作戦名「南部演習作戦」
転移時の北日本陸軍は10個師団、6個旅団を中核とする20万人程度の人員で構成されていた。
これらの師団はソ連式編制を取り、完全機械化がなされた部隊である。
北海道本島には2個戦車師団、3個機械化歩兵師団、1個空挺師団、2個ヘリ旅団、一個機械化旅団の合計6個師団、3個旅団が配置されており、有事には樺太本島と千島列島から増援を得た上で南日本の北部方面軍4個師団と戦闘を行う手筈になっていた。
2015年 1月16日 旭川 第二軍司令部
「今回の作戦は、北海道解放作戦計画「暴風」を流用したものになります。」
そういって参謀の一人が説明を続ける。
今回の作戦にて動員される部隊は、在北海道部隊の内の4個師団と1個旅団である。
本来の「暴風」では作戦開始24時間前に樺太本島と千島列島から戦闘部隊の移動を完了させ、作戦開始と同時に空海の支援を受けつつ一気に函館を目指して南進する手はずになっていた。即ち、北日本軍の全作戦部隊である10個師団、6個旅団で函館に突進する作戦であった。
作戦終了期間は予定では1ヶ月。
また、戦争が長期化した場合には戦闘開始3ヶ月で第一次戦時動員師団10個、6ヶ月で15個の戦時動員師団を戦場に送り込む事になっている。
しかし、今回の作戦は迅速性が要求される事から少ない兵力で可能な限り迅速に「進駐」を行う必要があった。
……また、初戦で弾薬を大量に消耗したことも参加兵力の数を制限せざるを得ないものにしていた。
今回の作戦は極めて単純な内容だった。
要約すると「敵領土及び首都の迅速な制圧と、国王の身柄の確保」となる。
作戦自体は、敵が極めて貧弱な防衛能力しか有していないことなどからすると、簡単に達成できるものとされた。
……無論、核兵器の安易な使用は認められなかった。
なにせ、戦後にはボヘミア王国は我が国の食料庫になる予定なのだ。誰しもガイガーカウンターの鳴る牛肉を食べたくはなかった。
……参謀の発言が続く。
航空偵察によると、敵国の大きさは転移前の北海道と同程度の大きさで、首都は旭川から南に100キロ程の位置に存在する。
そうして配られた航空偵察の地図には、鬱蒼とした森林地帯とその合間にある粗末な街道と幾つかの村々、その先には開けた平原地帯と敵の首都が存在していた。
(その先には、海と港町らしきものと幾つかの漁村が確認できた。)
敵国の人口は記録では50万人、推定戦力は飛竜部隊凡そ100騎、戦闘魔道士1000名程(魔法を使える一般人の数は人口の1/10程と言われているらしかった。)、その他歩兵3000名。
脅威となりそうな艦船は確認されていなかった。
(これは当然だろう、なにせ木造の小型船舶なのだから)
今回の作戦は大まかに言えば下記のようになる。
陸軍は森林地帯を突破し、敵対戦力を撃破しつつ王都と周辺部を制圧する。
陸軍の突破と同時に海軍が制海権を確保、海軍歩兵が港町を制圧し、敵の余剰戦力を吸引。
また、それに先立ち空挺師団が空軍の援護のもとで王都郊外に降下し王都の攻略と国王の身柄の確保を行う。
そして王都を制圧し、国王を確保して「城下の盟」を誓わせる。
以上を3日から一週間で行う。
敵が防衛戦という状況を考慮し、かつ傭兵もいれて精々4000名程度の戦力であることを鑑みれば問題がないようにも見えるが、魔法や竜や空飛ぶ船という未知の要素が参加兵力※1を巨大なものにしていた。
なにせ、手榴弾やライフルと同様の殺傷力を有する武器を保持しているゲリラ候補が数万人単位で存在しているのだ。
後方地域には国防軍の3個大隊が動員される予定だが、占領地でゲリラ戦をされればそれだけでは足りないのは火を見るより明らかだった。
……師団長の一人が手を挙げて発言する。
「敵の配置についてはどうなのだ?」
「敵の配置については、以下の映像をご覧ください。」
参謀が手元の端末を操作し、敵の配置が記載された画像を映し出す。
「敵の兵制に関しては未だ不明な点が多いですが、捕虜の記述を鑑みるに、地球における西欧の封建制に似ている軍事制度を採用しています。」
ボヘミア王国の兵制は、地球における中世西欧のそれとおおまかな点で違いがない。
つまり、国王が諸侯の土地を防衛する代わりに諸侯が兵役と忠誠を提供するという一種の契約関係である。
しかし、唯一違う点として挙げられるのは飛行生命体と魔道士に関してである。
