ロマリア派遣作戦4
連隊砲兵の装備する152mm砲の発射音や味方の車両の喧しい駆動音が聞こえる戦場で、俺はなんとも言えない気持ちの高まりを感じていた。
訓練の時には世辞にも快適とは言えないBMP3の狭苦しい兵員室が、実戦を目の当たりにすると頼もしく感じる。
そのBMP3の中で、俺を含めた分隊は展開命令を待つ。
最近になって漸く防弾アルミ合金の車体に鋼鉄の増加装甲を付加させたこのBMP3は、共和国陸軍の機械化歩兵の足としてBTR82と共に機械化歩兵連隊に配備されている主力歩兵戦闘車だ。
100mm低圧砲と同軸に30mm機関砲、7.62mm機関砲という重武装に付け加え、対戦車誘導弾を装備するBMP3は西側の同様の車両に比べて強力な火力を備えていた。
おまけにそれらを司るFCSはロシア製の2K23から、より精密な照準が可能な国産の豊電工04式に換装されており、その性能は歩兵戦闘車としては世界最高といっても過言では無い。
無論、どんな兵器、工業製品にも欠点も存在する。
共和国の優れた科学技術力を持ってしても、攻撃力を最優先としたBMP3の居住性の悪さを改善することは叶わなかった。
「……連隊本部、第一中隊は目標位置に到着。指示を乞う。」
「……第一中隊、敵は目標地点で密集体型を取っている。現時刻+3分で作戦を開始せよ。」
無線からひっきり無しに聞こえる声を聞いて俺は戦闘が近いことを感じ取り身が強張る。
暫くの無音の後、司令部から命令が下る。
「……第一中隊作戦を開始せよ。」
ドタタタタ……BMP3の装備する30mm機関砲と、低圧砲の発射音が聞こえ、爆発音が炸裂する。
敵の魔法を避けるためか、急加速と蛇行運転を繰り返す車両の中で、俺はガンポートから血眼になって敵を探す。
勇者が陸軍の戦車を吹き飛ばした光景を思い出し、震えながら下車命令が下るのを待つ。
あの時、陸軍のT72は勇者の魔法の集中攻撃を食らい砲塔を吹き飛ばされ乗員ごと爆発炎上した。
最新の爆発反応装甲を装備し、防御力は原型よりも遥かに強化されたT72に魔法攻撃は有効なのだ。
そして、BMP3の車体はT72が搭載する複合装甲よりも防御力の低い防弾アルミ製で構成されている。
「総員降車!」
分隊長が俺達の方を見つつ、待ちに待った命令を下す。
命令が下されると同時に、ハッチから対戦車火器を有した歩兵を筆頭にBMPを下車し、それぞれが武器を前方に構える。
肌の青い、俺達より巨大な体格を有するそいつらが視認距離にいる。
傍目にも、敵が混乱しているのがわかるが、それよりも俺は連中が生きている事に困惑していた。
……あいつら、連隊砲兵の攻撃を耐え切ったのか!!……
「撃て!」
俺と、同じ思いを抱いているであろう分隊長の命令で、俺は夢中になってAK74を敵に対してフルオートで叩き込む。
敵に当たるも、味方の兵士が放った銃弾と同様に魔法障壁に弾かれる。
敵は、混乱しながらも隊形を変更し何かを唱える。
すると、いきなり現れた氷の刃がBMPに向かうが、幸いにもBMPの防弾アルミ板に弾かれる。
BMPの装甲の硬さに唖然とする敵を見逃さずに味方の兵士がRPGを撃つと、結界が負担に耐え切れなかったのか、結界を貫通して中の敵を吹き飛ばす。
しかし、生き残っていた敵が発生させた氷の刃が味方に直撃し、彼の着ていたボディアーマー※1がそれに耐え切れず、氷の刃が彼の身体を貫通する。
「衛生兵!」兵士を後方に引っ張る味方を援護すべく、分隊員が手榴弾を投げて敵の攻撃を妨害する。敵の魔力がついに枯渇したのか或いは油断したのか、敵はさしたる防御も出来ずに手榴弾が直撃して敵の一団が倒れる。
「敵は混乱している!全員突撃するぞ!」
歩兵大隊の迫撃砲が支援射撃を行うなか、分隊長の命令で俺達はAK74を構え、混乱する敵に対して突撃を開始する。
完全に疲弊しきった敵が、第14連隊によって殲滅されたのはそれから1時間後の事だった。
流石の敵も連隊砲兵の砲撃を防ぐのに精一杯であり、その後の包囲殲滅戦に耐えきれず躯を草原に晒すという結果に終わった。
