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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
異種族の衝突
26/42

ロマリアの黄昏

 人民委員会が発議し、それに従って北日本軍が策定している国防計画において核戦力は主要な戦闘単位として位置づけられていた。

特に近年の共和国軍において、対艦飽和攻撃に特化した海軍と空軍の洋上航空兵力、陸軍の砲兵部隊や工兵部隊に配備される戦術核兵器の量は、南日本との通常兵器の戦力差と比例するようにその数を増やしていた。

 無論、このことは北日本軍が核兵器を「威力の大きい爆弾」や「便利な発破」程度に認識している事を表す訳ではない。

北日本軍においても、核兵器使用が許される段階は存在している。

例えば、転移時における状況の様に「発射待機中の複数の潜水艦との交信が」「いきなり途絶する」し、

「同盟国と仮想敵国との一切の交信が突如として途絶える」事態には、司令部の判断において即座の報復が許可される。

しかし、現在北日本軍が行おうとしている作戦は、とてもではないが即座の報復が許可されるような類とは異なるものであると言えるだろう。

 

 日本人民共和国標準時9月18日 三郷空軍基地

共和国における最大の貿易港兼軍港である大泊の付近に設置された三郷空軍基地は、旭川空軍基地と並んで国内最大規模の空軍基地の1つである。

そして、この基地に駐留している部隊の内の一機が作戦に参加する機体であった。


核兵器が装備された巡航誘導弾が慎重に搭乗機に搭載されていくのを尻目に、参謀本部から派遣された参謀による作戦前ブリーフィングが行われていた。

「今回の作戦の詳細については手元にある書類に記載されているが、最後に概要を説明する。」

そう言う参謀から、表情は失われている。

「ロマリア王都が射程に入り次第、運搬物を射出。射出後は速やかに撤退せよ。護衛はレンダー近辺までは空軍が、その後は海軍が行う。尚、本作戦は現地同盟国には極秘で行う。現地同盟国軍機と遭遇した場合は責任は司令部が取るので、現場の裁量に一任する。」

そう参謀は言い切る。

しかし、それを聞いているパイロット達からも表情が失われており、どういう感情を抱いているかを推察できない。


 ブリーフィングが終わり、パイロット達が爆撃機へと搭乗し、機体をチェックする。

いつもと変わらない機体のチェック、異なるのは実戦であるということだけ。

機体のチェックが終わり、機体の発進が管制塔から許可され、護衛のSu27と共にTu160が一路ロマリア王都へと飛び立つ。

 急速な開発が進むボヘミアを抜け、一路ロマリア本土を護衛機と共に亜音速で目標地点に向けて飛行する。そして、事前に知らされた目標地点に到達したことを受け、機長は訓練通りにKh55巡航誘導弾を王都に向けて発射することを指示する。

「安全装置解除。」

「パスコード入力。……承認。」

「巡航誘導弾投下。」

Tu160の下部からKh55巡航誘導弾が放たれ、王都へ向かって滑空を開始する。

「作戦終了。全隊に帰投指示。」

……この光景をロマリア軍が見なかった事は幸運だろう※1。

そう機長は一人ごちていた。


その日、デルモンターレスの主力が占領する王都に人工の太陽が生まれた。

そして、水爆はなんの因果かデルモンターレスが気勢を上げる王城の上空で炸裂する。

文明圏最高の技術で作られた王城は、水爆の威力には耐えられず土台を残して消滅。機転の利いた一部のデルモンターレスや王都市民が地下や結界で爆風から身を守る事に成功したが、辺りが長時間灼熱地獄と化した影響で、結局誰一人として王都から生きては出られなかった。

