表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
異種族の衝突
19/42

出兵要請

 ロマリア大使館から齎された参戦要請書によって、戦争指導会議は紛糾していた。

参戦要請書には、北日本陸軍の実に1/3の6万人規模の派兵を求めるとの要請が書かれていた。

しかも余程困窮しているのか、派遣軍の食料と遠征費用の半分はロマリアが負担するとしているのだ。

自国軍を数カ月前に殲滅した相手にこの対応である。

あまりの対応に、応対した外務委員会の閣僚が別の意図があるのではと訝しんだ程である。

しかし、この時のロマリア側は北日本召喚時と先の戦いで機動兵力の大半を失っており、本当に戦力が足りなかったのだ。

(無論、夷をもって夷を制するという一種の中華帝国的発想もあったのかもしれないが。)


 しかし、その派遣要請を受け取った戦争指導会議は要請の実現は無理だと考えていた。

現在、共和国はその総力を挙げて資源探索と海図作成を行っている。

そして、それと並行して大陸各国との通商を転移によって半減した共和国の商船が行ってもいる。

7月に入って、漸く最低限の通商路の安全確保や海図の作成が終わった段階なのだ。

その上で、6万人もの兵力とそれらの兵站を維持するための輸送船の確保等できるわけがなかった。

なにせ、その6万人は貧弱なインフラのどこともしれない内陸奥地で敵と戦闘することになるのだ。

加えて、武器弾薬の補充も考えた場合、共和国の貧弱な商船隊ではそれを支えることが難しいという事がわかりきっていた。

そもそも、陸軍自体が北海道での戦闘とそれを支えるだけの兵站しか有していないのだ。

自国の大軍で海を超えて遠隔地で戦闘を行うという想定自体していなかった。

故に会議の本音を言えば、「そんな余裕はどこにもない」のだが、条約を結んだ建前上そういうわけにもいかず、会議は冒頭に戻る。

 「貿易の事もあり、全く兵力を送らないという訳にもまいりません。せめて1個師団は送る必要があります。」

先の交渉でロマリア側を歓待した二宮がそう言って軍部を見渡す。

「軍が保有している長距離機動可能な強襲揚陸艦は二隻です。それを使って輸送するとしても、1度の輸送で陸軍1個連隊が限度です。」

先の事情から、軍は派遣に徹底的に反対していた。


 軍は、転移前に有事には即時、ないし簡易的な改装で揚陸作戦従事可能なRORO船を複数隻用意していた。正確には、民間企業に対して補助金を交付して建造させていた。

しかしそれらの船の内、半数以上は世界各地で船舶業務についており転移で失われずにいたのは半数程度しか無い。

しかも、それらの運用を想定しているのは座礁の危険を考えなくても良く、インフラの整っている南日本か中朝戦争※1後に幾度となく派兵され、勝手知ったる中華地域である。

それも、現地には満州や朝鮮の様な同盟国が存在していた。

それに対して、こちらの世界では全く知らない海域を、支援する能力のない同盟国と共に、舗装された道路すらあるかどうかわからない辺境地域で、兵站不足に悩まされながら未知の敵と戦闘する事になるのだ。軍人としては反対するのは当然だろう。

喧々囂々の議論の末に、海軍の護衛をつけた1個旅団規模の兵力を第一波として派遣することに決まった。兵力を送ることは大前提であるが、現地の状態を見なければなんともならないし、実際問題これが北日本が遠方に展開できる戦力の限界でもあった。

 

 彼女は、この日久しぶりの休暇を取って職場にほど近い旭川市内を探索していた。

彼女は、ここ4ヶ月ほど職場に通い詰めであり、漸く溜まりに溜まった有給の消費と戦時特別増加分によって幾ばくか厚くなった財布を持って市内を歩いていた。

しかし、彼女は自身が働き詰めであった間に市街の装いが大分変化してしまったことに気がつく。

高度に整備された計画都市に高層ビルが立ち並び、日本人民鉄道の旭川中央駅を起点に整備されている複合商業施設。

それらは、北日本の施政権下の北海道では一番の人口である150万人規模の人口を快適に生活させるのに足る規模であり、その活気も独特な装いを見せていた筈であった。

(なにせ、これ以上の規模の都市は、国内でも豊原と大泊しかないのだ。)

