表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
異種族の衝突
22/42

ロマリア派遣作戦1

 味方の駆逐艦が異常事態に備えて砲を湾内に向けているのを尻目に、RORO船の艦上から彼は憂鬱げな目を目の前の大地へと向ける。

派遣前に行われた状況説明の時に見せられた、16世紀の欧州のどこかの港湾の風景画とどことなく似ている目の前の港。

精々が帆掛け船程度の運用しか考えられてなさそうな粗末な港の一角に、クレーンやコンクリートの埠頭が存在する、場違いな程近代化された一角が見えた。

 そこは北日本の租借地であり、会った事もない相手から仮想敵国かつ現在の主要貿易相手国であるロマリアを救援するために派遣されている北日本軍の大陸側の根拠地であった。

――何故こんな差別主義者共を救うために俺はいかなきゃならない!!――

そして、「そんな所」に派遣される彼の内心は、怒りで煮え滾っていた。


 彼の怒りはもっともなものだった。

彼は、国境騒乱時に家族を「異世界人」に殺されていたうえに、恋人が「行方不明」になっていたのだ。

北日本政府が迅速な解放作戦を行った理由は、そうした公民を解放する為でもあった。

しかし、ボヘミア解放時にボヘミアで拘束されていた共和国公民の内、1/4程度が既に国外へと「戦利品」として連れ去られていた。

そして、北日本側の返還要求をロマリア側が、「個人の行為」は条約の範囲外と突っぱねた事で事態はややこしくなる。

なにせ、各国の貴族や王族が「戦利品」として共和国公民を拉致しているのだ。

ロマリア側は、自身の軍事力や威信が傷ついている現状で自国や他国の有力層の財産を奪うような行為はしたくないと考えていた。

確かに、属国や自国の有力貴族もロマリアに対する自立する意思や能力を失っている。

ひどい場合には、略奪による財産の獲得と名誉欲にくらんだ国王や、有力貴族を根こそぎ失った国もあるほどだ。彼らも、まさか召喚と殆ど同時に自分達の頭上に核弾頭が落ちてくるとは想像できなかった。

それでも、そういった行為はロマリア国王に対する不満を抱かせる原因になり得た。

ああ、「召喚物」や魔力を持たないことに対する無意識的な差別心もあったのかもしれない。

両国の「人命」に対する理解の違いもそれに拍車をかけた一面もあるだろう。

そして、それらの要因がある為に交渉は大きく拗れた。


 幸いにも、その後の再戦もちらつかせる北日本政府の交渉や砲艦外交※1等の威圧により、海外へと拉致された人々はその殆どが北日本へ交渉終結後1ヶ月以内に北日本へ返還された。

そして、その人々が語った海外における異世界人の扱いは戦争指導会議を恐怖に陥れた。

曰く、「現地では、狂信的な一神教が盛んであり、民族浄化や殲滅戦争を度々起こしている。」

「異世界人は、魔力が存在しないというだけで奴隷の様な扱いを受け、それが当然とされてしまっている。」

今はまだ戦時ということもあり情報が統制されている事から言論統制や箝口令が引かれているが、これが平時なら世論がロマリア連合王国への全面報復を要求していただろう。

それに、ロマリア側の言い分では、交渉終結前に既に「行方不明」になっている人物が居る事が事態を更にややこしくした。

これが、不特定多数かつ証拠があるならば北日本側も納得せざるおえない。

が、実際には特定の技術者や若い女性や子供に対象が偏り、おまけに証拠も何もないのだ。

戦争指導会議は、「行方不明者」に関する全ての情報に緘口令を敷いた。

なにせ、仮にそれが世間に知られた場合、幾ら戦時かつ緊急時とはいえ抑えきれる自信が戦争指導会議にも持てなかった。

 実際、後にその情報を知った一部軍人が作戦計画、通称「四角形※2」という内容の軍事計画を極秘で作成するという事態を巻き起こした程なのだから。


 故に、彼の怒りももっともと言うべきだろう。が、流石に怒りの雰囲気を醸し出しながら上陸するのはまずい。

彼の階級は大尉であり、立派な中隊指揮官なのだ。

指揮官である以上。ロマリアの防衛部隊との合同作戦会議や、市参議会への挨拶等の「外交」を彼はしなければならない場合があった。

本来回ってこないはずの役割が、大尉に回ってくる可能性は十分存在した。

なにせ、第14連隊の指揮官は大佐である。大尉以上の階級の持ち主は連隊内には後方や支援部隊の士官も合わせ、30名を超える程度に過ぎない。それに、この世界では未だ戦争が「高貴なる者の義務」と捉えられる以上、前線指揮官の中核とも言える尉官にも「外交」をする可能性は高かった。


 ……それに、彼だけではない。連隊には他にも「被害者」が居るのだ。

「大尉、気持ちはわかる。」

大尉の醸しだす雰囲気を察知した少佐が、大尉に話しかける。

そのかけられた言葉に振り返ると、大隊の司令官たる少佐が立っており、大尉は無意識の内に敬礼をする。

少佐もまた家族が連れ去られており、大尉と気持ちは同じだった。

「部下や相手さんの前でそういう雰囲気を出すなよ。」

大尉は不満顔で少佐の言うことに頷く。

それを見た、少佐は苦笑して続ける。

「私達は4千万国民の生活を背負っている事を忘れるな。私達の行動の如何に国民の生死がかかっているんだぞ。」

その言葉に大尉はハッとなる。

そうなのだ、もう日本人民共和国には盟友たるロシアも朝鮮も無いのだ。

食糧を得て、経済を回し、文明を維持するためには、誰かと貿易をするしかないのだ。

相手との貿易を行わなければこの国には滅亡という道しか残されていない。

その相手が、例え無慈悲な帝国主義者やゾッとするほど時代遅れの封建主義者だとしても、交流を断つ訳にはいかなかった。前世界とは状況が徹底的に異なるのだ。

故に、国民が生きていくためにどのような苦難や理不尽に直面したとしても歯を食いしばらなければならなかった。


 大尉の目が、ある種の使命感に燃えたのを確認して、少佐は続ける。

「今は耐えろ、必ずあの帝国主義侵略者共に復讐する時が来る。」

そういって、少佐は大陸の大地を鋭い目線で睨む。


 その日、第14連隊本隊がレンダーに上陸し、現地に陣地の築城を開始した。

そして、それより少し前に北日本の手によって、現地の港湾設備は北日本軍の兵站維持に必要な最低限のインフラを整え、以後も北日本政府によって港湾や周辺都市部のインフラ整備が行われることになる。


※1 北日本の保有する戦艦を、各国の沿岸部に派遣して「通商」と「国交」の樹立を迫った事。

その情報は北日本のマスメディアによって「現代の砲艦外交」として国内に報道されていた。


※2 一部過激将校が作成した有事研究。

概要は以下の通り。

1 有事勃発と同時に、国内全土に戒厳を布告し1週間程度で国家総動員体制を確立。

2 保有する反応弾兵器を敵対国中枢部及び各重要拠点に対し使用。

3 2の後に共和国軍を上陸させ敵残存戦力を撃破。

4 各地に分断した傀儡政権の樹立をもって戦争終結。


この他に、化学兵器や生物兵器の使用も検討されており、有事の際には敵の中枢や民族を文字通り

「消滅」させるつもりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