 北日本の目論見どおり、デルモンターレスの主力もロマリアの土台を支えていた宮中貴族も、華麗なロマリア文化も等しく水爆で消滅した。

 そして、首都と王国中央政府が実質的に消滅した事を受けて、各地の連合構成王国が独立を次々に宣言した。

それに対し、独立を阻止しようとする王軍や各地に一定数存在していたロマリア王国残留派との間で内戦が勃発。

連合王国の流通経路は分断され、王国各地が急速に衰退していく結果を招く。

北日本は連合王国各地で内戦が勃発すると同時にロマリア派遣軍が駐留していたレンダーとその周辺部を治安維持の名目で制圧することに成功した。

同時にレンダーにおいて混乱する知事や地方領主や各種抵抗勢力を拘束する。

そして、レンダー市内でロマリア派遣軍の監視の下で行われた「選挙」により新たに「革命評議会※2」が

組織された。

革命評議会はさっそく北日本との間に、相互援助友好条約を締結。

友好条約の締結と同時に、北日本軍が1個師団を基幹とする部隊をレンダーへ派遣する。

また、ロマリア人民の解放と人民の防衛を目的とする革命軍が設置され、レンダー周辺の王軍やギルド構成員、地方領主の手勢が革命軍へと参加させられた。

 無論、革命評議会に下った勢力が全てな訳ではない。

事実、地方領主や宗教関係者、各地の農民達はおろかレンダーのギルドや市議会員すらもが革命評議会への参加を拒否した。

その反応に対して北日本の取った策は、アメとムチによる分断策であった。

反対勢力の内で、指導層や理論家になりそうな者たちの内、革命評議会への帰順を示さない者をレンダーの広場において一斉に処刑。

また、武力を用いて各地の宗教関係者や地方領主、ギルドや市議会の人物や組織が保有していた資産を一斉に没収した。

そして、それらの資産を貧民層や農民用の公共インフラ整備へと役立てたのだ。

……北日本のプロパガンダと共に。

北日本は自身が作った政府が正当性の欠片も無いことを自覚しており、自分の財布を使わずに出来る事をすべてやったのだ。

上記以外にも、(インフラの未熟さから北日本へと運べない)年貢の大幅な削減や、(現地邦人が病気にならないよう)初歩的な医療の無償提供などを行った。

故に、北日本と革命評議会による統治は社会上層からの憎悪の反面、貧民層や農民からの支持は極めて高かった。

そうして、短期間の間に各地の貧民や農民の支持を得た革命評議会と北日本軍に対し、北日本軍との戦闘やデルモンターレスとの戦闘によって兵力を失った反革命勢力は対抗しようがなく、各地の反革命勢力はまたたく間に他領への逃亡か、北日本への投降か、戦って死ぬかの三択を選ぶ事になった。

 そこまではよかった。そこまでは北日本の思惑通りだった。

思惑と異なった点は2つ。

1つは、北日本のプロパガンダが効きすぎた結果、「平民主義※3」とでも言うべき宗教がロマリア中に広まったこと。

そして、もう一つが革命評議会の主権が及ぶ地域に存在する村や町から次々に民間人が軍に志願し始めた事である。

「自身の選択した政府を守ろう」

彼ら、彼女らがそう思ったか定かではないが、彼ら自身が得た「権利」を守ろうという意思が働いている事は確かだった。

ロマリア全土を巻き込む内戦が始まろうとするなか、それまで虐げられていた

「魔法の使えない」、身分の低い「平民」がいよいよ目覚めようとしていた。


※1 後年、王都までの途上に存在する飛竜軍部隊がTu160を発見するも、高度1万メートルを亜音速以上の速度で進む為にインターセプトに失敗した事が判明している。

また、後年の調査で、デルモンターレスを率いていた変異体や更に上位の未確認種も水爆で蒸発したであろうことが判明していた。


※2 レンダーとその周辺部を実効支配する国家。

初期の選挙では、北日本に融和的な住民の中で使えそうな人物を指導者に仕立て上げた。

支配下の人口は革命評議会の調べによると150万人ほど。(北日本の調べでは凡そ200万人ほど)

レンダー駐留王軍や地方領主の手勢を基幹として編成された革命軍は練度の高い1万人の戦力を有している。

これ以外にも、民間人の志願兵で組織される人民防衛隊が1万人ほど存在している。


※3 現地の宗教とミックスされた教義であり、その主張は端的に言えば原始共産制に近い。

この宗教が、ロマリア各地の火種に点火し急速に燃え広がろうとしている。

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