この戦いにおけるデルモンターレスの死亡者はおよそ1500名程度。北日本軍は数名の死者と数十人の死傷者を出すだけの損失に被害を抑え、敵に対して勝利を収める事になった。
それに対して、ロマリア王国軍の4個騎士連隊と伯の私兵2個騎士連隊の合計1万2千人の部隊は戦闘能力を殆ど消失していた。
……これだけを聞けば北日本の圧勝に思えるが、北日本軍はこの結果に不満を有していた。
そもそも、北日本の想定では連隊砲兵の砲撃でデルモンターレスを壊滅させられる腹づもりだったのだ。
それを鑑みると、連隊砲兵はおろか戦車大隊や歩兵大隊を遣っての殲滅による結果としては非常に不本意なものだと言えた。
地球世界でも連隊砲兵の全力砲撃を防御方法も何もない平原で受け、殆どが無事な軍の存在など想定しえないのだから、想定しておかなかった北日本軍の怠慢とは一概に言えなかった。
しかし、その貴重な戦訓確認と敵に対する新戦術の構築は、ロマリア王都から緊急に伝えられた出来事によって遅れる事になる。
――王都はデルモンターレス本隊によって陥落せり。国王陛下並びに王国政府首脳部の生死不明――
使者によって知らされたデルモンターレス本隊によるロマリア王都の強襲と陥落。
王族、主要な宮中貴族の生死不明の報は北日本の戦争指導会議を驚愕させた。
なにせ、近代的な装備を有しないデルモンターレスとやらが、前線から遠く離れている筈の王都を前近代的な軍としては異様な速度で(後の調査では、その速度は一日あたり60キロと判明した)強襲したのだ。
ロマリアの混乱が確実になった事とデルモンターレスの予想以上の能力に、北日本は対策を迫られた。
まず、ロマリアの混乱は北日本と大陸との貿易に甚大な悪影響を齎すことから、北日本の経済再建計画は再び先延ばしどころか無期延期にされることになる。
この報が入った豊原証券取引所は連日のストップ安となり、取引が全面的に停止されることになる。
無論、せっかく手にはいろうとしていた市場を失うことを北日本指導部は良しとしなかった。
故に、北日本は嘗ての日本がそうしたように傀儡政権を大陸に作ることを画策する。
偶然にも駐留しているレンダーはロマリアの副首都とされており、経済力も官僚団も国家として自立していける程度には揃っていた。
おまけに、レンダーの独立を阻止する重しとなる駐留王軍と、北日本による政府樹立を妨げるであろう現地封建領主とその私兵は先の戦闘でその殆どが死亡していた。
来襲しようとしたデルモンターレスは、その大半を殲滅したばかりだ。
そして、それらの事情を奇貨とした戦争指導会議は傀儡政権樹立に向けた工作を、レンダー駐留軍の増派と共に急ぎ行う事になる。
また、戦争指導会議は今回得られた戦訓に鑑み未だデルモンターレス主力が存在すると考えられるロマリア王都に対し何らかの行動を起こす事を決定。
北日本軍が手こずる程の強力な力を有する彼らを一挙に殲滅することを画策した。
そして、戦争指導会議は短くも白熱した議論の結果、王都に対して核攻撃を行うことを決定。
無論、戦争指導会議では核攻撃に対する反対意見が噴出した。
「核攻撃をされた訳では無いのに、一国の首都に対して核攻撃を行なうことは常軌を逸しているのではないか。」反対意見を要約するとこのようになる。
それに対して、賛成派の意見は端的かつ説得力があった。
「我々には、デルモンターレスを相手にベトナム戦争を行ったり、ロマリアと冷戦を行いつつ資源開発を行う余裕は無い。それに、ロマリアが我々の技術を手に入れた場合、我々は下手をすると滅ぼされかねない。故に、我々は彼らを滅ぼす必要がある。そして、滅ぼす以上は嘗てのカルタゴのように、徹底的な破壊をすべきであると考える。」
かくして、ロマリア王都は消滅することが決まった。
※1 北日本軍は、大型兵器の導入を優先的に進めた結果、個人向け装備の更新が先進国に比べ大幅に遅れている。
それ故、2000年代の初頭にはボディアーマー等の装備は一部の精鋭部隊しか装備していなかった。
しかし、近年になり個人装備の近代化が図られた結果、2014年になり漸く陸軍の全部隊にボディアーマーが行き渡っていた。(北日本軍の対歩兵戦能力が急速に拡大するのも丁度この頃。)




