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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
異種族の衝突
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ロマリア派遣作戦2

 ロマリア連合王国は、その名が表す通り「連合王国」である。

史書によると、元々別れていた幾つかの王国や豪族が当時存在していた「悪魔の国」に対抗するために数世紀前に同盟を組んだのがその始まりとされていた。

幾つかの大国を盟主として発足したその同盟は、大陸を横断する大運河であるロマリア川から名前を取った「ロマリア連合同盟」として発足。

そして、その「悪魔の国」が何らかの理由で消えた(正確には史書に忽然と登場しなくなる)後もその国の復活を恐れた連合同盟は存続する。

そして、当初は文字通り「同盟」の方が近かった連合王国は年数が経るほどに盟主の地位にある大国の王家や民族の混血が進み、自らを連合王国と名乗るようになる。

そして、遂に1世紀程前に当時の国王が「ロマリア連合王国」に正式名称を変更した。


 しかし、それに対して既得権益を有する封建貴族や各王国の宮廷貴族達は反発。

当時の国王が、北方の蛮族撃退においてその優れた軍事的才能を見せたことや、他の王国の国王や次期有力後継者が死亡した事から反乱や独立こそ起こらなかった。

しかし、改革を進める中央政府の宮廷貴族や実務官僚達と、各地方の有力者の間に埋めることの出来ない溝を作ることになる。

そして、今回の未曾有の危機に対して遂に中央と地方の対立が明確になってしまった。

そのひとつの帰結が、北日本という「魔力を持たぬ蛮族」に対する扱いに出ていた。


「ニホン軍には、城外での防衛戦を行ってもらう。」

そう、目の前の豚(レンダー伯を名乗る、人語を話す珍しい豚だ)が居丈高にこちらに命令してくる。

豚曰く、城外で敵を迎え撃つ先鋒を任される事は「名誉」なことらしい。

しかし、豚の知性の欠片もなさそうな目に現れる意図は見え見えだ。

ーー蛮族共はお互い潰し合えーー

目の前の豚は、そういうことを考えているに違いない。

部下の命を預かる身として、そんな下衆な手に乗ってやるつもりはなかった。

しかし、彼と同じ気持ちを抱いていたのか連隊長が豚の提案を丁重に断り始める。

「恥ずかしながら、我が軍の白兵戦経験は貴軍に劣ります。しかし、その分火力は失礼ながら貴軍を凌駕すると考えます。故に、我が軍は貴軍に「名誉」をお譲りします。後方支援はお任せください。」

豚の軍を持ち上げ、命令をやんわり拒絶する。

(軍令の拒否を連隊長が言うとは余程の事である。が、この時点でそれほどまでに現地軍とロマリア貴族との間は険悪化していた。)

そして、軍令の拒否は共和国軍がロマリア連合王国の指揮下に入っていないからできる荒業である。

……豚が命令を拒否されたことに、顔を赤く染める。

そこで連隊長が折衷案を提示する。

「貴軍の歩兵部隊と我が軍の戦車部隊が「先鋒」を担うというのはどうでしょう?

貴軍の強力な白兵戦能力と、我が軍の強力な火力があれば蛮族も食い止められるのではと愚考しますが。」

連隊長の言葉に、豚はようやく反論が見つかったかの様な嘲りの表情で発言する。

「いや、それには及ばぬ。ニホン軍には後方支援だけしてもらえば良い。我々は勇気ある軍としか共に行動せんのでな。」

そう言って豚は、何故か勝ち誇った表情を見せる。


 なぜ、ここまで関係が悪化したのか?

様々な理由が挙げられるが、一番大きな理由は両者の「人命」の大きさに対する価値観の差異だろう。

北日本は、曲がりなりにも高度な産業を有する工業国であり、地球世界で見ても豊かで官僚の腐敗は少なく、法秩序も保たれている国である。

そのため、人命というのは(少なくとも後進地域と比べ)重い存在である。

人が国家の基礎である以上、人に対して不合理な扱いをすることは避ける必要がある。

それに対して、ロマリアはこの世界では列強であるが、国民の生活水準(特に平民のそれ)は北日本とは雲泥の差であり、三権分立という考えも生まれていない国である。

おまけに、国家の基礎は農業や鉱山でもあった。

そして、更に重要なことに「魔力」という絶対的な基準や「身分制」という強固な壁が存在する。


……それらが、北日本という異質な国家に適用されるとどうなるだろう?

魔力を持たず、身分制も存在しない、宗教を否定する社会主義国家の扱いは想像に難くない。


「あの無礼な蛮族を追い出せないのですか!」

市参議会とレンダー伯が、連合王国が派遣したレンダー知事に直訴する。

両者とも、本日の防衛会議での北日本軍の無礼に怒り心頭だった。

それ以前にも、市参議の一人の独占権益であったはずの港湾の改装使用や市の法律を「治外法権」を理由に無視して行われる貿易によってレンダー中の商人は大損害を被っている。

ーー蛮族が神聖なる王国本土を闊歩している!ーー

それだけならまだ、彼らも耐えられた。

なにせ、蛮族が貿易を求めてこちらにやってくるのは普通の事なのだから。

しかし、蛮族がルールを無視して貿易を行い※1、爵位や職業に相応しい待遇※2を与えないのは耐え難かった。蛮族の商人共は、暗黙の了解を平然と破り未知の商品や価格が公定されている塩を極めて安価で売りさばいているのだ。市を代表する参議会としても黙っている訳にはいかなかった。

レンダー伯も同じ考えだった。

伯は蛮族に配慮して「先鋒」の名誉を譲ってやったのに、それを拒絶し伯の面目を潰した挙句に

代案と称して蛮族ごときがこちらの作戦に指図したのだ。

王国誕生以来、蛮族に指図される伯爵があっただろうか?

私達はそのような無礼を見過ごすわけにはいかず、知事に詰め寄る。

 が、知事はにべもなく二人の要請を断る。

知事は二人の要請を受け入れられない理由を以下のように説明していた。

ひとつ目は、レンダー近辺の防衛に北日本軍が参加するよう指示したのは国王陛下であり、かの国の特殊性から他の属国との扱いを分けるべきだと中央から通達されていること。

そして、その特殊性は短期間での港湾整備やその装備で証明がなされていること。

ふたつ目は、ニホン軍もニホン人商人も連合王国法はおろか市則もなんら破っているとは言えない為、追い出すための根拠がどこにもないこと。

その上で、知事はニホン軍が退去するためにはデルモンターレスを駐留王軍と伯の私兵とで破り、危機が去ったことを示せば問題がないと両者に助言する。

……つまるところ、知事もまた北日本人がレンダー市を闊歩する事に彼らと同じ感情を抱いているのだ。

そして、その感情によって本来は共同で取るべき防衛策を北日本軍抜きで行う事にしてしまった。

 その助言を聞いた二人は渋々ながら納得し、市長との会談後には北日本軍とまともに作戦会議を行うようになり、北日本軍を不思議がらせることになる。


※1 化学調味料等を「法に定められていない」事を理由に安価に販売していること。


※2 貴族が求めた賄賂を現地軍は支払わなかったり、彼らが軍の女性兵士を強姦しようとしたことに対して、「平民と同じ扱い」をした事。ロマリアでは建国の経緯から法は万民に適用されるが、その解釈には階級の違いで大きな差が存在する。

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