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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
大陸の革命政権
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虚構の軍隊2

 この国、ボヘミアはほんの1年前に、日本という国に制圧された。

彼らが「人民の解放」を名目に上級貴族や領主様を公開処刑に処した光景を今も覚えている。

そして、その後に激変した環境の事も。

あの戦いを僕、ボヘミア人民軍大尉ズラス・エスラは平民の見習い騎士※1として終戦を迎えた。

 その後、貴族様や魔道師様が日本に連れてゆかれるか処刑され、新しく組織された「ボヘミア人民軍」に僕は王国騎士団の人民軍への改変に伴い准尉待遇で移動させられた。


 人民軍は王国軍の主力部隊たる魔道士部隊や飛竜部隊の保有を制限されている事や、軍の根幹たる貴族階級が消え去ったことで組織と規律はボロボロだった。

階級が異なるだけの同じ平民の言うこと等、誰も聞こうとしなかったのだから。

 しかし、大量に派遣されてきた北日本軍の軍事顧問の厳しい規律や、日本軍が示したその精強さを目の当たりにしてから、兵士は、いや僕達は変わった。

 今までの貴族様とは異なり、公平な判断と真の意味で「騎士道」を体現している同じ平民の筈の士官に、自然と僕達は敬意を払った。


 そして、決定的な出来事は、あの大規模騒乱だった。

神様から使わされた勇者様や、各地に潜んでいた貴族様が蜂起した時には、流石の彼らもダメなのかと思ってしまった。しかし、彼らは神の力を使うはずの勇者を力技で殲滅してしまったのだ。

その光景を間近で見ていた多くの学のない平民でも、流石に考えを変えざるを得なかった。

ーー彼らは、いや、私達も彼らと同じような力を手にすることが出来る!ーー

その上、日本軍は僕たちにそれまでよりも遥かに強力な銃、15式小銃を供与してくれたのだ。

日本軍の指導と武器の供与もあり、軍の組織と規律の立て直しは急速に進んだ。

そして、僕は敵の殲滅とその後の治安維持の功績から、准尉から少尉へと昇進した。


 北日本の暦で8月には日本軍から輸出された兵器を用いた集団訓練が行われるようになっていた。

この頃、自分は歩兵小隊を指揮する指揮官になり、3ヶ月間仲間と共にひたすら実地訓練と座学に明け暮れた。

同時期に、大陸では大規模な騒乱が起こっている事を国営新聞で僕らは知った。

そして、ロマリアで僕達と同じ平民が一斉に蜂起し、社会主義政権を打ち立て暫くした後、僕の小隊は

歩兵小隊から自動車化歩兵小隊に改編されたのだ。


 そして、建国から1年程のある日、ボヘミア人民軍の僕達の所属する大隊は大陸へと派遣される事へとなった。

ロマリアが崩壊してから、日本は徐々に泥沼に引きずり込まれる様に大陸へ軍を派遣している。

ロマリアの革命政府だけでは治安の維持が精一杯の状態に、日本軍は大量の部隊を大陸に派遣し続けていた。

友好的社会主義政権を支援する為に、ボヘミア軍にも派遣要請が行われたらしい。

 正直、僕はまだ士官として北日本の将校が言うところの「天ぷら将校」だけど、ボヘミア国民の盾であり矛である人民軍の少尉として、国益の為ならばどこへでも行く覚悟だった。

少なくとも、僕の指揮する中隊の構成員はその意思を固めているはずだ。


 2016年1月22日 豊原 統合参謀本部

この日、豊原の統合参謀本部では、各省庁の関係者が集められ、今後の軍の展開予定の確認が行われていた。

 「現在、軍はボヘミア、ロマリア、現地名称「大レンディア海」諸島※2に展開しています。現在の配備状況と、今後の軍が予定している軍事情報はこちらになります。」

そういって、設置されているプロジェクターに情報を映す。

そこに記されている情報をまとめると以下の様になる。


2016年度配備状況

ボヘミア駐留軍

第四機械化歩兵師団

第102機械化歩兵旅団

第114ヘリ旅団


ロマリア派遣軍

第二機械化歩兵師団(機械化)

第401義勇軍旅団(第4001連隊から発展)

第402義勇軍旅団(第4002連隊から発展)


