ロマリア派遣作戦3
9月5日、ロマリア本土にデルモンターレスの一部が侵入を開始。
各地のロマリア王国軍や諸侯の私兵を破りつつ、幾つかの集団に別れロマリア国内へ分散侵入を開始した。
そして、3日後には予想を上回るスピードでデルモンターレスはレンダー郊外へ迫りつつあった。
その報を聞き、共和国軍は王国軍との打ち合わせどおりレンダー防衛作戦を開始する。
キュラキュラキュラ……
見通しのよくない森林地帯を、北日本軍の歩兵大隊と戦車中隊が王国軍の一部と共に決戦予定地の側面へ移動していくのを尻目に伯はほくそ笑む。
ーーニホン軍と共に側面を奇襲せよーー
あまり役に立たない傭兵部隊を北日本へと押し付け、自身の軍は平原で戦闘を行う。
レンダーの王軍と伯の私兵は、彼らの軍勢だけでデルモンターレスを破るつもりだった。
レンダー駐留軍は、対ニホン戦役において所属兵力の半数を失うも、未だ数の上では5個騎士連隊を基幹とする1万人程度の兵力を有している。
故にその想定は、彼らが対峙する相手が以前の能力であったのなら通じただろう。
しかし、デルモンターレスは神による奇跡を与えられ、その能力は以前とはかけ離れたものになっている。
レンダー伯や市参議がそのことに気づいた時は遅かった。
長槍を持つ兵士を中心に左右にゴーレムを配置し、後方に魔道士を配する。
典型的で教科書通りの、最もバランスの取れた陣形をロマリア王国軍は取る。
「対魔導戦用意!」
王軍指揮官がそう号令を掛けると魔道士が結界を貼り、敵との遠距離戦に備える。
デルモンターレスは歩きながら王軍へ向かっている……攻撃の有効射程に入ったのを確認した指揮官が命令を下す。「全軍、攻撃開始!」
その命令を合図に魔道士は魔法を放つ。
……その瞬間、デルモンターレスは全員が無作為にバラバラに王軍を目指して走り始める。
組織だっていながら、それでいて効果的に魔法攻撃を防ぐ戦術に指揮官は動揺するも、遠距離戦でなく白兵戦に持ち込まれるのを防ぐべく命令を下す。
「ゴーレム!長槍隊、前へ!敵の浸透を防げ!」
王軍指揮官の命令に従い、密集した長槍部隊とその側面を守護するゴーレムはデルモンターレスを正面から迎え撃とうとしていた。
そして、両者が接触しようとするときデルモンターレスは「何か」をつぶやく。
その瞬間、正面に居た長槍部隊は挽肉と化し、鋼鉄を纏ったゴーレムは穴を無数に開けられ機能を喪失した。王軍指揮官も、巨大な火の玉をぶつけられ消滅。
指揮官が死亡した王軍は混乱に陥る。
「魔道士部隊、対物理障壁用意!」
指揮系統が混乱する中で下されたレンダー伯の命令に従って、伯の部下たちと王軍の魔道士は魔法攻撃に備えて結界を貼る。
しかし、デルモンターレスから放たれる極大魔法はそれらを溶かして中に居た魔道士を消滅させられる。
レンダー伯もまた、王軍の魔法結界が機能しないという尋常でない事態に逃げ出そうとしてデルモンターレスの魔法攻撃により周りの私兵ごと全身がローストビーフと化す。
挽肉と化した兵士達を踏みつけ、デルモンターレスはそのまま王軍を全滅させようとする。
が、それは北日本軍の砲兵部隊の容赦無い全力砲撃によって阻止された。
ロマリア連合王国 レンダー近辺
「弾着確認!敵に被害なし。」「敵はがむしゃらに突撃を繰り返している模様!」
遠征軍の第一派として派遣された第14連隊は、上空に展開しているヘリの無線から伝えられる敵の異質さに困惑していた。
遠征軍の基幹部隊である第14連隊は北海道の前線に配備されていた第4機械化歩兵師団に所属しており、転移直後の戦闘や南部演習作戦にも参加していた。
第14連隊は、予算の都合から同師団に所属している第15連隊と比して砲兵部隊の機械化が進んでいない。
(第15連隊の砲兵部隊は自走砲と自走ロケット砲部隊に更新されたが、第14連隊は未だ牽引式。)
とはいえ、転移直後の戦闘では他の師団と同様に敵軍を容易に殲滅した。
