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ある共産主義国家の記録  作者: HTTK
ワーストコンタクト
17/42

エピローグ 勇者の誕生

 始まりは唐突だった。

占領開始から一週間程が立った後から北日本に協力していた行政機関の役人や、教会の重要人物が何人か行方不明になり農村地域で神のお告げを聞いたというものが何人か現れ始めた。

 そして、蜂起の数日前には各地で勇者を名乗る人物と、神を名乗る「光」が現れてボヘミア王国内で北日本に対する聖戦を布告したのだ。


 それを合図としてそれまで従順だった農民達は勇者や宗教の司祭を指導者として各地で反乱を起こし始めた。

初めは誰しも楽観していた。しかし、鎮圧に向かったボヘミア人民軍の幾つかの部隊が撃退されると共に反乱に参加する事で事態は急変。

首都ベーメンでも蜂起した市民や人民軍の一部により騒乱が起こり、事態を重く見たボヘミア駐留軍※1は軍政を布告。

反乱勢力とその首謀者の殲滅を駐留軍各部隊と指揮下にあるボヘミア人民軍に命令する。

また、王国人民政府も共和国軍最高軍事会議の「要請」に従って反乱勢力の撃滅に協力する旨の布告を出す。

幸いにも、北日本が開発を行っている地域ではそもそも王国民自体が殆ど追い出されていることから北日本の民間人には人的にも物的にも殆ど損害は生じなかった。

しかし、軍部隊は「勇者」との戦闘である程度の損害を出すことになった。

なにせ、ボヘミア人民軍は旧式装備とはいえ近代的な武装を供与されているうえに、指揮官や教官には北日本軍からの出向者も居るのだ。

彼らは、反乱を起こした部隊の凶刃に倒れた。

 また、農業技術者や商社で働いていた民間人も被害にあっていた。

彼らは、既存の農村において技術指導と作物の買付及び器具の販売を行っていたのだ。


 4月3日 北日本 開拓地域※2

 担当地域で起こった反乱(彼らの実情を鑑みれば「一揆」が正しいのだろうか)はまたたく間にその規模を拡大し、国防軍部隊は各地に分散されていることも合わせて制圧に四苦八苦していた。

鎮圧を命令された国防軍も初めは楽観視していた。

相手は精々が刀剣類で武装する農民だと思い、四苦八苦する内容も開発区域の損害をどうやって押さえるかが主眼だったからだ。

しかし、国防軍のBTRを吹き飛ばす威力を有する「勇者」が各地に現れたことで自体は一変する。

国防軍大隊が保有する最大威力の砲である82mm迫撃砲では勇者の防御結界を破れず、勇者の魔法は装甲車をあっけなく吹き飛ばした。

一度など、村落を制圧中の歩兵小隊が勇者の魔法で吹き飛ばされ壊滅していた。

国防軍の手に余る事態になったことを受けて、ボヘミア駐留軍全軍が制圧に駆り出される事になる。


 連隊所属のT72J改に敵の魔法が直撃してT72が火に包まれるも、装備された最新の複合装甲のお陰か、敵の魔法の直撃に耐えつつ125mm砲を敵に放つ。

 南日本や米国の第三世代主力戦車と戦うべく改良がなされ続けている第二世代戦車のT72J改は、防御においては車体にロシア本国のT72B3と同等の装甲材を使用し、ライセンス生産したコンタークト5を装着させている。

おまけに、アクティブ防護システムとして豊原重工製のアリーナ改が搭載されているのだ。

欠点としては、爆発の影響で付近にいる歩兵を死傷させかねない事だが、今回に関してはそれは問題ない。

何故ならば、勇者相手に歩兵部隊を遣ることによる損害の大きさは、国防軍と人民軍が序盤で示したのだから。

軍は、勇者を装甲車両と同視する事を決めたのだ。

(国防軍と人民軍の損害の大きさは、練度の差、油断や陸軍と保有している装備の違い、想定の違いもあった。)

 そして、T72の砲撃と連動して、後方で待機していた連隊砲兵の155mm自走砲が援護射撃を行い、防御結界を破る。その隙に、T72の125mm砲が勇者とその周りに居る農民を丸ごと吹き飛ばす。

が、周りに隠れていた勇者の集中攻撃がT72に直撃し、T72が装備していた爆発反応装甲を吹き飛ばす。

そして、不運にも一発が上方からT72に直撃し火が砲塔から吹き上がる。

「戦車が一台やられたぞ!」

T72の生き残った乗員が味方の方へ走ろうとするも、後ろからの弓矢に妨害され移動できない。

「連隊本部に連絡、支援射撃を要請しろ!戦車が一台やられた!」

そう陣頭指揮を取る大隊長が命令する中、戦車の後ろに居たBMP3が持ちうる武装を随伴歩兵と共に放ちつつ、戦車兵の救出に向かう。

「全部隊、BMPを援護しろ!」

大隊長の命令に従って大隊に所属するBMPと随伴歩兵が、一斉に武装を林に隠れる勇者に向かって発砲する。

なんであいつら対戦車戦闘の方法を知っているんだ?