 しかし、現在の旭川は、経済的な混乱からかどこの店も閉まっており、開いている幾つかの店の前には生活消耗品を求める市民の長蛇の列が見かけられた。

普段は活気のある公園や商業施設に人気はなく、その代わりに軍の部隊が各所に配備されていた。

転移直後の国境地帯の悲劇に対する反省や経済不安による治安悪化を懸念する治安維持機関の要請もあり、駅や役所、インフラ機関などの重要施設には戦車や装甲車を含む部隊と完全武装した軍の兵士たちが展開していた。

緒戦で大損害を被った人民警察も、防弾チョッキにAKやショットガンを持って町中を警戒している。

彼女は仕方がなく官舎に戻り暇を潰すことにする。なにせ、街に出ても何もすることがないのだ。


 北日本経済は、企業や行政機関の必死の努力にも関わらず徐々に麻痺状態に陥っていた。

経済活動に必要とする資源不足や、リサイクル技術の遅れやIT技術の発達による「効率化」の影響から在庫や人員などの余剰が減少している事も経済の麻痺に拍車をかけていた。

自由に使える市場がボヘミアだけでは足りず、各国との貿易だけではカンフル剤にしかならず大量に出た失業者の穴埋めにも出来なかった。

文明圏各国との貿易が大幅に黒字だとしても、北日本の産業にとって良い影響は少なかった。

自国の総生産の7割を海外との貿易によって得ていたことの影響は巨大すぎた。

北日本経済は高度技術で構成された民需品や軍需製品の輸出が主産業であることを考えれば尚更だった。北日本経済の壊滅的な現状に、戦争指導会議では全面戦争による各国の制圧と移民によっての経済環境の改善が真剣に検討されていた程だ。

仮に貿易や資源確保の面でなにか躓いていた場合、全面戦争は北日本から始めることになっただろう。

この時期の北日本はまさにそういった綱渡りの状態だったのだ。


※1 1972年に、中華人民共和国(以下中華)と朝鮮民主主義人民共和国(以下朝鮮)との間で起こった核戦争の事。

自国をある意味孤立させてまで行われた壮大な権力闘争(=文化大革命)が中華全土で起こる中、中華軍の一部過激派や、紅衛兵が「正当な領土の復活」を旗印に朝鮮国境に押し寄せるも、朝鮮人民軍がそれを撃滅。その後に行われた暴走した中華軍の核攻撃によってソウルを始めとする主要都市は壊滅。

偶然ソウルを離れていた金日成首相を除く、朝鮮側の首脳部と官僚組織は壊滅。

その後、朝鮮の報復核攻撃(ソ連が供与した水爆も使用されたと言われている。)によって北京及び中華の主要都市は消滅。中華政府は元から文革によって弱体化していたこともあり消滅。

中央政府の消滅に合わせてソ連軍と朝鮮人民軍が満州に進駐を開始。

制圧した満州において、朝鮮は中華に対する緩衝国である満州人民共和国を建国。また、ソ連は東トルキスタンや内蒙古に軍を派遣して中華に対する自国の緩衝国とした。

海南島に篭っていた国民党政府は米華相互防衛条約に基づいて、米軍と共に各地に展開を開始するも、大量に存在する難民や、各地に生き残っている共産党や軍閥との戦闘により勢力回復は遅々として進まず。

同様に大量の難民が台湾や沖縄に押し寄せた日本では、台湾対岸の福建に各国と共同で治安維持を目的に進出。後に、現地に残存していた政府組織や軍閥を政府とする福建共和国が建国される事になる。

中華地域は最終的には大きな幾つかの政治組織と雑多な小勢力に分裂することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