんたの時代は終わったんだよ。これからは、「人権」と「科学技術」がこの世界の基準となって、あんたの信じている王権と血縁、魔導文明はゴミ箱に放り込まれるんだ。」

「さあ、答えを貰いましょうか?許諾するか、死ぬのか。」

そういって、革命評議会改め「ロマリア人民党」の党教育委員部に所属している彼は受諾か拒否かを老学者に迫る。

外には、拒否した場合に備えて革命軍が完全武装で待機しており、要求を拒否した場合にはどうなるかを彼らに見せつけていた。

そして、その光景を見た老学者は苦渋の表情で書類にサインしそれを彼に手渡す。

それを受け取った彼は、いやらしい笑みを浮かべて彼の部下に命令する。

「諸君、大掃除の時間だ。反逆者共を逮捕するぞ、逆らうやつは即時処刑で構わない。」

彼が、そう命令すると同時に待機していた部下たちが大学各所で行動を起こす。

 ……それは、逮捕の名を借りた虐殺の始まりだった。

より正確には、今まで抑圧されていて溜まっていた鬱憤が、学生たちに向けられて発散されたのだ。

授業中に、教授を逮捕した際に抗議した学生をも逮捕する事は序の口であり、一部の教室において逮捕に抵抗した学生達に至っては、革命軍の容赦なき砲撃を立てこもる教室に加えた上で、生き残りは大学入り口において公然と処刑された。

大学で学生の自治業務を行っていた大学生徒会に至っては、「革命転覆を企てる王党派ブロック」として

その構成員全員が逮捕された上で、尋問に於いて罪を自白したために銃殺刑に処された。

そして、同様の事態は各所で行われていた。

各地の公官庁、各種ギルド、軍、地方領主、商会、教会。

各地に存在する組織の中で、一斉に摘発と処刑が行われたのだ。

特に、各種ギルドや地方領主、教会は激しい抵抗を行ったものの、懸念となる勇者や神の降臨も無く(後の調査では召喚や顕在に間に合わなかった事が判明している。)、組織としてもバラバラな抵抗勢力は、北日本軍の支援のもとで統率と、彼らに比して強力な装備を有する革命軍によって呆気なく鎮圧された。

教会に至っては、儀式に必要な聖器物すらも「貧困層救済」を名目に没収され、活動が出来なくなる有り様だった。

北日本の魔導恐怖症の発症もあり、教会や宗教といった北日本が理解できないもの、理解したくないものはその支配域内において急速に姿を消す事になる。

 後世、この時の犠牲者は初日だけで凡そ3000名にも及ぶということが判明している。

大学という次世代の社会の指導層を担う人材はおろか、現在社会の指導層を公然と組織的に弾圧したことは、その背後に存在する内心で現体制に反対するものたちに強烈なメッセージを発していた。

即ち、権力者は交代し、彼らの時代は終わったという事である。

それを表すように、大学を皮切りにロマリア人民党や親北日本勢力、共和主義者は社会のあらゆる分野に於いて、既存の権威の排除を行い始めたのだ。

そのなかで力を入れられたのが、文明化運動という運動だった。

これは、既存の権威や階級その物、つまりは魔導文明そのものを破壊し、北日本がもたらす科学技術を基礎として文明を築こうとする運動である。

当初は、北日本も自国の支持が広がるとしてこの運動を許容していたが、この運動は後々にこの世界に大きな影を落とした行く結果に繋がる。


 反革命勢力、王党派、レンダー付近の諸国を打ち破りレンダー周辺部を含む北部カルパルディア地方※1全域をその統治下に置いた革命評議会は、次なる統治安定策として、その支配領域内に存在する官僚機構、大学、各種ギルドの本格的な解体と再編成を始めた。

その一環として、革命評議会は北日本の助言に従ってこの世界初の近代的な憲法が制定した。

〈ロマリア社会主義憲法〉と呼ばれるこの憲法には、人民主権、普通選挙権の保障や財産権の保障等を明記したこの世界において最も先進的な憲法である。

そして、新たに制定された憲法において革命評議会は自らを「ロマリア人民党」と改称した上で、占領下にある各王国や各行政単位のごとに「評議会共和国」を建国、それらの連合体をもって「ロマリア評議会連邦」を構成し、その議会は各国に設置された人民党が領導するとされていた。

また、憲法では防衛権が基本的人権として保障され、個々の国民は評議会共和国の市民であると同時に革命軍の軍属であると規定されていた。

ただし、この憲法では人身の自由や黙秘権等の権利は法律の留保とされており、刑法における「自白は証拠の女王」という性質と合わせて、政府による逮捕や処刑を行い易くしていた。


 後世、ロマリア評議会連邦の歴史家はこの憲法の設置と、それを濫用した大量の逮捕者の発生と、その後の虐殺に対し口を揃えて批判を行った。

曰く、そこまでする必要があったのか、と。

それに対して、事態の直接の命令者で、引退した当時の内務人民委員がこういった証言を残している。

「あの当時の革命政権は北部カルパティア地方を掌握したとはいえ、他の地域の国々と比べると未だ弱体だった。ましてや国内には、反革命的な傾向を有する層が社会のほぼ全ての分野で中核を担っていた。その上、他の地域の国々は我らを警戒しており、外交的にも孤立寸前だった。だからこそ、我々は非常措置を取る必要があった。そして、あの犠牲があったからこそ、我々は飛躍的な成長とあの長い戦争を敵の第五列なしで戦うことが出来たのだ。」

彼がそう語る反面、北日本政府はその件に関しては口を閉ざしたままである。


※1 北部カルパティア地方は、域内に1300万人近い人口を抱え込む、ロマリア連合王国時代の地域区分である。

常夏の熱帯地域から、広大な平原地帯までを抱えるロマリアにおいて、北部カルパティア地方は北部国境に近く、寒冷な気候の平原地帯となっている。連合王国時代の副首都はレンダー、地域内は1つの副首都と、5つの王国と幾多もの貴族領や村落単位の自治体に分かれている。

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