大隊長はそう一瞬感じるも、戦闘の指揮に集中する。

 

 結局、各地で蜂起した反乱勢力は北日本軍の全力攻撃を受け、蜂起開始から3日以内に壊滅。

勇者と名乗る人物は全員戦死した。

この事件の直後に作られた統計では、この蜂起に参加した人民約1万人の内5千人が死亡。

残る4千人近くは降伏後、各地に設けられた労働収容所に送られる事になる。

行方不明者は千人程。北日本は軍用車両30両ほどと、約100名の死者とその数倍の負傷者を出して反乱鎮圧に成功した。


 この事態を重く見た北日本は反乱防止を口実に、現地の教会勢力を完全に粛清。

合わせて人口統計の策定や、国民監視システムの早期導入、人民軍内部の監視強化を行う事を決定する。

更にボヘミア王国側に責任を取らせ国王の変更が行われ、北日本政府の指導のもとどこの骨とも知れない者が新国王に即位し、即位当日にロマリア連合王国との安全保障条約の破棄の裁可を行う。

 これに対し、ロマリアの大使館は沈黙を守った。

彼ら自身、北日本の妨害工作によって何があったのかの情報の把握が出来なかった事もあるが、王都ベーメンで蜂起したボヘミア人民軍の一部部隊と何人かの勇者は、市街戦を繰り広げた後に、王都に駐留していた機械化旅団とヘリ部隊の容赦のない攻撃により呆気なく全滅。

大使館と何らかの接触を取る前に、反乱を鎮圧してしまったのだ。


 勇者とは、この世界では「危機に際して現れる者」を意味する。

この世界の史書には、勇者は人族とは限らず、数多の種族と地域から出現するものであるらしかった。

その能力は一騎当千であり、勇者とされた者は正義を愛する人物が多いらしい。

この場合の正義とは、この史書を書くものにとっての正義であることは留意する必要がある。

この世界では「神」とされる存在が複数かつ物理的な存在として実在している。

それ故に、地球世界と比べて「宗教」に対する扱いはまるで違っていた。

人間にとって超越した力を有する神が実在している以上、世俗勢力(貴族や国王等もこれに含まれる。)と教会勢力の対立では教会勢力が有利になる。


 故に、神の存在を疑問視する勢力や、既存の神ではなく新しい神を崇める勢力はおろか、既存の教会勢力に異議を申し立てた者達も、「悪魔」や「邪教徒」として地球以上に血生臭く排斥されているのだ。

無論、この世界の人類は決して野蛮人ではない。

法も、学習する能力も存在する。

この世界の列強においてはどのような階級であっても人を殺したものには罰が与えられるし、やむを得ない場合は罪を赦される場合もある。


 しかし、こと宗教に関しては彼らの価値観は異なったものへと変化する。

相対的な物の見方から、ある種の絶対的なものの見方へと変化するのだ。

わかりやすい例として、先ほど出た殺人を例にあげよう。

彼らは、「同じ神を信ずるもの」の中では殺人を、更に言うならば生命そのものを社会や家族等と比較しながら相対的に考える。

しかし、殺人が異教徒となると彼らの価値観は「神」という絶対的なものの見方になり殺人が正当化されるのだ。

故に、列強と呼ばれる国家でも、異教徒の敵国との戦争ではその性質が殲滅戦に変化しやすい。

(異教徒どころか異世界で、一般に召喚獣扱いされている北日本の場合は推して知るべし。)

ただし、列強の場合は、戦争は外交の一手段という考えがあり、戦争の「ルール」もそれなりに洗練されている場合が多い。

しかし、彼らの価値観の根本は未だ正対不正(神を信ずる我ら VS 別の神を信じる邪教徒or神を信じない悪魔。)で、正は何をしてもいいのだ。

例えるなら庭のりんごを取ろうとしている子供に対して、ショットガンを持った老人がその子を射殺しても許されるのがこの世界である。


 そして、北日本はその事にまるで気がついていないか理解できなかった。

神が実在していることの影響力がわからなかったし、わかるつもりがなかった。

自国の信ずる宗教を国教に制定するよう求める各国に対して北日本政府が後に送った書簡では、このように説明されていた。

「我が国の最高法規である日本人民共和国社会主義憲法前文では、主権者は共和国人民であると示されている。また、憲法条文が示す通り、我が国では公共の福祉に反しない限り信教の自由が保障されており、国政に対する最高決定権を有するのは有権者たる人民であるとされている。故に、憲法改正の発議がなされない限りそのような要請に政府が応えることは出来ない。」


 このような返信をしている以上、そう遠くない将来に北日本は勇者の存在がないとしても自国の存在を賭けてこの世界の各国と衝突に至ったであろう。

しかし、現実は違った。

勇者の出現と神の意思(教会や世俗勢力等の既存組織も含む)は、北日本をより早期に滅ぼすように動いていたのだから。



※1 ボヘミア駐留軍の編成は以下の通り(2015年4月当時)

陸軍

第四機械化歩兵師団

第102機械化歩兵旅団

第114ヘリ旅団

国防軍

3個警備大隊

海軍

第二海軍歩兵旅団


ボヘミア人民軍(定数3000人)

3個歩兵連隊

1個近衛大隊

1個飛行隊

1個艦隊


※2 開拓地域は、主に元いた農村を追い出されたボヘミア王国人の新しい農地として設置された。

ボヘミア王国の「人民公社」の指導によって北日本の進んだ農業技術が導入されることにより、反乱があったにも関わらず収穫高は急激な向上を見せることになる。

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