今回もその光景を再現できるものと軍上層部はおろか末端の兵士まで考えていた。
しかし、現実は非情だった。
連隊の有している最大火力である2A65ムスタ152mm砲単独では敵の結界を容易に破壊できず、阻止が精々なのだ。
「側面部隊が敵と接触!戦闘に入りました。」
自軍が有する砲では結界を破れない事に唖然とするが、その報を聞いた連隊長は即座に命令を下す。
「プラン2だ、敵を全火力で撃破する。第二、第三歩兵大隊に移動命令。」
見通しの悪い森林地帯で、数十名の敵兵と遭遇した第一大隊と戦車中隊は王軍と戦闘を開始した。
ただし、それらの戦闘はろくな協同演習をしなかったツケか混乱に満ちたものになった。
「大尉殿、傭兵が逃げ散っていきます!」
敵を前にバラバラに逃げ始める傭兵を前に、戦闘態勢を整える部下が大尉に指示を乞う。
大尉は、共和国軍法に照らして適切だと思われる法に従って命令を下す。
「逃げるやつは敵前逃亡で射殺しろ!」
直後に、行われた射撃で傭兵たちが幾人か倒れる。
敵が迎撃態勢を崩した傭兵達に取り付いて殺傷し始めると、司令部から既に敵が「勇者」と同様かそれ以上の強さを有している事を知っていた大尉は好機だと考え命令する。
「総員、対勇者装備!傭兵ごと吹きとばせ!」
その命令を受け部下たちはRPG29を構え、大隊付属の迫撃砲中隊の砲撃を合図に一斉に攻撃を開始する。
6門の2B11迫撃砲を筆頭にBMP3の徹甲弾、RPG29の一斉攻撃が行われ敵兵に取り付いていた傭兵ごと敵兵を吹き飛ばす。
さしもの敵兵も、連隊砲兵の攻撃の直後に行われた中隊の全力攻撃には耐え切れず四散する。
「大尉殿、敵は一時後退しています!」
「前進命令は下されていない。総員現地域を確保しろ。迫撃砲部隊は敵に対して砲撃を続けろ。」
第一ラウンドは終了か、大尉はそうひとりごちる。
「あれは、味方だぞ!何をしているのか!」
王軍の指揮官が未だ作戦中にも関わらずこちらへ来て抗議を行う。
「味方?事前の作戦にも関わらず逃げ出したものが味方だと?」
大尉の冷たい声に、王軍の指揮官は気付かず発言する。
「そうだ!彼らは金で雇われた存在とは言え、王国が雇った傭兵であるぞ!それを外様の貴様らが殺すとは何事であるか!」
そう言われて、大尉は(不味かった)と思いつつ返答する。
「私が受けている命令は、側面から敵を奇襲せよ、という命令です。仮に傭兵たちが貴軍の予算で雇われた者達であったとしても、それらの犠牲で我々は敵の別働隊を撃破することが出来ました。」
大尉の言葉を聞いて、王軍の司令官は軽蔑したような目を大尉に向けながら発言する。
「つまるところ、戦果を得るためには王国の民であっても殺すことを厭わないと。異世界の民というのは随分異質な倫理観をお持ちですな。」
ーー何を言っているんだこいつは?ーー
自身を軍人である事を忘れているとしか思えない男との会話を、大尉は無駄と判断する。
「この場は、互いの価値観をぶつける場ではありません。未だ作戦中ですので指揮官殿は陣地にお戻りください。」
そういって会話を切り上げて、大尉は司令部からの命令を待つ。
プラン1は、先程の敵との接触で破綻。
と、なれば全兵力で敵を包囲せん滅するプラン2となるが、戦車中隊と協同している以上、我が大隊が破城槌になることは明らかだった。
が、現段階では未だ連隊砲兵の全力砲撃が続いており、事前の打ち合わせでは、命令が下るのは砲撃開始から30分後とされていた。
「大尉殿、連隊司令部より連絡。現時刻+15分をもってプラン2を開始せよ。です。」
部下からの報告に、大尉は笑みを浮かべて二度目の「実戦」を経験したばかりの部下を激励する。
「同志諸君!!我々はあと15分後、敵を包囲殲滅する。現地では友軍が我々の到着まで粘っている。我々は騎兵隊として彼らを救出に行くのだ!!」
そう、部下を鼓舞しつつ自分の言葉を嘲笑する。
つまるところ、こちらの救出まで友軍は囮として損失を拡大させるのだから。