大レンディア海諸島派遣軍

第103機械化歩兵旅団

駐日ロシア軍

第34自動車化狙撃兵旅団

第155海軍歩兵旅団


そして、以下が今後の軍の配備予定となる。

ボヘミア駐留軍

第四機械化歩兵師団

第114ヘリ旅団

国境保安局(国境軍)3個大隊

国内軍3個大隊


ロマリア派遣軍

第二機械化歩兵師団

第115ヘリ旅団

第401義勇軍旅団

第402義勇軍旅団

ボヘミア人民軍ロマリア派遣隊


大レンディア海諸島派遣軍

第103機械化歩兵旅団

第3海軍歩兵旅団

駐日ロシア軍

第34自動車化狙撃兵旅団

第155海軍歩兵旅団


この内、ボヘミアは北日本と陸続きの生命線であることから、場所によっては北日本国内と遜色ない程開発が進んでいる事から軍人向けの娯楽施設も豊富である。

しかし、それ以外の地域、特に大レンディア海諸島は殆どが未開の地であることであることから、駐留部隊の娯楽はおろか、生活水準は(特にその初期において)本土と比べて劣悪なものとなっていた。

そのため、希少鉱物が取れる幾つかの島や諸島内で大きな島に部隊を集中配備し、可能な限り兵士の士気と健康状態を維持する様に軍は取り計らっていた。


「やはり、増員はロマリアですか。」と、財務委員会の官僚がこぼす。

「しかし、この世界の帝国主義者は手強い。」


国防委員会の官僚が、事態の泥沼化を弁解するように財務委員会の官僚に話しかける。

「我らを奴隷化しようと企む輩だ、ロマリアを核で焼き払ったのは緊急避難だよ。」


「そうだとしても、我が国にはベトナムの二の舞いをする余裕はありません。それに、一体軍はどうやって外務委員会すら一回も派遣された事のないロマリア王都の情報を手に入れたのですか?情報の公開を求めます。」

そう言って、財務委員会の官僚が国防委員会の官僚を見る。


彼だけではない、他の委員会の官僚も彼を見た。

その視線に耐え切れず、彼は思わず白状する。

「……軍が、戦時に打ち上げる簡易型のGPSシステムが存在する事は知っているだろう?それの派生型に光学衛星が存在するんだよ。」


北日本軍は、そのある意味芸術的なまでの対艦飽和攻撃を成功させるのに不可欠な衛星通信が使用不可能になることを恐れ、戦時には即座に打ち上げ可能な超小型衛星を数十機保有していた。

それらが打ち上げられた結果として北日本は昨年の1月の終わりにはこの星に関する幾つかの情報を入手することができていた。

昨年の9月には、戦時向けの超小型衛星と異なり5〜10年近い耐用性能を有する通常型のGPS衛星の打ち上げにも成功しており、大半の委員会の官僚はそれらがこの惑星初の衛星打ち上げだと考えていたから、官僚の発言はある意味驚きだった。


「そんな重要なことを何故もっと早く言わない?そんな衛星があるなら、我々だって苦労しなかった。」

そう、国土開発委員会と金融委員会が国防委員会の官僚を睨む。


 GPSや光学測定という目を奪われた土建や情報という武器を奪われた金融、ITという分野は近年のIT革命の影響もあって、被害が大きい分野の1つだった。

土建はともかく、金融など1929年のウォール街を思わせる大惨事を引き起こしていた。


「土建や金融の需要を満たせるほどの量の衛星は有していないし、そもそも今が戦時だから、北日本経済は首の皮一枚つながっているだろ?」

そう、国防委員会の官僚が弁解に近い発言をすると、二人共黙ってしまう。


 無理もない。

国防委員会の官僚が言うとおり、戦時を理由とする大幅な統制のお陰で今の北日本経済の首の皮は繋がっていたのだから。

あの時、工場を失った企業、市場を失った商社、本社を失った工場は無数に存在した。

そのまま放置したのなら破産した投資家や企業も無数に存在し、北日本経済は即座に破綻しただろう。

しかし、それと同時に発生した「核戦争」とその後の戦争と開発特需が北日本をなんとか生きながらえさせている。

戦争指導会議が、戦時特別法に則って企業の再建と投資の統制を行ったお陰で、チューリップ・バブルがかろうじてリーマン・ショック並の水準で済んでいた。


「それで、話を戻そう。軍としては、ロマリア派遣の落とし所をどういうふうに考えているのか?」

その後の軍の返答は要領を得ない物だった。

つまるところ、大陸の市場確保=大陸の泥沼に嵌り込むという、図式は変わらないのだから。

肝心の所は、何一つ変わっていなかった。


※1 実際は騎士とは名ばかりの雑兵に近い。平時には警察任務、戦時には最前線での「弾除け」任務を押し付けられる。

役職的には裕福な平民階級の為の名誉職と言える。


※2 北日本の東側、地球世界において太平洋が存在した地域の事。

現在、総力を挙げての資源探索が行われている。

2016年1月現在、北日本に降伏した島は100を超え、合計した人口は推計で30万人を超える。

同時に、幾つかの稀少資源を発見しており既に一部では採掘や生産が始まっている。

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