虚構の軍隊4
2016年4月15日
ロマリアの広大な平原を流れる細い川の側で、僕達は敵を待ち構えていた。
ニホン軍の要請を受けて派遣された僕達は、今は故郷を遠く離れたロマリアの地で、社会主義の友好国である革命評議会を防衛すべく反革命勢力との戦闘に駆りだされていた。
ロマリアに派遣されているボヘミア軍部隊は2個大隊で、そのうち自動車化されているのは3個小隊、その中の1つの指揮官が僕だ。
現在、ボヘミア軍はニホン軍のロマリア派遣軍の指揮下にある。
その中でも僕達は、第10機械化歩兵連隊の第2大隊の指揮下にあった。
第2大隊の任務は、この平原を西に5キロ程進んだ所にある反革命勢力の城塞と村の兵力を殲滅することだ。
作戦会議で決定した僕達の任務は、城塞の北側凡そ2キロ先にある川の橋にニホン軍の2個小隊、革命軍1個大隊と共に展開し、敵の増援及び逃走を作戦終了まで阻止する事である。
僕は、緊張しながら頭に叩き込んだ教本通りの思考をする。
ニホン軍は合計で58名。
車両が、BTR82が3両とBMP3が3両。
装備は自動小銃と擲弾筒、分隊支援火器を定数の弾薬と共に有している。
僕が指揮する小隊は、29名の人員が居る。
装備は、BTR40が3両で、全員が小銃装備で、分隊支援火器や擲弾筒はなし。
革命軍は200名の人員が存在し、武器は全員刀剣や弓。
それに対して、城塞に篭もる敵軍の数は凡そ2千名程度。
付近から来るかもしれない増援の規模は不明で、篭っている敵軍の詳細は不明。
付記事項として、大隊には連隊砲兵から1個自走砲小隊と1個ロケット砲小隊が付属している。
僕達の小隊の任務は橋とその付近の防衛ではなく、革命軍の大隊と共同でその付近の川から敵の浸透と敗走を防ぐこと。
頭に叩きこまれた知識から、僕は現地の地形に沿って革命軍と人民軍の兵士を配備する。
……後は、敵が来るのを待つだけだった。
城塞の方から、ニホン軍の砲撃が聞こえる。
演習や「実戦」で既に慣れている僕達とは裏腹に、革命軍の部隊は目に見えるほど動揺していた。
……指揮官も混乱している様子を見かね、こちらから声を掛ける。
「大丈夫、あれはニホン軍です。反革命勢力を順調に掃討している証です。」
そう向こう側に伝える。
向こう側の大隊指揮官の階級は特務大尉※1であるが、革命評議会との条約によりニホン軍及びその同盟国軍の階級は革命評議会軍よりも2階級上とみなすとされた為、僕と同格になる。
その上、向こうは選挙で選ばれた素人が指揮官であることから、現場での大隊の指揮は僕に一任されていたのだ。
暫く茂みに身を潜めていると城塞ではなく、その反対から敵が現れる。
「少尉殿、「お客さん」が北側から接近しつつあります。敵はまだこちらに気がついていません。」
後背を警戒していた曹長が僕に報告し、僕は小隊と革命軍の大隊に攻撃準備を命令した。
「僕の合図と同時に攻撃を開始してください。」
そして、僕達は敵が近づくのを待つ。
敵との距離が凡そ200m程になった時、予測しなかった事態が起こった。
革命軍が攻撃の合図を出していないのに攻撃を開始したのだ。
幸い僕の小隊では発砲をする者はいなかったが、攻撃に気がついた敵は革命軍の隠れている茂みに火炎球と弓を投げかけ、革命軍と戦闘を開始する。
「各個の判断で発砲を許可する!味方が城塞を攻め落とすまで耐えきるぞ!」
指揮官たる僕も小銃を構えて、敵軍に銃撃を加える。
正直に言って、練度や作戦指揮の差からニホン軍の助けなしに彼らに勝てるのか不安だった。
だから、僕達の作戦行動はひたすら敵の疲弊と混乱を誘って、相手を撤退に追いやる事になる。
幸い、敵は革命軍と戦闘をしており敵の指揮官や魔道師の存在が丸見えだった。
敵のマスケットや弓の射程の外から指揮官や魔道師を中心に狙撃する事で、敵の指揮は次第に精細を欠くものとなっていく。
……銃にこんな威力があるなんて。