諸侯においてはそれらの兵力の領有は厳しく制限されており、飛行戦力と魔道士に関しては国が常備軍として囲い込んでいた。
それ以外は、彼らは地球世界の中世と変わらぬ世界を過ごしていると共に、自領に引きこもっているのだ。
故に、である。「つまり、彼ら自ら各個撃破を選択していると?」
師団長の一人がそう疑問を発すると、参謀はそれに首肯する。
そう、彼らは諸侯なのである。国家の安寧よりも自身の領地を守る事を優先し、全体的な経済的な利益よりも個人的なそれを優先する典型的な領主なのだ。
「今回の作戦において脅威なのは、飛行戦力と魔道士部隊のみです。それ以外の部隊は、剣と槍で武装した兵力であり、実質的な戦力価値は殆ど存在しません。」参謀はそう言って続ける。
「また、かの国の王都には我が国の市民と勇敢な兵士たちが捕虜として収監されているという情報も入っています。条約も締結された今、我が国としては早急に捕虜を保護する必要があるかと。」
参謀がそう言った後、末席に座っていた国防軍の佐官から質問がでる。
「仮に、かの国の国王が何処かへ逃げ去るないし死亡してしまった場合はどうするのです?我が国にはベトナムやイラクを繰り返す余裕などありません。」
「その場合、政府はどこかの諸侯か生き残った王族を立ててボヘミア王国の継承をさせるようです。……我が国の武力を諸侯は見ている筈です。ベトナムやイラクの様になる可能性は少ないかと。」
ーーそれに、50万人程度なら完全な制圧が可能ーー
会議では言わなかったものの、上層部ではかの国の傀儡政権樹立についての効率的な方策を各研究機関にも探らせているとの情報は耳に挟んでいた。
2015年 1月18日 ボヘミア王国 王城
この数日で10年ほど老けたのではないかというやつれ方をしている国王と重臣は、先ほどのロマリア王国の使者が伝えたメッセージーーロマリア王国の全兵力と民間人の避難の完了ーーについての会議を行っていた。
「陛下、ロマリア王国は我が国を見捨てました。また、聖地の崩壊の混乱で教会にも我が国を支援する余力はないようです。」
その報告に国王は内心の怒りーーあれだけ寄進させておいて、いざというときは何もしないーーを抑えつつ王国大将軍を見て下問する。
「我が軍の単独での防衛は可能か?」
王の下問に、王国大将軍は屈辱に震えながら応える。
「国王陛下の軍隊はおろか、諸侯の保有する魔導兵部隊は先の戦いで殆ど撃破されました。航空兵力も、かの国の空襲により完全に消え去りました。……軍の単独では抑えることが極めて難しいかと愚考します。」
外務大臣も、それに合わせて発言する。
「ロマリアの軍隊を破った精強かつ分別を伴わない残虐な軍隊※2に対し、我が国は無防備も同然です。彼らに対し降伏を申し出るしかないと。……最早、彼らの慈悲に縋るしかないかと愚考します。」
国王は、潰れそうな声で発言した。
「残念だが致し方あるまい、北日本に対して降伏の意思を伝える。降伏の使者を出そう。」
そう彼らは決断した、しかしその決断は少し遅かった。
閣議に突如入ってきた衛兵が報告する。
「王都上空に敵機多数接近!」
彼らが降伏を決意したその時、北日本軍の作戦が開始され、大量の空軍機に護衛された空挺部隊が王都に降下を始めたのだから。
※1「南部演習作戦」参加兵力
航空部隊
第二航空軍
第六航空師団
第三航空師団
第3001輸送飛行連隊
第3002輸送飛行連隊
陸上部隊
第二軍
第三戦車師団
第二機械化歩兵師団、第四機械化歩兵師団
第一空挺師団
第114ヘリ旅団
国防軍
北海道軍管区 3個後方警備大隊
海軍
第2海軍歩兵旅団(輸送艦隊に分乗)
海上部隊
第二艦隊(択捉島駐留)
航空戦隊
原子力空母1隻、駆逐艦2隻、フリゲート艦1隻。
洋上打撃戦隊
戦艦1隻、重巡1隻、フリゲート艦2隻。
潜水艦隊
デルタ級弾道弾搭載型原子力潜水艦1隻
ラーダ級潜水艦2隻
海軍直属
輸送艦隊
強襲揚陸艦2隻(洋上打撃戦隊に付随)
この作戦に参加する戦力は、陸軍は北海道駐留兵力の約半数、海軍はその総兵力の1/3が参加している。
空軍は北海道全域を担当する第二航空軍の全戦力が参加している。第二航空軍は、傘下に戦闘機86機、戦闘攻撃機73機、攻撃機14機を保有している。
※2 核攻撃による貴族や平民の区別なく行われた攻撃に対しての彼らの感想。