今までの常識では、魔法の使えない平民は訓練が施された兵士や魔法使いに勝てない筈だった。
何故なら、相手を殺すための方法の習得は限られた者だけが行えるし、その方法から自身を防御する方法もまた同じように限られた者が習得できたからだ。
だからこそ、短期間の訓練しか積んでいない僕達が勝てるか不安だった。
……けど、現実には目の前で遂に損失に耐え切れなくなった敵が敗走しようとしている。
「逃がすな!追撃しろ!」
僕はそう指揮下の部隊に咄嗟に命令するも、敵の効率的な撤退戦に革命軍の大隊は既に戦闘能力を失いつつあった事により追撃は僕達の部隊だけで行われた。
僕は逃げようとした敵の背を目掛けて小銃を撃つ、倒れる敵。
そうして、逃げる敵のうち一団が武器を捨て手を挙げる。
「降伏する!メディナ王国※2騎士、王国軍中隊長としての名誉ある待遇を望む!」
鎧で隠れていてわからないが、隙間からたなびく長い金髪と高い声から女性であることが読み取れた。
「総員武器を降ろせ!」
「小官は、ボヘミア人民軍第1大……」
ボヘミア人民軍とまで言ったところで、女性騎士が彼の発言を遮る。
「ボヘミア人!?、貴様らは、神から与えられた王権を蔑ろにするどころか、あまつさえニホンという悪魔に加担するとは何事か!即刻我らの指揮下に入れ!ニホンをこの地から追いだすぞ!」
騎士の発言に若干の怒りを感じつつも、彼はそれを抑えて発言を続ける。
「中隊長殿、小官は1小隊を預かる1士官であり、政治に関わる事は許されておりません。政治的な議論は捕虜収容所でお話ください。」
その彼の発言に、騎士は更に詰問する。
「ほう、ボヘミアの人民軍の士官とあろうものが政治を語れないと。人民軍とやらもとんだ無能の集まりだな。」
理性を総動員しつつ、彼は話を続ける。
「中隊長殿、ボヘミアにおいて人民軍は政府に服する形をとっています。話せないのではなく、話してはいけないのです。その違いをご留意下さい。」
そして、騎士が何か言おうとするのを遮って彼は続ける。
「彼らを連れて行け。無論、丁重に扱うように。」
そう部下に命令し、こちらに殺気立った目を向けている彼女とその部下を捕虜として連れてゆかせる。
その後、橋の防衛に戻った部隊は逃げ出す敵に遭遇する事もなく作戦を終えた。
敵の城塞は占拠を諦めた北日本軍の容赦無い砲撃によって瓦礫の山と化し、敵軍は殆どが死亡した。
北日本軍と革命軍は、城塞の城下町に入りこの地区の解放を宣言。
ボヘミア人民軍の部隊はこの地区に駐留し、城下町の平民に「宣伝」を行う事になる。
これによって、北日本は地道ながらも「革命」に対する支持を民衆から集めることに成功していたのだ。
北日本は、大陸の泥沼から手を引くべく「戦争の現地化」を盛んに訴えていた。
そして、その一環としてボヘミア人民軍が派遣され、革命軍にも銃器が輸出されていた。
駐留北日本軍も、規模が大きく補給の負担が大きい機械化師団に代わって機動力のあるヘリ旅団や機械化旅団がボヘミアに駐留し始めており、着実に北日本の負担は削減され始めていた。
北日本にとって、漸く状況は改善し始めていたのだ。
※1 旧王軍や冒険者ギルドの将校を主体に創設された革命軍は、必ずしも革命評議会と人民に忠誠を誓う者たちばかりではなかった。
特に軍の基幹たる下士官や将校は専門家として代えが効く存在では無いことから、革命評議会としても排除できなかった。
それ故、革命評議会は自身に忠実な者たちを部隊の指揮官にすることによって、彼らの力を削ぐという策を実施する。
その一つの政策が「特務」の称号である。
これは、旧王軍やギルドの将校とは異なり民主的な選挙で選ばれた指揮官に与えられる称号である。
※2 連合王国構成主体の1王国。人口は300万人ほどであり、地域的にレンダーの付近に領土を有する。
現在は、周辺勢力と手を組みレンダーの「反乱軍」と戦闘中。




